あすか「えー?小説の内容全然違うものに書き直し?なんでボツ?」
ナタリーさん「編集長の急な方向転換だから、あすかっちのせいじゃないんだけどさ、今回の小説、文壇的にも読者的にもウケないだろうって…離島の農家に実習生として入ってきたアジア人が、低賃金と休日の退屈さにうんざりして、本土に逃げてそれっきり姿をくらまして…って地味なのよ。特に虐待されていたわけでもないし、実習生の身勝手みたいに書かれているから、借金背負って技術を覚えたいって研修生になったのに悪徳ブローカーにだまされて除染作業をさせられていた気の毒な外国人の話みたく極端なものに変えてほしいって編集長が。だけどあすかっちの立場でそれを書くとまずいのよね?」
あすか「今から?無理だよ!私が外国人看護師さんの子のベビーシッターやってたの知ってるでしょ!大変だったんだから!それにその看護師さんとこの病院は待遇悪くなかったよ?」
ナタリーさん「この手の話は微妙な問題なのよね。それじゃ読者は喜ばないのよ。どうせなら低賃金で差別されてそれでも故郷の家族のためにがんばるってかんじで、そして自分は騙されていたと知って支援団体に駆け込むっていう話書いてくんない?実際、そういう例あったから」
ナタリーさん「もし書き直してくれたら最初の原稿は文庫に収録してあげるから。読者は分かりやすい悪者や分かりやすい被害者を求めているわけだし、うちの雑誌のいまの方針に合ってるのよ」
あすか「ナタリーさん、それは被害に遭った本人に取材しないとダメだよ。軽い気持ちでそんなの書いたら付け焼き刃だ。全部違う話に差し替えるよ」
ナタリーさん「できる?」
あすか「やってみないと分からない。なんのテーマがいい?」
ナタリーさん「じゃあ、中学生らしいテーマで、『いじめ』で一本書いて」
あすか「うちの学校『いじめ』ないよー!小学生の時のしか書けないよ」
ナタリーさん「構わないわ。なんか思いつく?」
あすか「やってみる」
あすか「気が散るから後ろに立たないでくれる?」
ナタリーさん「うわ、ドロッドロ~!これは分かりやすいわ。分かりやすいけど痛~い」
あすか「もうこれ以上のものは書けない。燃え尽きた」
ナタリーさん「じゃ、データ化よろしく」
雑誌が出た後で。
ナタリーさん「今回のは読者ウケよかったわよ。『イジメから庇ってあげた男子から裏切られるシーンがグサッときました』『もし私が主人公の立場だったらとても生きていられません』ってメールいっぱい来たわ。単行本になるにはページ足りないから最初に書いたやつ同時収録しましょ。これで最初の努力は報われたわね」
あすか「そっか。これで心置きなく学校の勉強に集中できるよ」
ナタリーさん「で、急で悪いんだけど『風と共に去りぬ』の書評書いてくれない?中学生の目から見たー」
あすか「それ、せっかく書いてもお蔵入りになると思うよ。差別問題が絡んでくる仕事はもう一切お断りする。日本だっていずれいろんな人種の、いろんな民族の国になるさ。そしたら『風と共に去りぬ』は日本でも発禁だ」
ナタリーさん「えー、まさか」
あすか「なんだかこの作家って稼業はブラックというか…悪徳ブローカーにこき使われてる外国人の気持ち…ってこんなかんじだろうか」
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だけど、文壇では最初に書いたほうが好評価でした。ちゃんちゃん。
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今日は重い話です。本来「お人形」で扱うには微妙な話です。反応がなければこの話そのものがボツになることもあります。
離島の農家は外国人研修生を雇っていますが、離島は都会に比べて賃金が少ないことは皆さんご存じですよね。
ですからせっかく外国人労働者を雇っても、都会の華やかな生活をしている仲間たちと携帯電話で連絡を取りあっているうち、「もっと楽しくてたくさんお金がもらえる仕事がしたい!」と、突然失踪してしまうことも数多くあるのです。労働力が足りないなら外国人を安く働かせることができるという考えは甘い。
農業はつらい仕事ですが、都会でもらえる額と同じ額の給料を離島で支払ったらそこの農家は潰れてしまいます。外国人労働者は技術を覚えたいと最初は思っていますが、結局、数多くが休日を楽しく過ごせる都会へ流れてしまうのです。しかも契約期間をたっぷり残したまま。
もちろん、日本で仕事を覚えたいという目的を持って、ブローカーと契約するため多額の借金をして手数料を払い、日本に来たはいいけれどブローカーも雇い主もブラックで、危険な仕事をさせられ、何の技術も身につけられないまま極端な低賃金で仕送りどころか借金を返し続ける奴隷のような毎日、という残念なケースは多々あります。
外国人労働者と聞くとそういう気の毒なケースばかりクローズアップされがちですが、そうでない、日本に失踪しに来るために使う抜け道として利用される雇い主もいるのです。
今回あすかっちが最初に書いた原稿は雇い主側に同情的な内容だったため、ボツになってしまいましたが、作家も読者が義憤を満足させたいという欲求に応えているだけでは、何も解決しませんよね。
本来ならここで「小説で涙を流すより自分の頭で考えろ」というところですが、残念ながら自分の頭で判断したらこの国では生きづらくなるでしょう。なにかしたいなら支援団体などで働くのがベターかと。
残念です。小説もまた、「商品」なのです。
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