開催国の優勝で幕を閉じたアジアカップ
初優勝の豪州が"黄金時代"を築くのか?
1月9日に開幕したアジアカップ2015オーストラリア(以下、豪州)大会は開催国・豪州がアジアサッカー連盟転籍後3回目の出場での初優勝で華々しく幕を閉じました。開催国の優勝は1992年の日本以来。日本もその優勝が初めて。以来、日本は6大会で4度の優勝を果たしました。大会前の展望でも触れましたが、1度優勝すると黄金時代を築くことになる傾向があるのがアジアカップ(下記表参照)。特に今大会では若い選手が躍動した豪州がそうなる可能性も大きいと言えます。
🏆アジアカップ歴代優勝国🏆 | |||
開催年 | 🏆優勝国🏆 | 開催年 | 🏆優勝国🏆 |
1956 | 韓国 | 1988 | サウジアラビア |
1960 | 韓国 | 1992 | 日本 |
1964 | イスラエル | 1996 | サウジアラビア |
1968 | イラン | 2000 | 日本 |
1972 | イラン | 2004 | 日本 |
1976 | イラン | 2007 | イラク |
1980 | クウェート | 2011 | 日本 |
1984 | サウジアラビア | 2015 | 豪州 |
ヒロゴラでは日本代表の敗退後も、世代交代に成功した国々が躍進する今大会を興味深いと捉えて書き綴って来ました。最終回となる今回は大会のベストイレブン、ベストゲーム、読者の皆様からアンケートを集計したMVPの選出などを通して、今大会を最終総括したいと思います。
【大会ベストゲーム】質量ともに申し分なしの壮絶な決勝
大会ベストゲームは異論なく決勝の韓国VS豪州でしょう。両国共に集中力や緊張感だけでなく、リスクを冒す部分は勝負していたし、時間帯ごとに変化するゲームプランも"生きた"ゲームであると実感させてくれる迫力が伴っていました。3週間で6試合目となる両チームに負傷者や痙攣を起こす選手が多発し、最後は肉弾戦のようにもなっていたのもリアルで壮絶な戦いを象徴していました。開催国が優勝したのもニュートラルな目線で観る日本人のサッカーファンにとっても良かったと思います。
次点としては日本VSヨルダンを挙げておきたいと思います。ゲーム内容、監督采配、追加点を武藤嘉紀がアシストして香川真司が決めるという演出的にも文句なしでした。(これがUAE戦の消耗の理由のかもしれませんが・・って35本シュート打てるぐらいだから疲労は遠因だとは思いますが・・)
そんな決勝のマッチレポートはヒロゴラのバックナンバーでご確認下さい。
「決勝レビュー~韓国VS豪州~アジアは確かに進化していた」
http://ameblo.jp/venger/entry-11984251561.html
そして注目のベストイレブンですが、今回はなるべく多くの国から選出したいと考えていたので、決勝前に選出したベストイレブンからは4名変更しました。また、ポジション毎に大会を通してアジア全体の傾向として必要だった事なども交えて寸評を添えましたのでご覧下さい。(寸評が長くて飛ばしたい方は下にフォーメーション図で表記しております。)
【ヒロゴラ的アジア杯ベストイレブン】
守備陣は堅守・韓国中心
攻守の要には不動の主将
優勝・豪州からMVP含め3選手
【GK】アジアにもリベロ型GKが台頭
純粋な能力的には豪州のマシュー・ライアンかオマーンのアリ・アルハブシがアジア最高の守護神だと思いますが、決勝まで無失点を続けていた韓国の守護神であり、J2リーグ・セレッソ大阪所属のキム・ジンヒョンを選出。順風満帆な戦いをしていたわけではない韓国が無失点を貫いているのはチーム全体の守備意識の浸透があってこそ。しかし、体調不良で1試合は欠場しながらも度重なる決定機を防いできたジンヒョンの存在抜きには語れません。
GKの傾向としては、決勝のジンヒョンとライアンに代表されるように、どんどんぺナルティエリア外でも飛び出していく"リベロ型GK"がアジアにも必要になってきたように感じます。特に豪州にはマーク・シュウォーツァーというイングランドで大活躍してきたベテランGKが引退したと同時に、台頭してきたライアンにはこの傾向が強く、現代型のGKとして実力を伴った世代交代の成功例がサッカーの時代の流れにも沿った好例だと思います。大会オフィシャルでの"最優秀GK"を受賞したライアンを次点にしたいと思います。
CBには、攻撃的なサッカーを披露している優勝した豪州の後方を支えたトレント・セインズベリー(写真)が1番手。攻撃志向が強く前がかりになるチームには的確なビルドアップ能力はもちろん、読みが鋭く、1対1を"個"で奪えるDFがいないと成立しません。彼はそれを高次元で成し遂げており、近い将来のビッグクラブ候補生と言えるかもしれません。今大会前まではキャップ数僅か4試合の23歳の若手ですが、すでにオランダのズヴォレ(昨季国内カップ優勝)でプレー。アーセナルのフランス代表DFローラン・コシールニーに似ており、速さにも高さにも強さを発揮できる稀少価値の高いDFです。180cmと欧州では小さい部類になるので、そこが危惧されますが、今大会も全試合フル出場中とタフな選手。セットプレーからの得点源にもなれるので、壮絶な試合展開になった決勝でも見事に存在感を見せ、見事に決勝のプレイヤー・オブ・ザ・マッチに選出されました。日本が育成すべきCBの理想像と言えるでしょう。
CB2番手には5試合連続無失点の守備陣を統率した韓国のカク・テヒ。フィジカルが強いイラクの"若きDFリーダー"イブラヒムも前へ強いので次点に選出しましたが、パワープレー時の得点源としての活躍、周囲を動かせる統率力で韓国のDFリーダーに軍配。Jリーグでプレーしている時から凄かったですが、韓国代表のユニフォームを着てると迫力が違います。
右SBは、3位決定戦で得点も記録したイラクのサリム。長い距離を走り切れたり、攻撃の組み立てに関わったり、内側への攻撃参加でフィニッシュに直接絡める点に大きなポテンシャルを感じさせるため、印象的な活躍が光った韓国の34歳の右SBチャ・ドゥリよりも可能性を取りました。
左SBにもイラクから果敢なドリブル突破が光った19歳のイスマイルを選出。ミスも多かったですが、それ以上に積極的に向かっていく姿勢が止まらない精神的な強さも感じさせました。リスク回避する戦いを選択する試合もあったイラクで、彼だけが突破口を切り拓いていたと思います。
SBの次点にはキム・ジンス。サイド攻撃やセットプレーのキッカーとして彼の左足は大きな武器。アルビレックス新潟の昨季後半の失速の原因を象徴するかのような高いパフォーマンスを披露しまてくれました。
公式大会MVP、今大会のプリマドンナで魅惑のトリオ
MFは負傷で2試合を欠場した豪州の主将ミレ・ジェディナックは次点。選出したのは日本の主将・長谷部誠。短期間でハビエル・アギーレ新監督の意図を理解した事や、その監督の八百長疑惑の中で動揺を誘うマスコミ相手に彼の存在は大きかったはず。もちろん、ピッチ上のリスク管理も的確。後方からのビルドアップが整理されて今までの日本代表よりも縦パスが通りやすくなっている事や、2次攻撃を仕掛けたり、相手のカウンターの芽を摘んだりするセカンドボールの回収を彼が幾度となくこなした事が、日本の全試合ボール支配率60%超えを支えたと言えるはず。実は、日本代表には遠藤保仁の後継者よりも、長谷部の後継者の方がいない。2008年1月に長谷部が退団した後、浦和レッズが2007年のACLを最後に無冠が続くのは彼の偉大さを象徴している。所属クラブでもアンカーを任され、新たなプレースタイルを開拓し始め、30歳を過ぎても成長し続けている。
もう1人は大会の公式MVP選出の豪州のマッシモ・ルオンゴ(写真)。決勝の後方からの縦パスを柔軟なトラップから強烈なミドルシュートを決める一連のボールタッチの優雅さにはウットリさせられます。プレーエリア的には右サイドに開いてスぺ―スを作り、クルーゼやレッキーと絡んでドリブルや豊富な運動量で流動的な攻撃を施していました。それだけに主役キャラではないかもしれませんが、決勝の先制点含む2得点4アシストという記録と公式MVP選出は無視できません。
【FW】個性的な攻撃陣が少ないアジア
少しずつ興味深いタレントが台頭中
そしてトップ下は大会最多タイの4アシストを記録した「今大会唯一のファンタジスタ」と言えるUAEのオマル・アブドゥルラフマン(写真)。視野も広く、判断力も成熟しているため、ワンタッチでのパスも多く、展開力も備えており、キック精度やプレーのアイデアの豊富さで言えば大会ナンバーワンの選手。3位決定戦でも圧巻のアウトサイドキックからのスルーパス&絶妙の浮き球で2アシスト。1人だけ異次元のプレーを披露。長谷部・ルオンゴと共に技術面に優れた魅惑の中盤トリオですね。
日本の本田圭佑は3得点を記録も、2つはPKで決定機を決めきれない場面も多く次点に。
攻撃陣にはまず左ウイングに韓国のエースFWソン・フンミン(写真のマッチアップを今大会で観たかった)を選出。体調不良が続きましたが、準々決勝の延長戦に入っての2得点、決勝の終了間際の同点ゴールなど、重要な場面で頼りになる存在でした。所属クラブでの活躍が代表に還元されないジレンマを抱えた彼が、大会を通して"韓国のエースの称号"を自他共に認められる活躍でした。今大会参加全選手の中で個人で"違い"を作り、1人でゴールまで陥れるタレントはおそらく彼1人。無失点を続ける傍ら、守備意識が強くて攻撃が単調になりがちな中で、彼1人のシュート力、ドリブルでの突破力はもちろん凄まじいものの、その存在感だけで周囲へ与える影響力も唯一無二。所属クラブのドイツの強豪・レヴァーク―ゼンで彼の控えに甘んじている豪州のロビー・クルーゼよりこの点で違いを感じさせました。そのクルーゼをこのポジションの次点に置きたいと思います。
もう1人のウイングにはヒロゴラ一押だった豪州のマシュー・レッキー(写真)。でしたが、大会通して無得点でしたので次点に。中央・サイド問わずに積極的にボールを受けてはドリブルで仕掛けられる存在は稀有。ボールタッチも繊細でスピードも抜群。緩急自在で足技も使いこなす彼のドリブルに魅了されてしまいました。彼がいなければ豪州のパスサッカーはかなり味気ないものになってしまったでしょうが、ここは6試合で5得点を挙げて得点王に輝いたUAEのエースFWアリ・マブフート(写真)を選出。
日本も彼の電光石火の抜け出しを食らったのですが、守備への献身性でオマルの負担を埋める付加価値も持っているFWである事は、FWに守備を優先するからという面目で得点力の希薄さを容認する日本サッカーにも問題提起させられる貴重なFWだと思います。
そして、最前線の1トップに入るのは開催国の英雄にしてエースFWティム・ケイヒル。勝ってる試合では60分前後でベンチに下がり、グループリーグ最終戦・韓国戦では先発を外れて温存。実は本調子ではなかったのでしょうが、準々決勝では写真のようなオーヴァ―ヘッドによる1点目と、代名詞である高いジャンプ力を活かした強烈なヘディングからの2点目と美技2発を披露してくれました。「持ってる男」が誰か?と言われれば、彼でしょう。
ケーヒル (豪州) |
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ソン・フンミン (韓国) |
マフブート (UAE) |
オマル・アブドゥルラフマン (UAE) |
ルオンゴ (豪州) |
長谷部誠 (日本) |
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イスマイル (イラク) |
サリム (イラク) |
カク・テヒ (韓国) |
セインズベリー (豪州) |
キム・ジンヒョン (韓国) |
[時点]GKライアン(豪州)、CBイブラヒム(イラク)、SBキム・ジンス(韓国)、MFジェディナック(豪州)、本田圭佑(日本)、FWクルーゼ(豪州)、レッキー(豪州)
ブラジルW杯さえ準備期間に費やした世代交代の成功を開催国で迎えた今大会で見事に成就。上記の写真のように、結果が出ない時期でも監督を信じるサポーターも含めてチームが一丸となっていたと言えるでしょう。決勝戦で負傷交代していたクルーゼが表彰式に参加するために松葉杖をつきながら登場した際には、チームメートが彼を先頭にして檀上したのが印象的でした。
また、従来のフィジカルやパワー任せなスタイルから、スピードやテクニック、運動量を活かす世界のトレンドを取り入れた新たなスタイルも魅力に溢れていました。ルオンゴ、ライアン、レッキー、クルーゼ、セインズベリーと今後を託し得る若手タレントが伸び伸びとプレーしながら自信をつける事ができたのも指揮官の功績でしょう。決勝で敗れて号泣するソン・フンミンと抱き合っていたのも美しい光景でした。
【ヒロゴラ投票独断MVP】優勝国を支えた現代型CB
そして、読者の方々からアンケートを募ったヒロゴラ選出の大会MVPは、攻撃サッカーを後方から支えながらも、決勝では先制点のアシストを記録したり、セットプレーで迫力を見せた豪州のセインズベリー。決勝のプレイヤー・オブ・ザ・マッチに選出されたり、僕の記事をよく読んでくださる方が投票して下さったのでしょう。
彼の所属するズヴォレは昨季のオランダカップ決勝、今季開幕前のスーパーカップで共にオランダ王者のアヤックスを下したタイトルを獲得しています。小さな地方クラブながら、後方からのビルドアップを駆使したプレースタイルを持つクラブでレギュラーを獲得している"ヒロゴラ独断選出のMVP"の活躍を欧州サッカー界でも楽しみましょう☆
投票結果「アジアカップMVPは?】
http://blog.with2.net/vote/v/?m=va&id=142093
以上、アジアカップはこれで最終回。せっかくアジアについて1カ月ほど観て来たので、"欧州サッカーの中でのアジア"というテーマにも触れたいと思いますが、まずはあのアンケートに対しての僕なりの解答を述べたいと思います。しばしお待ちください。
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ヒロゴラ的アンケート実施
「皆様の応援するJクラブはどこですか!?」
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