紗絵のあの忌わしい出来ごとから 二年が過ぎた。


町中 どこの店でもクリスマスバージョンの飾りつけがしてあり 何処からともなく聞こえてくるクリスマスソングで賑やかだ。



紗絵は、この時期がくると 家に引きこもってしまう。



あの忌まわしい出来ごとがトラウマとなって この時期は どうしても 足が外に向かないのだ。



突然 暗闇の中に引きずり込まれ そして あの 男たちの声が聞こえてくるのだ。



「へっ へ、へ  どうだ? 気持いいだろ! 」


「ふ~ん  いい身体してんじゃん  あっはははは~」



紗絵は 布団をかぶって 両手で耳を塞いでも どうしても 聞こえてくるのだ。



「いや~ やめて~!」



紗絵は 二年前 レイプをされてから 恋人だった彰には 理由も告げず 


ただ ”もう 会えない ごめんなさい” とだけ メールで送った。






彰にとっては なにがなんだか 分からず 何度もメールを送ったが 返ってはこなかった。


電話しても 着信拒否され 暫くして 番号も変えられてしまった。


連絡手段もないまま 納得いかない別れをしたのだ。


(所詮 お嬢様の気まぐれに 付き合ってただけだったのか!…)


そして その日彰は ”いつか 見返してやる” と  微かな復讐心が芽生え始めていたのだ。




つづく…

 






そのころ彰は、紗絵との連絡が途絶えたことに苛立ちを感じていた。



(何かあったんだろうか? いや それなら連絡くらいしてもいいだろう。)



そして ついには、苛立ちも怒りに変わってきた。



紗絵との約束の時間から既に4時間が過ぎていた。



「なんで、携帯にでないんだ! なんで電源きってんだよ! ざけんなよ!! チクショー爆弾



彰は、冷蔵庫から缶ビールを取り出し 一気に飲み干すと その空き缶を壁に思いっきり投げつけた。



そして やり場のない怒りを紛らわすために  夜の町へ出て行った。





紗絵は佐久間の車に送られて 家に着くなり 母親の恵子の胸の中に飛び込んだ。



事前に佐久間は 恵子に今の紗絵の状態を連絡していたのだ。




「マッ マー う~ あっ、たっ、し~ あ~」



母の胸の中で 震えながらも 懸命に話そうとするが、上手く声が出てこない。



そんなわが子の乱れた身なりをみて おおよその事態を察した恵子は、佐久間にお礼をして、その場は 帰ってもらった。



(とにかく このままでは いけないわ   紗絵を早く病院へ連れていかないと…)



恵子はすぐに 知り合いの内科のドクターに連絡をとった。



すると 恵子の話の様子から 婦人科のほうがいいだろうと 内科ドクターは婦人科に手を回してくれ 時間外であったが 特別に診察をしてもらえた。 



男たちによって汚された紗絵の膣の中は きれいに洗浄され アフターピルを渡された。



心のケアは、後日 精神内科のほうで見てもらうという事にして ひとまず 母に抱えられ家に帰ってきた紗絵は 病院からもらった睡眠剤によって ようやく 眠りについた。



そのころ 町内の寄り合いで 出かけていた紗絵の父親は、恵子からの連絡を受けて 慌てて 帰ってきた。



「どいつだ 紗絵にこんなことをしやがって! ぶっ殺してやるメラメラ



紗絵の父 晴彦は 怒り狂って 部屋中をぐるぐる歩き回りながら 誰にともなく 怒鳴り散らしていた。



暫くは、興奮状態だった晴彦も 冷静を少しづつ取り戻したのか 目を閉じて なにか 考えていた。



そして 恵子に向って静かに話し始めた。



「いいか このことは 警察には知らせなくていい  紗絵の将来のために そっとしておこう  早く忘れることだ 」



「ええ それが 一番いいのかしらね 騒ぎたてて 近所にでも分かったら 余計に傷つくのは 紗絵自身ですものね。」



「紗絵と付き合ってる どこの馬の骨とも分らんやつとも この際 別れさせよう

俺はな 佐久間と一緒になってほしいと思ってるんだ  おまえはどう思う?」



「あなた こんな時に…  今は とにかく 紗絵の精神的なフォローが必要だと お医者様だっておっしゃってたわ 」



「まあ そうだな  気をつけてみてやってくれ」




そして 晴彦は そっと 娘の寝顔を見にいった。



幼いころ 無邪気に父の膝にまとわりついてきた あのあどけない笑顔はもう見ることはないだろう。



眠っている娘の目じりから涙がつたっているのが見えた時 傷ついた過去を背負って大人になって行く娘に 父もまた 切ない想いで涙ぐんでいた。




つづく…













紗絵は男たちの車に乗せられて 人気のない路地に降ろされた。



「ありがとよ 楽しませてもらったぜにひひ  メリークリスマース  あははは~」



そう言い残して 男たちの車は猛スピードで走り去っていった。DASH!



紗絵はその場に立っていられず しゃがみこむと ブルブルと震えだした。



着ていた服は ただのボロ布が身体に張り付いてる状態でしかなく 腕や腿、ふくらはぎ 紗絵の身体のあちこちに 男たちに抑えつけられた時のうっ血が生々しく残っている。



辛うじて原型を崩さなかったカシミヤの黒のコートが腕を通さずに 肩にかかった状態で 紗絵の身体を守っている。



突然 足元に転がっていたバッグの中から携帯の着信が鳴った。



まさに 救いの神が降りてきたかのような 音に聞こえた。



ハっと我に返った紗絵は 目隠しの手ぬぐいを解いて 慌てて携帯を取ろうとするが 手が震えて 思うように持てない。



何度も取ろうとするが 手から滑り落ちる。



救いの神は 鳴り止んだ。



やっと携帯を開けると 着信履歴には ”あきら” と書いてあった。



( 彰… ごめん 汗 あたし もう だめ… )



紗絵は肩から滑り落ちそうになったコートに袖を通し、震える手で コートのボタンを掛けた。



ロングコートは、紗絵の乱れた恰好を隠してくれた。



歩くにも足に力が入らない。



靴はいつから履いてないのか… おそらく 連れ去られた時には 既に 脱げ落ちたのであろう。



ガクガクと膝が震え 何度も転びながら それでも何とか 大きな通りに出た。



近くにあった電信柱は 紗絵の身体を支えてくれる守り神のようだった。



スーッっと一台の乗用車が紗絵の前で止まった。



紗絵の身体は緊張して強張った。



あの悪夢が繰り返される…  (いや~ 近寄らないで!! )




「紗絵さんじゃないですか~ どうしたんですか?」



左側のウインドウーが開いて 右ハンドルの運転席側から見を乗り出して 男が声をかけた。



紗絵の父親が経営する会社の従業員の佐久間だった。



佐久間は紗絵の乱れた姿に一瞬息を飲んだが 慌てて 車から降りて 紗絵を抱きかかえるように車に乗せた。



「ん ぐぐぐ~  あ、り、が… と  」



安心したのか 紗絵は泣きじゃくりながら 佐久間にお礼を言った。




「とにかく おうちまでお送りします」





家に着くまでの間 紗絵の携帯は何度も鳴っていたが 出る事はしなかった。



そして ついに 紗絵は電源をOFFにしてしまった。



(もう 彰とは会えない こんなになってしまって ごめんなさい  さようなら 彰…)



その日 紗絵は涙で滲む町の明かりを見送りながら 彰との決別を一人決めたのだった。




つづく…








 



男のひとりがズボンのチャックを上げながら ニヤニヤして言った。



「よかったよ お嬢ちゃん にひひ




暫く放心状態でぐったりしていた紗絵は、我に返って 身体を思いっきり小さく丸めると ぶるぶると震えだした。



もう一人の男がそんな紗絵の姿をみて 尚も興奮してきてのか 丸まった紗絵の背中に舌を這わせた。



「気持ち良かっただろ ん?  得意げ 」



そういいながら その舌はお尻の割れ目に入っていった。



「いや  や・め・て  お、お ね が い

 


恐怖で声を出せなかった紗絵は やっと絞り出した小さな声で言った。



男の舌は脚の付け根を通り紗絵の花園の周りを尚も責め続けた。



「ん~ あっ あ~  やめて~汗



すると 突然 ベッドの下に転がっている紗絵のバッグから 携帯の着信を告げる歌が聞こえてきた。



「ちぇっ! いいところだっだのに 」


(あ~ きっと彰からだ  助けて彰…)



携帯の着信はしばらく鳴って切れた。



男はしらけてしまったようで、 紗絵の身体から離れた。




つづく…



 



街のあちこちのショップには、イルミネーションや色とりどりの飾りつけが目立つようになった。



飲み屋が立ち並ぶ路地には、サンタクロースの恰好をした男が 特別サービスの宣伝用のプラカードを手に 道行く男たちに声をかけている。



コートの襟を立て足早に行き交う人の波の中に彰の姿があった。



大きなショーウインドウの前で、彰は足を止めた。



ガラスの向こうには、真綿を雪に見立てたクリスマスツリーが品よく飾られていた。



そして その下には真っ白な綿の上に赤や青のリボンで結ばれた小さな箱がいくつか置かれていた。



入口のドアには、ジュエリーAKI と書かれてあった。



ちょっと 戸惑いながら 彰は、店の中に入っていった。



ショーケースの中には、指輪やネックレスなど ライトの効果も手伝って一段と輝いてみえた。



店内には、若いカップルがイチャイチャしながらケースの中を覗いていたり、スーツ姿の熟年の男性が店員にケースの中のものを何点か見せてもらっていたり、何人かの男女がケースの中のものを眺めていた。



中年の上品な感じの女店員が空かさず彰の前にやってきて 



「どういったものをお探しでしょうか」 



と 尋ねてきた。



彰は、こういった店は、初めてだったので ちょっと照れくさそうに

「いや ちょっと…」 といった曖昧な返事をした。



「どなたかのプレゼンントをお考えですか」



「あっ はい」



「おいくつ位の方ですか」



「22歳の女性です」



「あ~でしたら 今流行りのこちらなんかいかがでしょうか」




慣れた感じで店員が差し出したものは、ダイヤのハートが二つ繋がったホワイトゴールドのネックレスだった。



「今ならクリスマスセールでお買い得になってますよ」



彰は、値札にちらっと目をやった。



(少し奮発するつもりだったから まあいいか…)



少し高いと思ったが



「じゃ これください」 と店員にいった。



「ありがとうございます。 クリスマスプレゼントになさいますか」



「はい」



暫くして店員がクリスマス用の包装紙に赤と金のストライプのリボンを結んだ箱を持ってきた。




店を出た彰は、 何故かほっとした。



クリスマスまであと一週間

紗絵の喜ぶ顔が見たかった。



クリスマスは紗絵の提案で、彰のアパートで 紗絵が料理教室で習った手作り料理で二人だけのパーティーをする予定になっていた。



そう あんなことがなければ…




つづく…