ダベンポート・キテン | Viva '60s SurfStyle!!!

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1960年代のカリフォルニアサーフスタイルに心を奪われた男の独り言。

ビング・コープランドとの食事の時だった・・・

彼に、こんな質問を投げ掛けてみた。
 
 
「あなたはベルジーの弟子ですよね?」と。。。
 
 
するとビングさんは「弟子ではないが彼の弟子と思われるのは光栄な事だよ」と、笑みを浮かべて答えてくれた。
 
 
ビングさんが10代の頃、一人の男がピアでバルサと向き合い黙々とシェイプに励んでいた。
少年だったビングさんは暇さえあればピアに足を運んだらしい。
 
 
その男の周りには、次第にビングさんと同じ様な年頃の少年達が集まる様になっていた。
その光景は映画「ビッグウェンズデー」での冒頭のシーンと同じであったとビングさんは語っていた。
 
 
この頃のサーフボードは現在の様に分業制ではなく、一人の職人が全ての工程を行い、至高のサーフボードを創り上げていた。
 
 
その男とは、勿論、デイル・ベルジーな訳だが、ベルジーは集まった少年達に少しずつサーフボード造りのイロハを伝授して行く。
 
 
ある者はナイフを渡され「レールを少しだけ落とすんだ」、「少しだけだぞ」と、レールを造り方を学んだらしい。
また、ある者はラミネートを伝授されたらしい。
 
 
それらを伝授された者達は、いつしかベルジーの下で働く様になっていた。
大半の者達はシェイプに特化していた様だが、中にはラミネートに特化した者もいた様だ。
 
 
中でも、後にティントの神様と謳われたウェイン・ミヤタのラミネートの腕前は「格別」だったと言われている。
 
 
さて、前回の更新でアダム・ダベンポートのボードを少しだけ紹介した訳だが、既にご存知の方もいるだろうが、アダムのラミネートはウェイン・ミヤタ同様に「格別」だとCAでは言われている。
 
 
長年、タイラーのクラフトマンシリーズのシャドーとしてラミネートに励みスキルを磨き上げ、今、CAでは「アダムが在籍していた時代のタイラー・クラフトマンにはオーラーがあった!」と言われているそうだ。
 
 
それを象徴するかの様に、アダムはリタイヤしたハップ・ジェイコブスが趣味でボードをシェイプする際のラミネーターに任命される程であった。
また、その噂はランス・カーソンの耳まで届き、ランス・カーソンのスペシャルモデルのラミネートも担っていた。
 
 
更に、セミリタイヤを宣言しているジーン・クーパーのクーパーフィッシュは、現在、アダムによってラミネートされている程の信頼を寄せられている。
 
 
そんな、アダムはシェイプに至っても、これまでにスコット・アンダーソン、ハップ・ジェイコブス、タイラー・ハジキアン、ランス・カーソン、ジーン・クーパー等、数々の剛腕シェイパー達のシェイプを目の当たりしてスキルを上げて来ている。
 
 
本日は、そんな、アダム・ダベンポートがPIGに様々な要素を盛り込んだ、モダンPIG、いや、エボリューションPIGを紹介したいと思う。
 
 
紹介するのは彼のチームライダーであるタイラー・クリテリのシグネチャー、キテンである!
イメージ 1

このアウトライン、実は前回書かせてもらったがテンプレートは1963年のジェイコブスPIGの物を採用しているのだ。

 
 
ジェイコブスと親交のあったアダムは、そのテンプレートを譲り受け、見事に現代に1960年代初頭のPIGを再現してくれたのだ。
 
 
しかし、乗り手は「今の」CAロングボード界を牽引するスーパースター、タイラー・クリテリである。
伝統を受け継ぎながらも進化したPIGが要求される。
 
 
例えば、ノーズコンケーブ・・・
このPIGのテンプレートは何と言っても、時代を作って来たジェイコブスのオリジナルテンプレートである。
イメージ 2
そのボードにはあからさまな深いコンケーブは似合わない。
アダムは「伝統と今」を調合させたかの様に薄っすらとした緩やかなコンケーブを採り入れた。
 
 
しかし、これはモダンを超越したエボリューションPIGである。
 
 
テールに至っては、ロビン・キーガル、アレックス・ノスト等の数々のスーパースターを輩出して来たダノーのHOGの様なキックテールが採り入れられており、現代のスーパースターであるタイラー・クリテリのシグネチャーに恥じない創り込みが成されている。
イメージ 3
と、ここまではアダム・ダベンポートとタイラー・クリテリがミーティングを行い、それらを集約させたオリジナルのキテンなのだが、前回の更新でも綴った様に今回のテーマーはモダンとエボリューションの融合である。
 
 
故に、ビンテージに引けを取らない様な創り込みを随所に汲み込んだ次第である。
例えばこのテールブロック・・・
イメージ 4
ヴィンテージのジェイコブスPIGと同様にブロックエンドに濃い木を用いてベルジーツリーを彷彿してもらった。
 
 
キテンはタイラー・クリテリのシグネチャー故に、オリジナルと掛け離れたカスタムはアダムも余り受け入れたく無い様であったが、このブロックに関してはスムーズに了承してくれた。
 
 
しかし、難関は・・・フィンである。
 
 
明確な定義は無いのだが、俺の中のでモダンPIGとエボリューションPIGの決定的な区別としてはフィンの形状にある。
 
 
判り易く言うならば、ロビン・キーガルやジャレット・メルの創り出すPIGは、PIGのアウトラインが持つポテンシャルを最大限まで引き出す様なフィンを装着する様に創り出されている。
 
 
実際に、かつて俺が所有していたロビン・キーガルのPIG系の代名詞であるスムースオペレータにはご覧の様なフィンがグラスオンされている。
イメージ 5

また、フォームに至っても、ボードの操作性を考慮し、グリーンフォームを使う傾向にある。

 
 
一方のモダンPIGは、PIGの伝統的な資質を最大限に汲み入れおり、クラシックウェイトの高密度フォーム、8オンス~10オンスボラン、そして、ハーフムーン等が汲み入れられる傾向が強い。
 
 
今回のキテンは、ノーズコンケーブ、キックテール等のエボリューションPIGの要素に加え、クラシックウェイトの高密度フォーム、10ンスボラン、ハーフムーン等のモダンPIGを要素を融合させる事をテーマにしていたのだが・・・
 
 
肝心のアダムが「キテンにハーフムーンは駄目だ!」と断って来たのだ。
 
 
アダムの中では「ハーフムーンではキテンの性能を発揮出来ない!」、更に、「そもそも、キックテールに装着出来るハーフムーンのテンプレートは無い!」と、頑なに断って来たのだ。
 
 
アダムは若いが、良い意味で職人気質に溢れた頑固さを持ち合わせたシェイパーである。
自身のボードに関しては常に研究を重ね、絶対的な自信作しかリリースしない男でもある。
 
 
さて、一体どうするか・・・
 
 
極論から言うと、ハーフムーンで無ければオーダーする意味は無いので、ここはシースワローの毛塚君に交渉してもらうしかない。
 
 
そして、交渉の末、このキテンの為に新たなテンプレートを制作してもらう事となり、完成したのがこちらのハーフムーンである。
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画像の角度が悪く確認し辛いのだが、キックテールのボトムに沿う様にフィンの付け根をアレンジしてもらい、更にテールブロックが覗き込める様に斜行した形状のハーフムーンとなっている。
 
 
尊敬するランス・カーソンは、かつて、バルサPIGでノーズライドを敢行していた。
イメージ 7
勿論、PIGでノーズライドを行うサーファーは多くいる事だろう。
しかし、ノーズライダーの浮遊力を体感してしまった現代サーファーとしてはPIGで浮遊力を堪能したい。
 
 
そして、出来る事ならば切れ切れのエボリューションPIGより、比較的ヴィンテージに近いモダンPIGで・・・
 
 
我儘を詰め込んだ末に出来上がったカスタム・キテンだが、一つだけ思い通りにならなかった事がある。
それはボードカラーである。
イメージ 8

このボードのカラーは、本来、前回の更新でも紹介したウェーバーのパフォーマーのカラーを指定していたのだ。

デューイ・ウェーバーが拘り続け末に誕生した至高の名品である。
イメージ 9
このカラーにする意図は、PIGの革新を信じて邁進し続けたデュイー・ウェーバーへのリスペクトの表れでもあるのだ。
 
 
実際にこの画像をアダムに送り、オーダーシートに「SAXE BLUE」と記載し、確認してもらったのだが、ご覧の様なカラーで上がって来てしまった。
不本意ではあるが、これもCAの良さと思い受け入れる事にした。
 
 
今、PIGは世界中のサーファー、シェイパーが気に掛けているボードだと思う。
ピーター・ストッカートの様などフラットなデッキを用いたシェイパーもいれば、ロビン・キーガルの様な切れ切れの乗り味を提供するシェイパーもいる。
 
 
シェイパーの数だけ様々なPIGが存在すると言っても過言ではないだろう。
キテンはそんな多くのPIGの中の一つにしか過ぎないが、俺の中では100点満点のPIG系のボードである。
 
 
キテンはタイラー・クリテリのシグネチャーであるが、実は彼とは直接は無いが、間接的に仕事で絡ませてもらった事があり、妙な縁を感じた次第である。
 
 
そんな、彼のシグネチャーを俺用にカスタムしてくれたアダムと毛塚君には感謝したい。
 
 
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