※昨日の続き
清原諾子(なぎこ)という女性は定子の知り合いらしい。昌子(太皇太后宮)さまよりは遥かにお若いが、私や定子より十は年嵩であろう。
とまれ、定子とは随分親しい間柄であるらしい清原さんは、女官に顔を見せただけで容易く定子のもとへと通された。
「お待たせ致しました。どうぞ奥へ」
清原さんが話をつけてくれたようだ。私も女官に呼ばれ、ついて行く。
「昌子太皇太后宮にお仕えしています大江許子と申します。謹んで初春の御慶びを申し上げます」
正式に太皇太后宮の使いとして来たわけではないけれど、昌子さまの御名にだいぶ助けられている気がする。
「ごきげんよう。諾子から聞いていますわ。よろしければお茶など召し上がってくださいな」
「ありがとうございます」
定子は今年で十三(満11歳)とか。あわよくば皇后の座をという野心などは微塵も感じさせない、可憐で柔和で…どちらかといえばのほほんとした雰囲気の方だ。
「もしや、と思ったのですけれど…」
「はい?」
やはり入内の件は単なる噂か、あるいは父君や身内の大人たちが勝手に企てているに過ぎないのか。
「わたくしと許子さんは同い年ではないかしら?」
中らずと雖も遠からず。
「今年で十二になります」
「では、わたくしとは歳の差ひとつですのね」
定子は歳の近い友人がいないとのことで、私の突然の訪問を甚く歓迎してくれた。
紫さんと定子は同じ藤原北家の親戚で歳も近いけれど…なにぶん藤原氏は血をわけた兄弟でも権力争いを繰り広げているくらいだから、娘たちもおいそれと言葉を交わすことも許されないのかも。
「何かお手伝いできることは…」
お茶の支度をしてくれる女官に手伝いを申し出るが、
「お心遣い感謝致します。手は足りております故」
やんわりと断られた。
定子のほうを見ると、今度は清原さんと親しげに言葉を交わしている。些か歳の離れた姉妹のように仲睦まじく、そんな二人がなぜだか少し羨ましくもあり…
(…私を見た?)
定子が一瞬ちら、とこちらを見た後、口元を隠して清原さんに耳打ちしたように見えた。
「いけません」
かぶりを振って清原さんがそう言うと、定子は残念そうに…また私を見る。
「…?」
何事かと思わず私も定子を見つめていると、女官がやってきて定子に紙と筆を手渡した。続いて清原さんや私にも同じ物が配られる。
墨と硯も運ばれてきて…どうやら、お茶を待つ間に和歌でも詠もうということらしい。
(つづく)