──胆嚢が伝えてくれた、本音の声──
今日の訪問は、
言葉では言い表せないほど深い時間になった。
担当したのは、生活保護を受けながら療養している女性。
元看護師で、繰り返す胆石と胆管炎の末に、
最近ようやく胆嚢の摘出手術を受けたばかりだった。
けれど、彼女を長く苦しめてきたのは、
手術そのものよりも
人間関係のストレスだった。
職場では意図せず浮いてしまい、
陰口や無視のような態度を受け、
「私はいじめられているのではないか」
そう感じるようになり、退職に追い込まれた。
救急搬送されたときでさえ、
救急隊の対応が冷たく感じられ、
「もっと人間的に接してほしかった」
と涙をこぼした。
心が、長いあいだ
誰にも触れられずに固く閉じていたのだと思う。
香りが教えてくれた“本当の彼女”
アロマを試してもらうと、
彼女が「好き」と選んだのは
タンジェリンとオレンジ。
この二つは、
「子どものワクワク」「純粋な喜び」「自己肯定感」
を象徴する香りだ。
「ほんの少しだけ好き」と選んだのは
スペアミント。
これは「本音」「表現」「素直な気持ち」を支える香り。
一方で、苦手だった香りは多かった。
ベルガモット、ペパーミント、ゼラニウム、
ティーツリー、イランイラン、ライム、
フランキンセンス、レモングラス。
これらは
「自己表現」「境界線」「女性性」「魂の核」
と深く関わる香り。
つまり彼女は、
本音よりも周囲に合わせて生きてきた人だった。
胆嚢が伝えてくれていたメッセージ
そこで僕は、そっと尋ねた。
「子どもの頃は、どんな遊びが好きでしたか?」
彼女はふっと笑って、
「年下の子をよく可愛がっていました」
と話してくれた。
その優しさは、
きっと大人になっても変わらなかったのだろう。
でも、優しすぎる人ほど、
怒りや悲しみを
自分の中に押し込めてしまう。
看護師時代の人間関係で傷ついたこと。
救急隊の冷たさを感じたこと。
僕は、そっと伝えた。
「その時に感じた怒りって、
看護師の仕事で言われた言葉の時と、
同じじゃなかったですか?」
彼女は驚いて、言葉を失った。
「……同じ、です」
怒りを出せない人。
本音を言えない人。
優しすぎて、傷つきやすい人。
そういう人に、
胆嚢や胆管の不調が現れることは、決して珍しくない。
身体は、ずっとメッセージを送っていた。
「本音を言っていいんだよ」
「もう、我慢しなくていいんだよ」
そう伝えると、
彼女の目に、ゆっくり涙が溜まっていった。
本音の扉を開く香り──スペアミント
僕は言った。
「あなたが“少し好き”だと言ったスペアミントは、
本音を言うのを助けてくれます。
怖い相手や目上の人に直接言えなくても、
音楽やゲーム、ブログの中で
心の声を出せたら、それで十分ですよ」
彼女は大きくうなずいた。
その瞬間、
空気がすっと軽くなった。
怒りでも、悲しみでもなく、
ただ 共鳴が起きていた。
今日の訪問で、僕が確信したこと
この人に必要だったのは、
薬でも、手術の説明でもなかった。
「本音を言っていい」という許可。
優しさに寄り添われ、
香りに導かれ、
心の奥のワクワクを思い出し、
身体の声を受け取る。
それだけで、
表情が柔らかくなり、
声が明るくなり、
呼吸が楽になっていった。
訪問看護の枠を越えた、
魂のケアだったと思う。
僕は今日、心から思った。
“共鳴”が起きた瞬間、人は必ず癒される。