トラえもん!? -9ページ目

トラえもん!?

十代前半の和泉式部、定子、紫式部の三人に二十代の清少納言を加えた四人が中心の百合的日常。史実とは異なりますが、平安時代の女の子たちなので頻繁に和歌を詠みます。
『マーシュの魔術労働』はオリジナルの魔法学園もの

※昨日の続き

~永祚元年正月二日~
先ず清原さんが筆をとり、さらさらと紙に文字を綴ってゆく。
「あけぼのの伏してゆく年遠く過ぎて 十の女童 誰も知らずや」
※元横綱・曙太郎が(格闘技イベントでボブ・サップに)倒された、あの大晦日から十年以上も過ぎてしまった。(定子や許子ら)十歳くらいの女の子たちは誰も(あの試合を)知らないのかなあ…という意味
清原さんが自ら詠み上げると、定子さまは噛みしめるようにうなずいて、
「まあ、素敵。情景が浮かぶようだわ」
意味はさっぱりわからないけれど、お正月をあけぼの(夜明け)に喩え、遠くと十(とお)で韻を踏んでいる。まるで最初から考えていたように素早く歌を紡ぎだす清原さんの才に感服した。
続いて定子が筆をとる。
「初春の光遍く照らすとも」
詠み上げるが、上の句だけ…これは連歌※の誘いだ。
※現在いうところの短連歌。多人数で延々連ねていく長連歌の発祥は鎌倉時代以降だが、上下に分けた短連歌は平安時代に始まったといわれる。
「寒に身を寄せ影をつくれり」※
すかさず私が下の句を継ぐ。
※新年を迎え太陽も世を明るく照らしているが、人々は寒さのあまり集まって身を寄せ合い、そこに日陰ができてしまっているよ。という意味
「…こんな感じかしら?」
そう言って定子は私のそばに来ると、抱きついてぴったり寄り添ってみせた。
「そうですね…ふふっ」
「ふふふ」
ふたり、笑い合う。連歌のおかげで、文字通り定子との距離が近づいた気がする。
歌あそびをしている間にお茶の支度もできたようだ。
「僭越ながらわたくしもお茶菓子を持参致しました。定子さまに召し上がっていただきたく…」
私が生まれる前から昌子さまに仕える女房としての先輩でもある母に、家事はひととおり教わった。料理も、また然り。
「わたくしに…?」
ほかの料理では大人にはかなわないけれど、お菓子ならちょっと自信がある。久方ぶりに再会した紫さんには悪いが、このために早く帰って前夜から入念に準備した。
一度定子に献上された後、速やかに清原さんが毒見をして、ひとつ減った状態で再び定子の前に戻ってくる。
「いただいてもよろしくて?」
定子も私のお菓子に興味を示してくれている。
「どうぞ。定子さまのために拵えたのです。たった今、わたくしになってしまいましたが」
「どういうこと…?」
首を傾げる定子。箱は縦横とも四列に仕切られ、お菓子も最初は十六個あった。

(つづく)