お初にお目にかかります。
私は由乃。
忍びの里 八代目頭領の娘。
以後、お見知りおきください。
今、私は修行小屋の近くで、親友の朱梨と変わり身の術の練習をしているところです。
私は変わり身の術程度すぐに習得できたんですけど、
朱梨は残念ながら落ちこぼれなので…
「あぁ~、また失敗……」
「あのな朱梨、何回も言ってるけど、相手が動いた後に術を使おうとしても遅いんだよ。
相手の足の重心の移動とか顔の表情から動きを予想して、動かれる前に術使わないと意味ないだろ?」
「えー!そんなこと言われてもわかんないよー!
もーやだー!」
やだって……
まだ始めて二時間しか経ってないだろうが。
…でもまぁ、術の習得なんて嫌々やっててもできないからな。
ここで休憩してしばらくしたらまた再開するか。
「わかったよ。じゃあ休憩。15分だけな」
そう言うと、朱梨の顔がぱぁっと輝いた。
「やったぁ!由乃大好きー!」
「うわこら、抱きつくな!レズか!」
無理やり朱梨をひっぺがすと、朱梨は少し拗ねたようにそっぽを向いてしまった。
………表情がコロコロ変わって忙しい奴だ。
「あ、そういえば。ねぇ、由乃」
「なんだよ?」
「由乃って、今里ですごく噂になってるの、知ってる?」
「……はぁ?」
いきなりなんだよ。
しかも噂ってなんだよ。
私、そんな噂になるようなことしたか…?
そんな私の疑問を読み取ったかのように朱梨は言った。
「だってほら、由乃って実力だけなら間違いなく里で一番でしょ?それで、
『火術水術飛術に長け、一人前の忍者ですら習得が難しい変化の術をわずか9歳でやってのけた。由乃はおそらく頭領以上の実力だろう』
って噂になってるんだよ!」
「………あぁ、そういうことか」
もうすぐ、忍びの里の次期頭領を決めることになっている。
きっとそれで、次期頭領になりそうな人のことを適当に噂しているだけだろう。
………でも、頭領以上の実力は言い過ぎだろーに…
私にそんな期待をかけないでくれ。
はっきり言って荷が重い。
「どうしたの?」
急に黙った私を見て、朱梨が声をかけてきた。
「いや…、荷が重いなぁと思って」
正直に答えると、厳しい声が飛んでくる。
「何言ってるの由乃!死んでいったお兄さんたちのためにも頑張るって言ってたじゃない!」
「…………!」
そうだった。
私には兄上と姉上が合わせて八人いたのだが……
みんな任務や病気で死んでしまって、跡継ぎは私一人になってしまったのだ。
跡継ぎと言っても、頭領の娘だからって次期頭領になれるわけじゃない。
その時一番強い者が里を継ぐのだ。
ただ、三代目から今までは私の家から頭領が出ている。
だから…私の代で途切れさせるわけにはいかない。
「そうだな。荷が重いなんて言ってられないよな。
私、頑張るよ」
「さっすが由乃!その意気その意気!」
「でも、次期頭領なんて、どういう基準で選ばれるんだ?」
「んー。よくわかんないけど、任務をこなして名声をあげるとか」
「任務…ねぇ」
任務と言っても、そう都合よく任務が回ってくるわけがない。
なんせ、次期頭領が選出されるまでそんなに時間がないのだ。
そうなると、自分で何か名声があがるようなことを探して、やらなければならない。
そんなの、何かあったっけ……?
朱梨も同じことを考えているようで、難しい顔をして考え込んでいる。
何かないないだろうか……
「あ!」
「?」
突然朱梨が声を上げた。
何か思いついたようだ。
「ねぇ!大鷹退治とかどう?」
「………え?大鷹って、あの、ずっと前から川上に住んでるでっかい鷹のことか?」
「そう!あの大鷹、よく谷を越える人間を襲ってるんだって!」
確かにそれは聞いたことがある。
よく、谷を越える人から護衛の依頼があるからだ。
「あれ、歴代の頭領が何度も退治しようと試みたけどできなかったって話なの!
仕留めれば絶対実力を認められるよ!」
「………ふぅん。なるほど…ね」
私は少しの間考え込み、
「わかった。行こう」
そう言った。
* * * * * * *
「じゃあ、行ってくる。」
「うん!気をつけてね!」
谷についた私は、大鷹の巣を探し当てた。
「朱梨はちゃんと隠れてろよ?落ちこぼれなんだから」
「落ちこぼれは余計だよ!」
さて…
鷹の目に追われたらおそらく勝ち目はないだろう。
とりあえず、煙幕弾をはっておくか。
「鳥の子っ!」
そう叫んで私は巣めがけて煙幕弾鳥の子を放った。
追いかけるように私は大鷹の巣に近づいていく。
しかし。
突然突風が吹いて、鳥の子が私の方に押し戻された。
………まずいっ!
そう思ったとたん、私の数メートル先で鳥の子が爆発した。
----くそ!しくじった!
煙幕が広がり、自分の周囲が見えなくなってしまった。
それにこの爆発音で、大鷹は浸入者に気づいただろう。
どうすればいい……!?
そう思ったのもつかの間、突然視界が真っ暗になり、体が何かに挟まれた。
「!?」
ぬるりとした感触。
どうやら大鷹の口内に頭を突っ込んでいるらしい。
大鷹にくちばしで挟まれてしまっている。
くっそ………!
「やられて、たまるかっ!」
体をぐるりと捻る。
なんとか口から抜け出すことに成功した。
「はぁ…はぁっ……」
「由乃!やっぱり逃げよう!ここまでしたらきっと里のみんなも次期頭領として認めてくれるよ!」
朱梨が草むらから叫ぶのが聞こえた。
確かに、次期頭領としては認めてもらえるかもしれない。
でも、それでいいのだろうか…?
私は、何か大切なことを忘れてる気がする----
「由乃!危ない!」
大鷹が私の方に突進してくる。
しかし、なぜか頭はものすごく冷静だった。
そうか。わかった。
私は…………
突っ立っている私に向かって、大鷹はチャンスとばかりに噛みつこうとした。
しかし、大鷹は私に噛みつくことはできなかった。
私が、すんでのところで変わり身の術を使ったからだ。
「朱梨!
頭領とか、関係ねーよ!
ここを通る人は、いつも命懸けで困ってるんだ。
何であろうと退治する。
私は頭領になりたいんじゃない!
立派な忍者になりたいんだ!」
私はそう叫んで、大鷹に突っ込んで行ったーーーー
* * * * * * *
「由乃すごいよ!本当に大鷹倒しちゃうなんて!」
大鷹の巣からの帰り道、朱梨はまだ興奮がさめやらぬようでキャーキャー言っていた。
「まぁ、結構苦戦したけどな」
「これで次期頭領間違いなしだね!収穫は大きいよ!」
「あぁーーーー」
本当に、収穫は大きかった。
忘れていた大切なことを思い出せたから。
「…………?なにかあったの?」
朱梨が顔を覗きこんできた。
「なにかって、……なんで?」
「だって、由乃今すごくいい顔してるから。そんなに次期頭領が決まって嬉しいの?」
「いや?まぁ、それももちろん嬉しいけど…………
……いいや。内緒!教えねー!」
「えー!?何それ教えてよ!」
「やだ!」
「なんでよ!」
「恥ずかしいから嫌なんだよ。
さ、里に戻って父上に報告するぜ!」
終わり
*イラスト提供
一年(ひととせ) 様
