トラえもん!? -8ページ目

トラえもん!?

十代前半の和泉式部、定子、紫式部の三人に二十代の清少納言を加えた四人が中心の百合的日常。史実とは異なりますが、平安時代の女の子たちなので頻繁に和歌を詠みます。
『マーシュの魔術労働』はオリジナルの魔法学園もの

※昨日の続き

~永祚元年正月二日~
お菓子の箱は縦横とも四列ずつに仕切られている。
「甲、乙、丙、丁。そして、一、二、三、四」
実際に数えてみせると、
「まあ。わたくしの名ね」
定子→ていし→丁四。定子もすぐに理解してくれた。
「ひとつ減りましたので、定子さまよりひとつ少ない。私の齢も定子さまよりひとつ少ない」
最初が定子で、ひとつ減ったあとは私というわけ。
「成る程!面白いわ」
お菓子にも遊びの要素を入れたことが、いっそう定子を喜ばせた。
「では、わたくしは許子さんを食べてしまうのね」
そう言ってまた私に抱きつく定子。
「お腹をこわされても知りませんよ」
そのまま定子がなかなか放してくれないので助けを求めるように清原さんを見る…と、定子が呟く。
「かわいい…この娘、欲しいな」
「!?」
せがむように清原さんに視線を送る定子。
「いけません」
先程と同じように、かぶりを振って言う清原さん。
「むーっ…」
あ、拗ねた。…おとなしそうに見える定子だけど、意外と我が儘なところもあるのか。
「お菓子はいらないの?」
そう言って清原さんが煽ると、
「いただくわ」
お菓子を食べたら定子もすぐに機嫌を直してくれた。
だいぶ長居してしまった。日が暮れる前に昌子(太皇太后宮)さまの御所へ帰ろう…
「あら、もう帰ってしまわれるのですか? こちらにお泊まりになればよろしいのに」
定子は殊の外、私を気に入ってくれた様子。
「すみません…お仕事もありますので」
母とともに昌子さまには随分お世話になっている。已むなし火急の訳もなく無断で休むわけにはいかない。
「そう…よろしければ、また明日もいらして?」
それに定子の父は娘の立后を目論んでいるのだ。三后の長たる昌子さまの立場をも揺るがしかねない…
「約束は致しかねますが…機会がありましたら」
遠回しに断っておく。
「なくては困ります。きっと…必ず会いに来てくださいまし」
定子は少し強引に私を抱き寄せ…ほんの一瞬、定子の唇が私の頬に触れた。
たったそれだけのこと…なのに、触れたところから火がついたように熱くなり、胸のあたりが祭り囃子の太鼓の如く騒がしい。
「…は、はい」
いつか、あるいはそのうちに、と付け加えるつもりだったが、それ以上言葉が出なかった。
口づけ、だったのかわからないけれど…昌子さまや母が“子供”の私に触れるのとは違う、不思議な感触がいつまでも残っている気がした。

(つづく)