あすか「それだったら、とびっきりいい話があるよ。テレビで見たんだけど。10本のうち7本しか指が動かないけど素晴らしい演奏をするピアニストがいてね。アメリカ在学中、寝ているところを泥棒に入られた。鍵をかけ忘れたんだ」
あすか「泥棒は黒人だった。あれこれ物色してるうち、泥棒はぼそっと言った。『いいよなお前は。オレは生まれてから教育も受けたことも愛されたこともない。貧乏だった。何も買ってもらえなかった。誕生日さえ祝ってもらったことがない。今日がその誕生日だが、いつもと変わりない』」
ツヨシ「……」
あすか「ピアニストは『そうか、今日はきみの誕生日なんだね。じゃあ、バースデーソングを弾いてあげよう.これからパーティーだ!』と、泥棒にお茶を振る舞い、ピアノに向かった。かれはバースデーソングだけじゃなくて、他にもたくさん魅力的な曲を弾いた。すると、朝が来るか来ない頃に、泥棒は突然泣き出した。 『おれのためにバースデーソングを弾いてくれるのか。おれは幸せだ』ピアニストは泥棒に、『その辺にあるもの、気に入ったら何でも持っていっていいよ』と言ったが、泥棒は『要らねえ.何も要らねえ.こんな嬉しい誕生日は初めてだ。じゃあな。ドアのカギはしっかりかけておけよ』と言って立ち上がって去って行った」
ツヨシ「……」
あすか「真心の籠もった音楽には、人の心を動かす力があるんだ」
ツヨシ「ぼくはみじめだよ。ウィルス禍でコンサートも開けないしピアノ教師の口もない。この家に厄介になって家賃も払えない。とてもみじめだ」
あすか「でも、私達のためにピアノ弾いてくれるじゃないか。犬たちだって君を癒やしてくれるし、君はこれ以上何を望む?」
ツヨシ「ぼくはコンサート開きたいんだ。あすかっちが話してくれたピアニストみたいに人の心を癒やしたい。それが現実は犬に癒やされてるていたらくだ」
ツヨシ「ぼくは犬に癒やされたくなんかない!」
あすか「ツヨシくん」
ツヨシ「……」
あすか「ツヨシくん……」
後編へ続く。
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プライドのオバケですな、この男は。
情けない気持ちは分かりますが、やつあたりしてどうなるもんでもないですな。
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