King Pushことプッシャ・T(Pusha-T)の『King Push』改め『DAYTONA』、予定どおりリリースされましたね。

 

 

Pusha-T, DAYTONA

 

 

この、故ホイットニー・ヒューストン(Whitney Houston)のバスルームの写真を使ったアルバムのアートワークにはちょっと思うところがあるんですが、聴いてみると内容は期待を裏切らないかっこよさでした。

 

相変わらずラップがかっこいいし、ビートもいい。

 

全7曲という短さですが、その中で何よりも僕を興奮させた曲は最後の「Infrared」でした。

 

しかも、この記事を書いていたら寝落ちし、その間にドレイク(Drake)がアンサーを出しているっていうスピード感、ハンパない。。

 

とりあえずプッシャ・Tが何を言っているのか、読んでみてください。

 

 

 

 

Pusha-T - Infrared

 

 

 

 

〜リリックと和訳〜

 

 

The game's fucked up
Niggas beats is bangin', nigga, ya hooks did it

(ラップ・)ゲームはメチャクチャだ

ビートが鳴り、フックが響く

 

※リリックよりもビートやフックのキャッチーさが重視される、昨今のラップ・ゲームを憂うところから始まります。

 

The lyric pennin' equal the Trumps winnin'
The bigger question is how the Russians did it

リリックを書くことはトランプが勝ったのと同じ

問題なのはロシア人がどうしたかだ

 

※トランプ氏が米国大統領になれたのには、ロシアが絡んでいるという疑惑もあります。上述のようにリリックの内容は昨今のラップ・ゲームにおいて重視されませんが、仮にいいリリックが書かれたとしても、それはトランプ氏の勝利と同様に、他の誰かの働きによるものだということです。

 

It was written like Nas but it came from Quentin
At the mercy of a game where the culture’s missing

ナズみたいに書かれたが、それはクエンティン(・ミラー)によって

文化が消えつつあるゲームのなすがまま

 

※ナズ(Nas)のアルバム『It Was Written』を持ち出します。「それは書かれた」けれども、「本人ではなくクエンティン・ミラー(Quentin Miller)によって」とのことです。ドレイクの「10 Bands」という曲におけるフロウがクエンティン・ミラーのそれに酷似していることが話題になったのは記憶に新しいかと思います[1]。これでドレイクがディスの対象になっていることが明らかになりますね。

また、ドレイクを揶揄するフレーズとして"culture vulture"(「文化を食い散らかす奴」くらいの意味)があり、2行目はそれを踏まえたラインです。

 

When the CEO's blinded by the glow, it's different
Believe in myself and the Coles and Kendricks

CEOの目が光で眩んでいれば話は違う

俺と(J・)コール、ケンドリック(・ラマー)を信じろ

 

※ここでの「CEO」は、プッシャ・Tが現在CEOを務めるレーベル=グッド・ミュージック(G.O.O.D. MUSIC)の前CEO=カニエ・ウェスト(Kanye West)のことです。カニエは過去にドレイクと「Glow」という曲で共演しており、そんなカニエを「光(glow)で目が眩んでいる」と評しています。

2行目では、そんななかで自分のアートに忠実であり続けているJ・コール(J. Cole)とケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)の名前を出し、彼らにシャウトアウトを送っています。

 

Let the sock puppets play in their roles and gimmicks, shit
靴下の人形で茶番をやってればいいさ

 

※自分でリリックを書かないドレイクを、自分では話さない靴下の人形に喩えています。なお、"sock puppet"だけでも「自作自演」を意味するようです。

 

Remember Will Smith won the first Grammy?

And they ain't even recognize Hov until "Annie"
ウィル・スミスが最初にグラミーを獲ったのを憶えてるか?

ホヴ(=ジェイ・Z)は「Annie」まで知られなかったんだ

 

※リアルなヒップホップがいかに正当な評価を得てこなかったかをこの2行で表現しています。グラミー賞のラップ部門が中継されず、ウィル・スミス(Will Smith)らが授賞式をボイコットした話は有名ですね[2]。また、ジェイ・Z(JAY-Z)がいかに素晴らしい作品を出そうと、彼が大衆に知られるようになったのは『アニー』の「It's The Hard-Knock Life」をサンプリングした「Hard Knock Life (Ghetto Anthem)」をリリースしてからでした。これを「Annie」と表現しているあたりにもプッシャならではの皮肉が感じられます。

 

So I don't tap dance for the crackers and sing Mammy

'Cause I'm posed to juggle these flows and nose candy (yugh)
だから俺は白ブタどものためにタップダンスしてマミーを歌ったりしないぜ

俺はこのフロウと鼻用のキャンディ(=コカイン)を捌かないといけないからな

 

※「マミー」は、米国南部で白人の家庭で子守をしていた黒人女性をステレオタイプ的に描いたものだそうです[3]。1行目はそういったものを望む世間に迎合しないという意思の表れと考えられます。

 

Ferrari, my 40th, blew the candles out
Tom Brady'ed you niggas, I had to scramble out
フェラーリで40歳の誕生日にロウソクを吹き消したぜ

お前らをトム・ブレイディした、突っ走ってきたんだ

 

※トム・ブレイディは、40歳にして今なお現役のNFL選手です。先日41歳の誕生日を迎えたプッシャは、自身を彼になぞらえています。

スクランブル(scramble)はアメリカンフットボールの用語で、クォーターバックが予定していたパスを出さずに自らボールを持って走ることです[4]。これがトム・ブレイディとの関連性を生んでいます。

 

They be ridin' these waves, I pull my sandals out

Jefe Latin my Grammy, I went the Spanish route

奴らはこの波に乗り、俺はサンダルを引っぱり出す

ラテンの王が俺のグラミー、俺はスペイン語の道を進んだ

 

※1行目は、プッシャがトレンドに左右されることなく自分のスタイルを貫くことを表していると考えられます。

"jefe"はスペイン語で「リーダー」「ボス」を意味します。2行目は、薬物の仕入先に南米のスペイン語圏の国が多いことを踏まえた表現でしょう。


Oh now it's okay to kill Baby

Niggas looked at me crazy like I really killed a baby

今ならベイビー(=バードマン)を殺してもかまわない

みんな俺が本当に赤子を殺したかのようにクレイジーに見てきた

 

※今度はキャッシュ・マネー(Cash Money)の創始者=バードマン(Birdman)が出てきました。楽曲の権利をめぐってリル・ウェイン(Lil Wayne)と対立した彼を批判したことで批判されたプッシャが、今一度その正当性を主張しています。


Salute Ross 'cause the message was pure
He see what I see when you see Wayne on tour

(リック・)ロスに敬礼を、あのメッセージはピュアだった

お前らが(リル・)ウェインをツアーで見るとき俺に見えるものを彼も見てる

 

※リック・ロス(Rick Ross)もプッシャと同様に、「Idols Become Rivals」でバードマンを批判していました[5]。

 

Flash without the fire

Another multi-platinum rapper trapped and can’t retire
燃えることなく光る

またマルチ・プラチナムのラッパーが囚われて引退できずにいる

 

※ここで言及されているラッパーはリル・ウェインと考えられます。1行目は、バードマンとの争いにより作品をリリースできずにいるものの注目を集めている彼のことを言っているのでしょう。

 

Niggas get exposed, I see the cracks and I'm the liar?
Shit I've been exposed, I took the crack and built the wire

人はディスに晒される。クラックを見てきた俺が嘘つきか?

俺はすっぱ抜かれてきた、クラックを手に取りワイヤを作ったんだ

 

※1行目は「Two Birds One Stone」でプッシャをディスった[6]ドレイクへのアンサーと考えられます。

2行目の「ワイヤ(the wire)」はドラッグ・ディーリングの現場に密着したHBOのドキュメンタリー番組『The Wire』からです。

 

Now who do you admire? Your rap songs is all tryin' my patience
Them prices ain’t real without inflation

さあ、誰を称賛する? お前のラップ曲で俺の我慢も限界だ

インフレが無かったらその価格もホンモノじゃない

 

I done flew it, I done grew it, been a conduit
Moynat bags on my bitches, I done blew it

俺は飛ばし、育て、運んできた

俺のビッチたちが持ってるモワナのバッグもそうさ

 

※「飛ばし、育て、運んできた」のは、もちろんプッシャが扱うコカインのことでしょう。

また、プッシャはそうして得たお金で高級なバッグも買い与えることができたと自慢しています。

 

See through it, neck, igloo it
Habla en español, I y tu it

首元のこれ、透けて見えるだろ、イグルー並みのアイスだ

アブラ・エン・エスパニョール、「イヌイット」

 

※しばしばジュエリーは"ice"と表現されますが、プッシャは自らのそれを、氷雪で出来たイグルー(イヌイットの住居)と表現しています。

"habla en español"はスペイン語で「スペイン語で話す」のはずです(第2外国語スペ語だったんですが…違ったらすみません)。スペイン語の"y"は英語で"and"、同じく"tu"は"you"なので"I y tu it"は英語にすると"I and you it"です。意味は通りませんが、"Inuit"と発音が似ていますね。

 

Let Steven talk streaming and Shazam numbers
I'll ensure you gettin' every gram from us

ストリーミングとShazamの数字はスティーヴンに任せた

俺はお前らにブツを届けるって約束する

 

※スティーヴン・ヴィクター(Steven Victor)はユニバーサルのA&R部門の上席副社長です[7]。プッシャはマーケティングを彼に託し、自身はドープな音楽を作ることに専念します。

 

Let's cram numbers, easily
The only rapper sold more dope than me was Eazy-E

数字を詰め込もうぜ、簡単に

俺よりドープを打ったラッパーはイージー・Eだけだ

 

※イージー・E(Eazy-E)は自身のリリックを書かなかったことで知られており、ドレイクに対する当てつけとも取れます。

 

How could you ever right these wrongs
When you don't even write your songs?

これらの誤りをどう正すっていうんだ?

自分の曲も自分で書かないっていうのに

 

※これはドレイクの「Poetic Justice」におけるリリック[8]を踏まえたラインでしょう。

 

But let us all play along
We all know what niggas for real been waitin' on, Push

でもまあ、やろうぜ

みんながマジで何を待ってたか、みんな知ってるからな

 

※ドレイクへの宣戦布告です!

 

 

 

 

[1] ▶ Quentin Miller - 10 Bands [Reference Track Drake Used for 10 Bands] by New Music! Follow, Like

[2] Oscars: Will Smith Boycotted Grammys in 1989, Accepted Award from Chris Rock While Jada Watched in 1998 | Hollywood Reporter

[3] Mammy archetype - Wikipedia

[4] アメフトのスクランブルとは!?追い詰められたQBの最後の決断 | SECOND EFFORT(セカンド エフォート )

[5] Rick Ross – Idols Become Rivals Lyrics | Genius Lyrics

[6] Drake – Two Birds, One Stone Lyrics | Genius Lyrics

[7] Steven Victor Named SVP A&R at Universal Music | Billboard

[8] Kendrick Lamar – Poetic Justice Lyrics | Genius Lyrics