サーフボードの世界にはベルジー・ツリーという言葉がある事をご存知だろうか?
デイル・ベルジーを幹として、弟子から孫弟子、そして、そのまた弟子へと連なるベルジーイズムの様なものである。
ベルジー・ツリーを辿って行くと一人のシェイパーに足が止まる・・・
そのシェイパーはロングボードが復活を遂げた1990年代を迎える事無く天に旅立って逝った。
彼の名はデューイ・ウェーバー。
ベルジーがタックスの未払いにより、多くの店舗を差し押さえされた時に、その中の1店舗を継承した人物としても有名である。
書物によるとベルジーは「デューイの奴に店を乗っ取られた!」とも記されている一方で、ベルジーが家賃を滞納していた為、差し押さえされる前に「大家から店舗を譲り受けた」とデューイの証言も残されている。
だが、当の二人はそれらの事で直接口論になった事は無い様で、既に二人とも他界している為、真相は「闇の中」と言った様である。
そんな二人の関係ではあったが、多くのベルジーの弟子達の中で最も彼のイズムを継承していたのがデューイだったとも言われている。
その由縁は、デューイの代名詞とも言える、このライディングスタイルにある。

ランス・カーソンの話しでは、ベルジーは自身の下を訪れたサーファー達に常々「オーバーハング!」を訴え掛けいた様だ。
これは、当時の重たいボードでマニューバーを描く為には全身でアクションが必要とされていたからと言われている。
デューイの数々のライディンショットには、略ご覧の様なオーバーハングの様が確認する事が出来る。
また、デューイはライディングスタイルだけでなく、シェイプ理論においてもベルジーの影響を最も受けたシェイパーだと言われている。
天井に吊るしたままの状態故に、アウトラインをお見せする事は出来ないが、こちらはデューイ・ウェーバーの最高傑作とされるパフォーマーの1966年製である。

1966年と言えば、既にサーフィン業界には様々なサーフボードが誕生しており、ビングからはデビッド・ヌヒワのノーズライダー、ジェイコブスからはランス・カーソンモデル、グレッグノールからはダ・キャットと、ベルジーの下でシェイプ励んでいたシェイパー達は彼の至高であるPIGとは決別したサーフボードで業界を賑わせていた。
しかし、デューイだけがPIGの可能性を信じ、最高傑作とも謳われているパフォーマーにPIGの要素を多分に汲み込んでいた。
このデューイの確信が翌年に大ヒットしたレイト・パフォーマを生んだの言うまでもないでろう。
ベルジーが誕生させ、デューイがそのポテンシャルの高さを信じ切ったPIGは、現在、様々な捉え方をされながら、その系譜を繋いでいる。
フォーム、アウトライン、クロス、ハーフムーン、レール形状など、一見、ヴィンテージPIGとは見間違えてしまう様なPIGもあれば、ピンチレール、コンケーブ、キックテール、緩やかに膨らんだノーズ、そして、レイクフィンが装着されたPIGもある。
それらのボードは一括りにモダンPIGと称されているのだが、実際には前者と後者では全く性質の異なるPIGである事は明らかで、今となっては前者のモダンPIGに対して、後者はエボリューションPIGとでも言うべきなのであろうか?
どちらも素晴らしいPIG系である事は間違いのだが、向かっている方個性が正反対である為に同じ土俵で比べる事は困難である。
そんな、葛藤から一つの思考が浮かんだ。
もし、二つの要素を一つにしたら、どうなるんだろうか?
出来る事ならヴィンテージのテンプレートを使った物が良い・・・
フォームも高密度のクラシックウェイトの方が良い・・・
クロスはボランの10オンスが良い・・・
しっかりとクロスに吸わせた樹脂はサンディング時には余り削り落とさない方が良い・・・
そんな都合の良いボードがあるのか?
いや、そもそも、そんなボードを創って貰えるのか?
そんな、思いにふけている最中に1本のボードに出会った。
そのボードはハップ・ジェイコブスから当時のテンプレートを譲り受けただけでなく、上記に綴った全てが網羅されていた。
しかし、ここにさらに一つの要素を加えたかった。
それはハーフムーンである。
そのボードにはレイクフィンの装着が望ましいとシェイパーが判断しただけでなく、元々、そのボードは若きライダーの為に創られたシグネチャーでもあったのだ。
そして、そのボードはアダム・ダベンポートによって創られたいたのだ。
アダムのボードなら何も迷う事は無い!
全てがパーフェクトである。
しかし、アダムはマイク・ブラックのミスクリントを独自の解釈でマイクの思想と異なったボードを創った男である。
一言で言うならば、己の信念を簡単には曲げない頑ななクラフトマンである。
やってくれるのか?
次回は難航の末に完成したご覧のボードをご紹介出来ればと思っています。
最後まで読んで頂きましてありがとうございました。

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