学生も企業も消耗する新卒一括採用 | Facebookで採用を変える人事コンサルタント日記

Facebookで採用を変える人事コンサルタント日記

Facebookをはじめとするソーシャルメディアの普及によって、企業における採用活動が大きな変革のときを迎えています。
霞が関の人事コンサルタントがソーシャル採用コンサルタントに転身し、変わりゆく採用の手法やマーケットの姿をリアルにお伝えします。

本日は記事の引用のみで失礼します。

大学生の就活は、もうピークである。また、今春卒業予定の大学生は史上最悪の状況とも言われ、内定率は7割にも満たない。学生は企業がどういう人材を求めているのかわからないため、当てのない会社回りを何十社もやる。企業のほうは、就職サイトで何万人もの学生が応募してくるため、採用にかかるコストが膨大になる一方、本当に優秀な学生が埋もれてしまう。

 その原因は、日本だけの新卒一括採用という雇用慣行にある。企業は新卒しか採らないため、学生は卒業までにどこかに潜り込まなければならない。企業のほうは、新卒で採らないと中途採用ではいい人材が採れないので、優秀な人材は早めに押さえたい。両者の利害が一致して、就活の時期が3年生に繰り上がる。

 面接では学業成績は問われず、「コミュニケーション能力」や「バイタリティ」などの曖昧な印象で採用する。IT産業でも、大卒総合職ではテクノロジーの専門知識はほとんど問われない。その結果、人柄がよくて調整能力が高いだけの汎用サラリーマンが大量に生まれ、日本企業の国際競争力は低下する一方だ。

 このような非生産的な雇用慣行を改めようという試みも行なわれたが、うまく行かない。たとえばJavaのコーディング能力で採用すると、それを使うソフトウェアの開発をやめたとき、そのプログラマーが社内失業してしまう。日本以外の企業では仕事のなくなった社員は解雇されるのが普通だが、日本では解雇規制や「終身雇用」の規範が強いので、仕事がなくなってもクビにできない。

 だから40年間いろいろな部門で使い回すことを考えると、特定の専門知識を基準にして採用することは意味がなく、どんな部門に配置転換されても文句を言わないで器用にこなす人物を採るしかない。年功序列で昇進や昇給を横並びにしているので、中途採用すると人事管理が困難になる。新卒一括採用は、大卒の生涯賃金が(年金・退職金なども含めて)4億円以上の固定費になる雇用慣行のもとでは、やむをえないリスクヘッジなのだ。

しかし、このような雇用慣行を続けた結果、日本のソフトウェア産業では親会社は仕様の決定と工程管理を行なうだけで、コーディングなどの専門的な仕事は下請けに出されるITゼネコン構造が生まれた。こうした構造は、高度成長期の製造業のように単純な技術で安くつくるブルーカラーが競争力の源泉だったときには、一定の合理性があった。

 市場が変化して部門を廃止するとき、労働者を解雇すると労使紛争が起こる。欧米のような産業別労働組合ではストライキなどで徹底的に抵抗するので業種転換が進まないが、日本では解雇しないで配置転換するので労使紛争が少なく、企業グループが全体として拡大しているときは系列の中で労働者を再配置して生産性を維持できた。

 しかし90年代以降、新興国との競争で企業の最適規模が縮小し、賃金の引き下げ圧力が強まると、成長を前提にした長期的関係は維持できなくなる。競争力の源泉になるコーディングの能力が中核企業に蓄積されないので、イノベーションが生まれない。ソフトウェアはコストを「人月」で計算し、価格を「原価+適正利潤」で算出する労働集約的な「3K」業種になり、優秀な人材が集まらない。

 これに対して欧米のソフトウェア企業では、エンジニアが企業の中枢である。シリコンバレーでソフトウェア企業を経営する中島 聡氏は「米国のソフトウェアビジネスにとってのソフトウェアエンジニアは、球団経営における野球選手のような存在。ストックオプションなどを駆使した魅力的な雇用条件を提供して優秀な人材を集め、彼らの生産効率を上げることが、ビジネスを経営するうえで最も大切なことの一つである」という。

 ソフトウェア技術者の能力によってコーディングの能率は大幅に変わるので、才能のあるスターを何人もっているかで企業の競争力が決まる。だからソフトウェア企業はハリウッドのスタジオのような専門家集団になり、その中心はエンジニアやプロデューサーのようなクリエイターだ。ホワイトカラーはスターをサポートするマネジャーで、企業は芸能プロダクションのような才能の入れ物になる。

 このような変化は、日本でも不可能ではない。日本でも外資系企業では解雇や転職は当たり前だし、ゲームソフト業界は「作家」中心で人材の流動性が大きく、それが創造的なエネルギーになっている。解雇を実質的に禁止している雇用規制が大きな障害であることは確かだが、横並びで年功序列を守って新卒採用するのではなく、リスク覚悟で中途採用を増やし、専門能力を重視することが日本企業の生き残る道だろう。筆者──池田信夫
(ASCII.jp)