ニッカーソン・ガーデンズで起こった悪名高いケンタッキーフライドチキン事件から、30年以上が経つ。ブラッズに所属するアンソニー・ティフィス(Anthony Tiffith)というギャングバンガーが、ツートンのマスタングから飛び降りて強盗を働こうとした際、ダッキーという従業員を逃がした、あの事件だ。カーソンのレコーディング・スタジオで20年後に再会することになろうとは、二人は夢にも思わなかっただろう。そう、コンプトンのラッパーが昨年、ダブル・プラチナムを達成したアルバムの最終曲で明かしたように、ティフィスは2004年、ロサンゼルスを拠点とするインディー・レーベル=TDE (Top Dawg Entertainment)を設立した。一方のダッキーは、自身の息子=ケンドリック・ラマー・ダックワース(Kendrick Lamar)が史上最高のラッパーの一人になるのを目撃することとなる。ティフィスとケンドリック、最古参のジェイ・ロック(Jay Rock)と数人のスタッフで始まった同レーベルは、成長し続け、現在SZA、スクールボーイ・Q(ScHoolboy Q)、アブ・ソウル(Ab-Soul)、サー(SiR)を含む人気アーティストを擁している。

 

image

Image via @TopDawgEnt on Twitter

 

14年の月日が流れ、今が祝福の時だ。TDEは今年1月、全北米を周るツアーを発表した。『The Championship Tour』と名づけられたそのツアーで、同レーベルは2018年、彼らのショウが万難を排して観るに値するものであることを証明し続けている。その過程で、彼らは5月11日と12日、カリフォルニア州イングルウッドのフォーラムに立ち寄った。本稿は、そこに名を連ねる各アーティストがLA公演2日目にどれだけカマしたかのレポートである。

 

 

7時半、厚い雲が空を覆っている。太陽の州に位置する天使たちの街には珍しく、同市はすぐにでも雨が降りそうな空模様だ。前日、フォーラムがチケット保持者に早く来るよう呼びかけたにもかかわらず、容易に予想できるように、イージーゴーイングなLAのTDEファンの多くは定刻に現れない。しかしそれ以上に重要なのは、現れた人たちの10人に9人が、『good kid, m.A.A.d city』のアートワークがプリントされたTシャツやら、TDEのサイニー全員がボス・ドッグの周りに集まった絵の描かれたフーディやら、何らかの同レーベルのマーチに身を包んでいることだ。人は見かけで判断できないとはいえ、少なくとも彼らの一人ひとりが、どれだけ忠誠心の高いファンであるかは明らかだ。その事実に想いを馳せると、そのドッグ(Dawg)たちが何年もかけて築いた基盤に感服せずにはいられない。

 

会場内では、定刻の午後7時30分を15分ほど過ぎた頃、TDEの最も新しいサイニーであるサーがステージに立つ。最新作『November』からの「Something New」でステージの幕を開けると、野球のユニフォームを着たそのイングルウッド出身者は、優しくオーディエンスを歓迎する。彼はそれから「Cadillac Dreams」に戻り、彼がソーシャル・メディアで時間を取ってファンと交流するフレンドリーな人であるのと同様に、アンアポロジェティックな「W$ Boi」であることを皆に思い出させる。再び最新アルバムから「War」と「D'Evils」をパフォームし終えると、同歌手は、イングルウッド高校にLAメトロで通っていた高校時代を素早く追憶する。彼はそれから、毎朝通り過ぎていた建物で自分がパフォームすることをどれだけ想像できなかったか打ち明け、時間どおりに来た熱心なファンたちへの感謝を口にした。

 

SiR

 

この日集まった多くの人々が、トップ・ドッグたちを5年以上フォローしている。アブ・ソウルは2012年の名作『Control System』からのシングル「Terrorist Threats」で登場すると、彼の"Spit your game, kick your flow"に続いて彼らに"Can't f*** with this Top Dawg s*** though"と合唱させ、そのことを明らかにした。人々が考える以上に豊富なディスコグラフィの中で、ソウローは『These Days...』と映画『ブラックパンサー』インスパイア盤から、それぞれ「Huey Knew」と「Bloody Waters」を選ぶ。クラウドの多くの期待に反し、それだけであった。そのカーソン育ちのリリシストは、アーチェリー選手のように矢を背中に運び、オーディエンスがもっと多くを欲するなか、別れを告げた。

 

Ab-Soul

 

お次はジェイ・ロックのはずだったが、彼が来れないことが告げられる。代わりにスクールボーイ・Qがゴルフ・カートで姿を現し、最新作『Blank Face LP』から「THat Part」をスピットし始める。グルーヴィー・Qは自身のヴァースだけでなく、イェのそれをも蹴る。滑稽でありながら一聴すればクラシックだと判る、"Okay, okay, okay, okay, okay, okay"のラインを含むあれだ。そのLAのラッパーは『Oxymoron』のファン、すなわち全員のために「WHat THey Want」と「Studio」を終えると、ジャケットを脱ぎ、最新アルバムからもう1曲「Dope Dealer」を披露した。彼はまた、自宅謹慎時代からどれだけ長い道のりをやってきたか、そしてもちろん、その間TDEがどれだけ大きな支えであったかをクラウドに伝える。これが彼と同レーベルのフレッシュマン=サーの、「Something Foreign」におけるコラボレーションへとつながった。

ダンス・フロアが空くことのない街からやってきたQは、パーティーが好きであり、クラウドも同様だ。だから皆、「Hell Of A NigHt」で飛び跳ね、一緒になってラップする。「Collard Greens」におけるケンドリックのヴァースが始まると、彼はラティーノたちとラティーナたち全員に大きなシャウトアウトを送り、彼らだけでなくクラウド全体が興奮で叫ぶ。「Break THe Bank」と「JoHn Muir」で自身の出自をレペゼンすると、その31歳は自身が「Man Of THe Year」であることを誇り高く宣言し、またしても聴衆を跳び・跳び回ら(ju-jump around)せた。ステージを去り際、Qは自身のニュー・アルバムがもうすぐ出ることを明らかにし、ファンたちにそれを渇望させた。

 

ScHoolboy Q

 

ScHoolboy Q & SiR

 

「あなたに知らせたくて手紙を書いてるの…」と、SZAはステージ上のリングから「Supermodel」を歌い始め、フォーラムに集まった彼女のファンたちとの会話を始める。リングを降りると、その『Ctrl』のシンガーは「Broken Clocks」で、翌朝午前10時からのシフトがある人々への同情を見せる。ガウンを脱ぐと、彼女は絶え間なくステージ上を動き回りながら「Go Gona」をパフォームし、彼女のロール・モデルの一人とウィードへの賛歌「Drew Barrymore」を歌う。

ショウが始まって4曲が終わり、そのTDEの歌姫は、昨年のツアーでLAに立ち寄った際、彼女の健康状態がどれほど「ゴミ」だったかを振り返る。彼女の高校時代もまた「ゴミ」だった。彼女は自身の高校での経験にインスパイアされてある曲を書いたことを説明し、「Normal Girl」を歌い始める。しかしながら、彼女がただ普通ではいられないのは明らかだ。だから彼女はすぐさま「Doves In The Wind」をパフォームし、ケンドリックのボーカルに促されてファンと一緒に中指を立て、お尻を振る。しかし、ソラーナのアンアポロジェティックネスは、必ずしも彼女が常に安定していることを意味しない。彼女は「Garden (Say It Like Dat)」でインセキュアな一面を見せ、ファンたちと共鳴した。

また、SZAは「Pretty Little Birds」にアイゼイア・ラシャド(Isaiah Rashad)を招き、クラウドが待ち望んでいたものを提供する。TDEにほぼ同時期に加わった二人は、共演するといつも化学反応を起こしてきた。今回も例外ではない。そのコラボの後、SZAがリングのコーナーで座って待つなか、ゼイはソロで「Tity and Dolla」と「4r Da Squaw」を披露する。

セットの最後に、SZAは学校の先生のようにクラウドの一人を当て、今日が何曜日かと訊く。週末(The Weekend)の始まりだ。クラウドに合唱させながら、その「Love Galore」のシンガーは、いとも簡単に9時5時や平日などというものの存在を忘れさせた。

 

SZA

 

SZA & Isaiah Rashad

 

そして、ケンドリック・ラマーの出番だ。昨年、彼はカンフー・ケニーだった。今年の彼はピューリッツァー・ケニーだ。「DNA.」のビートが変わるやいなや、"Pulitzer Kenny"の文字(おそらくはスクールボーイ・Qの手書き)が前方のスクリーンに現れる。「ELEMENT.」では、クラウドはフックだけでなく、"I don't do it for the 'Gram, I do it for Compton"のラインを被せる。そのファンたちの反応一つ一つが、彼が他ならぬキング・ケンドリックであることを示す。

 

Kendrick Lamar

 

ケンドリックは多様な顔を持つ男だ。しばしば謙虚なラッパーと思われがちな彼だが、パーティーの仕方も心得ている。その「King Kunta」のライマーは、「goosebumps」と「New Freezer」における自身のゲスト・ヴァースに我を失うよう、クラウドに促す。「Swimming Pools (Drank)」および「Backseat Freestyle」で初期からのケンドリック・ファンたちを熱狂させると、K・ドットは世界一忠誠心のあるファンたちに「LOYALTY.」を捧げた。

「Alright」をラップし終えると、コーンロウ・ケニーは素早くアリーナの温度を確認する。「金を稼ごう(Let's get money)」と彼が言うと、「Money Trees」のイントロが流れる。"No-way"のブリッジの後、今回のショウに不参加だったジェイ・ロックがどこからともなく現れ、3ヴァース目をパフォームする。それからその二人は、ステージで共にスカー(skrr)しながら『Black Panther: The Album』の「King's Dead」を披露した。

 

Kendrick Lamar & Jay Rock

 

そのアンアポロジェティックなヴァイブを引き継ぎ、その30歳は「XXX.」と「m.A.A.d city」をパフォームすると、オーディエンスにライトを取り出すよう指示する。その光は彼らが長年掴もうとしてきた星々を表すのだと彼は言い、アリーナ内のファン一人ひとりが不可欠なのだを強調すると、ザカーリ(Zacari)と共に「LOVE.」を始める。無数の携帯電話のライトが、その瞬間を祝福していた。

 

 

マン・マンが「Bitch, Don't Kill My Vibe (Remix)」をパフォームすると、当然のことながら、もう誰もそのヴァイブを台無しにはできない。その後、スクールボーイ・QとSZAが加わり、「X」と「All The Stars」をそれぞれ彼と共にパフォームした。そして、「HUMBLE.」の始まりだ。"My left stroke just went viral"のラインが終わると、オーディエンスはいつものようにアカペラを開始する。リル・ケン・ケンはそれがすでに10点満点だと認めつつも、15点を取るようクラウドに指示する。TDEの全メンバーが加わるなか、彼は再度「HUMBLE.」を披露し、セットを終えた。

 

Kendrick Lamar & ScHoolboy Q

 

Kendrick Lamar & SZA

 

All the members of TDE on stage

 

消費の早いこの時代、数多のレーベルが瞬く間に現れては消えていく。トップ・ドッグ・エンターテインメントはメジャー契約とお金を勝ち取るのに、その多くよりも長い時間を要したかもしれない。しかし、どんなライバルよりも強固なファン・ベースを築き、彼らは時の試練に耐えた。そして、今後もそうし続けるだろう。10年後、トップ・ドッグたちはどこにいるだろうか。確かなことなど何もないが、彼らが掴んできた星々の中から、彼ら以上に輝き、次の世代をインスパイアする者が現れるかもしれない。継続的な努力と信念を持つこと、自分自身に忠実であることの重要性を示しながら。そう、ちょうど彼らがそうしているように。