初代 神武天皇 5.熊野の災難 | 神々の東雲

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わたくしたちの美しい国日本の成立を、記紀や神様のはなしを中心にまとめました。


実は、この部分のタイトルを、筆者は「神武天皇」としておりますが、「神武東征」とはいたしませんでした。

 

これには理由があります。

 

まず、「古事記」に関していえば、この「中巻」から、大きな単元はすべて天皇の名前になっています(ご参考までに、天皇という称号はこのときはまだ使われておりません。正式には天武天皇、また在位時からそう言われるようになったのは文武天皇からです。これは分かりやすい現代語訳です)。それに倣いました。

 

次に「東征」という言葉は「東方に征伐にいく」ということですが、なにもイワレビコさまたちは東国を征伐した訳ではありません。より良い場所を探していた(以前にも書きましたが、わたくしは高千穂の方がすっと良いと思いますが...)ために東に向かった訳で、征伐ではありません。

 

そしてこの三つ目が大事なのですが、これは顕かに「国譲り」とは違います。

 

国譲りは如何にも争った形跡を残していますが、これは後々の「和を以て貴しと為す」の神話上、もっとも最初の具体例なのですね。

 

その上で実現した「天孫降臨」を忘れてはいけません。

 

つまり、とても立ち位置が微妙なのですが、筆者の中では、ここは「神代編」と「人代編」に分かれていますが、このイワレビコの建国までが「天孫降臨」の流れなのだと思っています。

 

そんなスタンスで書いております。

 


前回のつづきです....

 


(現代語訳)

神倭伊波礼毘古命はそこから南に回り、熊野村に到着しました。

すると、大熊髣(オオクマホノカが)チラリと姿を見せて居なくなりました。

すると神倭伊波礼毘古命は突然、意識を失いました。

同行した兵士達もみな気を失ってしまいました。


 

※熊野について

熊野が出てきましたね。

熊野は神話の世界においても、また日本史的に、更には宗教的にも色々な意味をもっている聖地です。

伊勢、出雲、高千穂、大和(順不同です)、そしてこの熊野をしっかり抑えておかないと、神話も歴史もきちんと理解ができません。その中でも、特にこの熊野は難解です。

あ、無論、それ以外にも聖地はありますが、やはり日本国の建国に関しての聖地は、この5か所でしょう。

 

ところで、クマという音は「神」と同じ意味を持ちます。

 

つまり、イワレビコたちの前に現れた「大熊髣(オオクマホノカ)」は大きな熊というよりも、大和朝廷と敵対した異民族、または、その異民族の氏神と考えた方が良いと思います。

オオクマホノカは呪術などを使いこなせたのでしょう。

そういう未開の地、そしてここにずっと住まわれる神様が、当然のことながらいきなり現れたイワレビコという異民族を撃退するというのは、「神武東征」を逆の立場からみれば自然なことだと思います。彼らからみれば、単なる侵略者ですので...

 

 

(現代語訳)

このとき、熊野の高倉下(タカクラジ)が 一本の刀を持ち、

天津神の皇子であるイワレビコが倒れているところにやってくると、

イワレビコはすぐに目を覚まし起き上がり、

「長いこと寝ていたなぁ」と言いました。


イワレビコがその刀を受け取ると

熊野の山の荒ぶる神は、自然と切り倒されてしまいました。

そして気を失っていた兵士達も目を覚ましました。

 

天津神の皇子が、その刀を手に入れた理由を高倉下に聞きました。

タカクラジは答えました。

 

「夢を見たのです。 天照大神と高木神が建御雷神を呼び寄せて

『葦原中国はとても騒がしく、わたしの子供達が困っています。葦原中国はあなたが平定した国です。だから、建御雷神が降ってください』

と言ったのです。
 

(アマテラスの問いにタケミカヅチが)答えました。


『わたしが降りなくても、

その国を平定した刀があれば、大丈夫です。

この刀を下ろしましょう』

 

この刀の名前は佐士布都神(サジフツ神)といいます。

別名を甕布都神(ミカフツ神)。

別名を布都御魂(フツノミタマ)といいます。

この刀は石上神宮にあります。

 

『この刀を降ろす方法は、タカクラジの倉の屋根に穴を開けて、そこから落とすことにする。だから、お前は朝、目を覚ましたら、剣を取り、天津神の皇子に献上するのだ』と言いました。そして、夢の教えどおりに、翌朝、倉を見ると剣がありました。

この刀を献上したのです」

とタカクラジは言いました。

 

 

 

※「タカクラジ」は蔵を管理する人という意味の名前です。個人名かどうかはわかりません。

 

※天照大御神と高木神(高御産巣日神)

この二柱はまるでセットのように出て来られます。
復習すると、ニニギさまの父方の祖母神がアマテラスさま、母方の祖父神がタカミムスビさまでしたね。
で、もっというと、天津神の最高位。統治の象徴がアマテラスさまで、実質的な政治や采配をなさるのがタカミムスビさまなので、ここはセットで登場されるのは然程不思議なことではありませんが...

 

※建御雷神の面白さ

タケミカヅチさまのくだりには、申し訳ありませんが笑ってしまいました。
あ、神さまにすみません。近々、鹿島へお参りしますのでお許しを...

というか、この神さま好きですね...

この話、似たような話がありましたね??
そう、国譲りです(「葦原の中つ国の平定」参照)。
このときは、アメノオハバリが指名されましたが、タケミカヅチに譲ったのですね??

そのことがあったからかどうか、今回はお譲りになっています。

 

これは日本の精神なのでしょうか??
いつか、別のところで特集してみようと思います。

 

※フツノミタマ

刀が明らかにされました。このフツノミタマ(布都御魂)とは、物語にあるように、タケミカヅチが葦原国を平定した際にアマテラスさまに献上されたものです。「フツ」とは物と断ち切る音のことを現します。

ところで、国譲りの際に、タケミカヅチさまはこの刀をお使いになったのでしょうか??
この刀を逆さにさして、その上にお座りになり、オオクニヌシさまに交渉されたぐらいでしたよね??

つまり、古来、刀は武器ではありませんでした。ここは大事なところです。

恐らく、この刀は、魔よけ。そしてこの場面ではまさに、熊野の神の呪詛を取り払う役割に使用されています。
 

 

このあたりはとても興味深いですね。

 

やはり日本は農耕国家なんですね。

 

 

 

つづく...




 

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