平成29年初詣特集⑥ ~熊野信仰~ | 神々の東雲

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わたくしたちの美しい国日本の成立を、記紀や神様のはなしを中心にまとめました。

「信仰」という言葉を何気なく使っておりますが、この言葉は大変「宗教」色の強い言葉です。特に「神」に対して使う言葉であり、例えば仏教などでは、「信心」という言葉に置き換えられます。

しかし、よく言われることですが、日本人はキリスト教で結婚して、出産、誕生祈願祝事は神道で、亡くなると仏教だと。

いや、もっと身近には初詣は神道で、彼岸会、盂蘭盆会は仏教、クリスマス、バレンタインはキリスト教。それで当人は「自分は無宗教だ」と言われますと...

色々なことに信心深くて結構なことだと、筆者は思いますが、やはり時の変遷で形態がかわりつつも、この国には基本「八百万の神」がおわしますところ、それが生活に浸透しているのだと思います。


 

熊野信仰

さて、この熊野信仰も、その成り立ちはかなり難しいものであります。

名称の通り、「熊野三山」です。

熊野三山とは、熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社の3つの神社の総称です。この「熊野三山」の名前からもわかる通り、仏教的要素がとても強いのです。そして日本全国に約3千社ある熊野神社の総本社です。

熊野の地名が最初に現れるのは「日本書紀」の神代記、神産みの段で、イザナミさまが亡くなったとき熊野の有馬村(三重県熊野市有馬の花窟神社)というところに葬られたという記述があります。

そもそも、この熊野の三宮とそれぞれの主神は、熊野本宮大社(本宮)が家都御子神(けつみこのかみ)でこれはスサノオさまのこと、 熊野速玉大社(新宮)が熊野速玉大神でこれはイザナキさまのこと、そして熊野那智大社(那智)が熊野夫須美大神でこれはイザナミさまのことです。

それよりも熊野信仰の中心は「熊野三山」と「熊野権現」と言われており、これは神仏習合により、本宮の家都御子神(けつみこのかみ)は阿弥陀如来、新宮の熊野速玉男神は薬師如来、那智の熊野牟須美神は千手観音とされた。こうして熊野の三神は熊野三所権現と呼ばれ、主祭神以外も含めて熊野十二所権現ともいうことになったのであります。

熊野は古来、修験道の修行の地としても名のあったところであり、またそもそもが三社は別個に成立し、信仰の性質も異としていましたが、いずれも熊野に鎮座することから一体のものとして信仰されるようになりました。

これは、熊野が異界として畏敬と崇敬の対象であり、また記紀にあるように神々が住まう場所、さらに死の世界に通じる場所とされて語られてきたことも大きく影響しているものと思われます。

この場所を仏教系の山岳信仰者が熊野を修行場とし霊場として開発していきました。

 

 

〇熊野詣で

平安時代になると、修行者たちを先達として皇族や貴族が参詣するようになりました。

特に多かったのは後白河法皇(34回)と後鳥羽上皇(29回)です。

都から遠く離れた熊野まで上皇が足を運んだのは、熊野詣でをすると前世と来世にわたってご利益があるといわれたからです。

熊野までの道のりはまさに苦行の連続で、これを成し遂げることで生まれ替わり、新たな生命が得られると信じられていました。

これは、平安時代後期、阿弥陀信仰が強まり浄土教が盛んになってくる中で、この神仏が特異なかたちで融合し、まったくあたらしい信仰の形態をつくりあげたといえるでしょう。

現に、現存する熊野信仰(熊野神社)でも、スサノオさまが主神であることはあまり一般的には知られておらず、それよりも熊野権現という要素が強いことにも象徴されていると思われます。

 

 

〇日本人の原点

キリスト教にもその傾向がありますが、「神」はほとんど、来世を語りません。

一方、仏は来世を重視しています。それは仏教の根底には「輪廻」という考えがあるからなのかもしれません。

それに連なって「現世を神に、来世を仏に」という考え方は、実は日本人の最も一般的な考え方なのでしょうか。

そしてそれには「神と仏は一体の存在」という信仰がなければ成立し難くなってきます。

さらに言えば、日本人は「死に様」を重視しています。それはその「死に様」を現世の総決算、そして来世の始まりと捉えているからで、それを極端な形で示したのが武士道です。武士道は儒教の影響もありますが、「神と仏は一体の存在」という信仰がなければ成り立ちません。

それは長らく日本人の特質・美徳と考えられてきた多くのものであり、神仏習合信仰の上に成り立っていたといえるでしょう。

その神仏習合発祥の地が熊野で、熊野には神道の原点である自然神信仰と祖先神信仰、修験道、仏教その中でも浄土信仰と観音信仰、現在の日本人の信仰の原点となる信仰が全て揃っていました。

鬱蒼とした大自然の中に神と仏が共存する世界、それが熊野なのです。

 

 

 

熊野への初詣は、おおよそ毎年11万人くらいですが、一番人気があるのは那智の滝です。交通アクセスの利点もありますが、近隣の熊野神社に参拝されるかたは、そんな熊野三山、熊野信仰などにある、日本人の信仰の原点を考えられてもよろしいのかと存じあげます。

 

 

via 神々の東雲
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