早速ですが、"Oxymoron"の
アルバムカバー公開と同時に
公開になったこの曲を
和訳してみます。




ScHoolboy Q - Break tHe Bank





~リリックと和訳~


曲名の"break the bank"ですが、これはWeblio曰く「胴元を潰す(負かしてその金を巻き上げる)、人を無一文にする」という意味です。Urban Dictionaryを引いたところ、"to spend more money on something than you normally would (いつも以上に何かにお金を使うこと)"とありました。周囲の人間の“どうせ成功しないだろう”という予想(賭け)を裏切ってそいつら以上に成功してやる、そして金を使い果たすんだ、というScHoolboy Qの気持ちが読み取れます。


[Verse 1]
Fuck rap, I've been rich, crack by my stick shift
Oxy like concerts, always my bread first
ファック・ラップ、俺はずっとリッチ、シフトレバーの脇にはクラック
オキシコンチンはコンサートみたいなもん、いつも最初に稼ぐのは俺
ファック・ラップ…ScHoolboy Qはラッパーになる前、52 Hoover Cripsというギャングに所属し、主にオキシコンチン(後述)を売って生計を立てていました。俺はラップなんかしなくても稼げるんだ、という意味でしょう。
stick shift (シフトレバー): MT車に付いてるあれ。(私はAT限定です。)
{158AE5F0-331B-42D2-882D-EFF3795CE42F:01}
クラック…パイプ等で吸引できる状態にしたコカインの塊
{2C37D5DE-7504-4B57-97BB-20F17242BA91:01}
oxy = oxycontin (オキシコンチン): オキシコドン塩酸塩(鎮痛剤の一種)。コカインやマリファナを売るよりもこちらの方が稼げることから、ScHoolboy Qはギャング時代、主にこれを売っていたそうです。
コンサート…ラッパーを含めたアーティストにとって、コンサートは収入源の一つであり、かつてのScHoolboy Qにとってはオキシコンチンがそうでした。
bread: お金

GetMine my nickname, O-X and cocaine
Nina my new thing, blew up before fame
「ゲット・マイン」が俺のあだ名、オキシコンチンとコカインでな
俺のニナは新調済み。名声を手に入れる前に成功したぜ
GetMine (ゲット・マイン): 自分のものを手に入れる
Nina (ニナ): 9mmハンドガン
名声を手に入れる前に成功…ラッパーとして成功する以前にも、ドラッグを売ってお金を稼ぐことはできたということ。

Heart filled with octane, fire in my soul
Burn through my shoestring, came up from boosting
心はオクタンで満たされ、魂に火が灯り
靴紐まで燃えた。もうブースティングとはおさらば
オクタン…石油中に含まれる物質
靴紐まで燃えた…ギャング時代、ドラッグを売り捌くことに奔走するあまり、靴を履き潰してしまったということ。
ブースティング…物を盗んで売って稼ぐこと。主に車などが対象となるようです。

Du-rags and flatlines, drive-by's at bedtime
Get down, I earn mine, so one loss they can't sign
夜にはドゥーラグと死とドライブバイ・シューティング
伏せろ、俺は自分で稼ぐ。一つのミスが命取りになるんだ
ドゥーラグ…黒人がよく頭に巻くもの。夜寝ている間、ブレイズがほつれないように着用することが多い。
{66633F76-7C42-4B54-AD85-87AF14A0D44A:01}
flatlines: 死ぬこと(心電図の波形が直線になることから)
ドライブバイ・シューティング…車で標的に近付き、車内から発砲し、そのまま逃げ去ること
以上の3つを並列に配置することで、自分の育った環境においていかに死が身近なものであったかを強調しています。
get down: 主に黒人の間では「踊る」という意味でも使われますが、ここではドライブバイ・シューティングとの繋がりも考えると、「伏せる」という意味かと思います。
一つのミスが命取り…メジャー契約を勝ち取るにあたり、これまでのアルバムでセールスの良くなかったものがあると、それが足を引っ張ることになってしまうということ。

Thank God that I'm straight, no wonder my mom prayed
Lost one of my cuzzos, cursed from them devils
俺が無事なことを神に感謝するよ、母さんが祈ってたのも無理はないな
従兄弟を失ったからな、悪魔に呪われたんだろう
straight: 大丈夫、無事
cuzzo = cousin
上述のような、それこそ悪魔が棲んでいるかのような環境にいたにも関わらず、これまで無事に生きてこれたことに感謝しています。

Good weed and me time, goodbye to Nissan
Cause one day this rappin' gon' pay
上等のウィードと俺だけの時間、ニッサンにはさよなら
いつかこのラップで儲かるからな
weed (ウィード): マリファナ
ニッサンにさよなら…日産自動車のような普通の車に乗るのではなく、これからは高級車に乗るという意味。
pay: 日本語でも「ペイする」という言い方がありますが、それと同じです。


[Hook]
So now we 'bout to break the bank, money be on my mind
がっぽり稼ぐぜ、いつも金のことが頭にある
'bout = about

Niggas talkin' 'bout, soundin' like la-da-di-do, la-di-da-di-da-di-do
みんな俺のことを話してる。ラダディド、ラディダディダディド

Now we 'bout to break the bank, money be on my mind
がっぽり稼ぐぜ、いつも金のことが頭にある

Niggas talkin' 'bout, soundin' like la-da-di-do, la-di-da-di-da-di-do
みんな俺のことを話してる。ラダディド、ラディダディダディド

La-da-di-do, la-di-da-di-da-di-do
ラダディド、ラディダディダディド

La-da-di-do, la-di-da-di-da-di-do, niggas talkin' 'bout
ラダディド、ラディダディダディド。みんな俺のことを話してる

La-da-di-do, la-di-da-di-da-di-do
ラダディド、ラディダディダディド

La-da-di-do, la-di-da-di-da-di-do, now we 'bout to break the bank
ラダディド、ラディダディダディド、がっぽり稼ぐぜ

ラダディド、ラディダディダディド…上手く訳せず申し訳ありません(笑)。訳しようがないわけですが、"la-di-da"は一般的に気取った様子、見栄を張った様子を表すようです。"La Di Da Di"というSlick Rickによる有名曲もあります。


[Verse 2]
My time to show out, finally the illest Crip
And I guarantee, I spit harder than concrete
俺様の登場、遂に一番イルなクリップ
コンクリートよりもハードにラップするって約束するぜ
illest: illの最上級。illはスラングで「イケてる」という意味。
クリップ…有名なギャング集団の一つである、クリップスの一員
spit: 唾。唾を吐く。転じて、ラップする。
コンクリートが硬い(hard)こととScHoolboy Qのラップが過激な(hard)ことを掛けています。

Surprised I got teeth, my lungs inhale kief
Peyote with THC, swinging for the fence
歯があるなんてビックリだ、俺の肺はキーフを吸い込み
THC入りのペヨーテでフェンスにぶつかる
歯があるなんてビックリ…上述のようにScHoolboy Qのラップ(≒唾)はコンクリート以上にハードです。それにも関わらず歯が欠けていないのは驚き、ということです。
kief (キーフ): 大麻の樹脂を集めたもの。大麻の花以上に向精神薬を多く含む。
{1E81636D-B0E7-4375-9385-BF4ECB231AEA:01}
ペヨーテ…棘の無い小さなサボテン。THC(後述)を含む。
{57FF3E87-F020-4742-80D4-FC642580AE0C:01}
THC: テトラヒドロカンナビノール。大麻の実効成分。
swing for the fence: フェンスに向けてスイングする。転じて【野球用語】ホームランを狙ってフルスイングする。全力を出す。ですが、この意味は次のラインで活きてきます。ここでは、キーフやペヨーテでハイになって、よろけてフェンスにぶつかる、くらいの意味でしょう。

I hope I make it out the park, where the baseheads slide
After dark, where the bangers get caught
ヤク中がコカイン求めてぶらつき、夜明けにはギャングが捕まる
この環境から抜け出せるといいな
make it out the park: 文字通りの解釈をすれば、球場(park)から抜け出すという意味ですが、ここではフッド(貧困層の黒人が多く住む治安の悪い地域)を抜け出すという意味にも取れます。"park"という単語を持ち出しているのは、上述の"swing for the fence"との繋がりからでしょう。全力でフッドを抜け出そうとする様子が窺えます。
basehead: 薬物中毒者
baseには野球の塁という意味以外に、コカインという意味もあります。薬物中毒者がコカイン(base)を求める様子を、野球のランナーが塁(base)に向けてスライディング(slide)する様子に喩えています。
banger = gangbanger: ギャングの構成員

Hid the gun in the trees, arrest me by the court
I just wanna smoke weed and sip lean by the quart, for real
木の中に銃を隠した、バスケットボール・コート近くで俺を逮捕でもしろよ
ただハッパ吸ってリーンをちびちびやりたいだけなんだ
court: ここではバスケットボールのコートを指すと思われますが、法廷もまた"court"です。これが"arrest (逮捕)"との繋がりをもっています。
lean (リーン): 咳止め薬とスプライトなどを混ぜ合わせたもの。ハイになれるそうです。

Good weed, I hit that, crack rock, I sold that
Oxy, I hid that, right by my nutsack
上等のウィードを吸って、クラックを売り捌いた
オキシコンチンなら隠したよ、玉袋のとこにな
nutsack: nutは睾丸、sackが袋であることを考えれば、自ずと「陰嚢」と分かるでしょう。

Fuck pigs, I bust back, learned that from Deuce rap
Peanut and B-loon, had gats before racks
おまわりなんて糞喰らえ、2パックみたいに撃ち返すぜ
ピーナッツとビール―ンは金よりも先に銃を持ってた
pig = 警官
Deuce: "2"という意味ですが、ここから2Pacを指すと思われます。2Pacは実際に警官に向けて発砲したことがあります。
Peanut, B-loon: (同じギャングの仲間の名前)

Way 'fore I found rap, bitch I had them things wrapped
Astro on my cap, this shot ain't no phone app
ラップに出会うよりずっと前、ブツを包んでたぜ
アストロズのキャップ被ってな。この銃声はアプリじゃないぜ
'fore = before
アストロズ…ヒューストン・アストロズ(MLBのチーム)
{9F4716F1-A404-4D40-8EA7-980937E38A83:01}
アプリじゃない…銃声を発するiPhoneのアプリがあるが、ScHoolboy Qは本当に発砲するということ。

Chucks on my young heel, make sure that my sag ill
Learn my set-trip grill, trade in my big wheel
ガキの頃からオールスター履いて、イルに腰パン
裏切り者の顔は覚えてるぜ、俺のでかいホイールにはトレードマーク
Chucks: コンバース・オールスター
{EF7C5C5C-16FC-4691-8354-7BB51DBF72F2:01}
sag: ズボンを腰で穿く
set-trip: 自分と同じギャングのメンバーを殺すこと
grill: 歯。転じて、顔。

Good grades and skipped school, this life gon' catch up soon
Sure 'nough that shit did, 20 year old kid
成績は良かったから学校はサボってた。いつか痛い目に遭うと思ったら
本当にそうなったよ、20かそこらでな
成績は~サボってた…ScHoolboy Qは実際に高校時代まで成績が良く、メガネをかけていたため、本名のQuincyと併せて現在のステージネームになりました。
this life: ここでは獄中生活のこと
catch up: 追い付く
sure 'nough = sure enough: 本当に
獄中生活(this life)がいずれ自分に追い付く(catch up)、つまりいつか収監されると思っていたら、それが現実になってしまったということ。実際、ScHoolboy Qは21歳の時、6ヶ月間の獄中生活を送っています。その理由については明らかにされていませんが、本人曰く「性的なものではない」とのこと。

Got off my behind, write me some sweet lines
Cause one day my story gon' pay
でもそこから足を洗った。ラブレターでも書いてくれよ
いつか俺の話で儲けるからな


[Hook]


[Interlude]
Your bitch wanted cash, get her know I'm around boy
Tell Kendrick move from the throne, I came for it
I hope this fuckin' hit arrange for it, cause Goddamn
お前のビッチが金欲しがってたな、俺がいるって知らせろ
ケンドリックに席を空けさせろ、俺はそのために来た
この一曲がその足がかりになればいいな。何故かって
throne: 王座。皆さんご存知かとは思いますが、昨年8月、Kendrick LamarはBig Seanの曲"Control"の客演バースで自らを"King of New York"と称し、物議を醸しました。皮肉なことに、このリリックがあまりに注目を集めたため、Kendrickが新世代のラッパー達の中で頭一つ飛び抜けたようなところがありました。「ケンドリックに席を空けさせろ」は、そのことを踏まえたラインだと思われます。
this fuckin' hit: この曲"Break tHe Bank"のこと("fuckin'"は、ここでは特に意味は無いので無視してください。)
arrange for A: Aの準備をする、Aの手筈を整える

[Bridge]
What you talkin' 'bout if it ain't 'bout the money?
Neck full of gold, I'm attracted to the honey
Rain, sleet, snow, 'bout the money
On Figueroa, close your eyes, might need ya mommy
金じゃなかったら何の話をしてるんだ?
首はブリンブリン、ハニーに夢中なんだ
雨か霙か雪かって具合にフィゲロアに金を降らせろ
目を閉じろ、 母ちゃんを思い出せ
ハニーに夢中…ゴールド・アクセサリーと蜂蜜の色が似ていることから
Figueroa (フィゲロア): ScHoolboy Qが育ったストリートの名前
母ちゃんを思い出せ…ここが一番よく意味が分からなかったのですが同じストリート出身の仲間たちへのエールとして、自分の母親を思い出してそのために頑張って稼げ、ということかと思います。


[Verse 3]
Fuck rap, my shit real, came up off them pills
Hustle for my meal, grindin' for my deal
ファック・ラップ、俺の曲はリアル、ドラッグ売るのはもうお終いだ
食ってくためにハッスル、契約のために奔走する
grind for A: Aのためにコツコツ努力する

Love how I'm doing, long way from grooving
Bitch call me 2 Chainz, units be moving
今の状況は最高だけど、楽しくばかりやってられねぇ
ビッチは俺のこと2チェインズって呼ぶ、それだけ金が動いてるからな
groove: 楽しむ
2 Chainz (2チェインズ): ジョージア州カレッジパーク出身のラッパー。詳細はこちら
{1B066513-F222-4E97-A110-409BCE98ABA6:01}
(左が2 Chainz)
ここで何故2 Chainzが出てくるのかといえば、彼がここ最近で商業的に最も成功したラッパーの一人だからです。ScHoolboy Qは自らの(これから果たすであろう)成功を2 Chainzのそれになぞらえています。

Go hard for my Joy, so she don't need no boy
Smile stay on her face, big room with her own space
ジョイのためにがっつりいくぜ、ジョイが男に頼らなくていいように
ジョイを笑顔にしてやるために、でっかい部屋を与えられるように
Joy: ScHoolboy Qの娘。アルバムのアートワークにも登場している。
{74F30CB8-79DC-496D-8195-FD81730B31A6:01}
go hard for my Joy: 自分の楽しみ(joy)のためにがっつり働くという意味と、娘(Joy)のために頑張るという意味を掛けています。

Up all night, the hard way, don't care if it take all day
I let y'all fucks parlay, you wonder why I'm straight
キツいけど徹夜だ、一日中かかってもしょうがない
お前らどっちに賭けた?なんで俺が平気かって不思議だろ?
parlay: 元金と儲けた金を次の賭けに賭けること。ここでは後述の理由から上のように訳しました。
ScHoolboy Qがギャング活動に身を投じていた頃を知る人の多くは、彼が結果としてストリートで命を落とすことになるだろうと予想して(賭けて)いたに違いありません。

New shoes and sick clothes, bitches be front row
Bow down her tempo, I don't know her info
新しい靴とイケてる服、ビッチ達は前列で
思い思いに踊ってるが、俺はそいつらのことなんて知らない
そいつらのことなんて知らない…自分が有名になり、面識の無い女性からも騒がれるようになったということを表しています。

Threw up my peace sign, go rare with mignon
Cause one day this rappin' gon' pay
ピースサインを掲げて、いい女と生でヤる
いつかこのラップで儲かるからな
rare: (肉が)レアの。転じて、コンドーム無しの。
mignon: 【仏】(女性などが)小さくて可愛らしい
実はこれはtriple entendreで、三重の意味が掛けられています。一つは上に挙げた訳。二つ目は、ScHoolboy Qは上質な牛肉を食べるという意味(filet mignonはヒレの尾の先端に近い部位)。三つ目は、上の訳とは真逆で、女性と交わることは稀(rare)だという意味。
ScHoolboy QはSnoop Doggの番組に出演した際、「セックスのことを考えるのは1日に2回くらいだ。それよりも今は金を稼ぎたいからね」と語っていました。なので、一つ目と二つ目の意味が表向きの意味、三つ目が本当に意図するところと私は捉えています。


[Hook] + [Bridge]




~その他~


前にも書いたかもしれないけれど
Hip Hopはその大部分が
エンターテインメントにすぎません。


今回和訳した曲も
中身が無いわけではないですが

何かメッセージ性があるとか
内面に迫るようなものではなく
エンターテインメントだと思います。


同じような内容を
みんながラップする中で
ラッパーたちはどこで
差別化を図っているかといえば

その表現方法やフロウ、
さらにはトラックだったりします。


そのあたりを意識しながら
楽しんでいただけたらと思います。


毎度のことながら
私の解釈が間違っている可能性も
十分にありますので
ご了承ください。


ここは違うんじゃないか、
などと思われる箇所があれば
指摘していただけると幸いです。