音楽もかけないままヘッドフォンをすると、自分の心音だけが聞こえてきた。
自分と向き合わなければならないか?
そんな気にさせないでくれと急いで曲を耳に流し込んだ。
ところが曲が流れ込んできてもそれはおんなじだった。
静かに近寄ってくる足音にビクついているのはやっぱり俺だ。
こんな夜は早く消し去りたいのに・・・・
記憶という言葉が・・・・
失った時間だけが俺を襲った。
俺は誰?_何者なの?
何をしていたか分かったところで、それは今の俺じゃないから。
君とならこれからだって生きていけるって思っているのに、
不安からは逃れられないのは、何故なんだ?
怖い・・・
何が分からないのかが分からなくて怖いんだ。
ただ眠るだけ。
ただ今の俺を演じるだけ。
友達は過去の俺のお下がりのように感じて、凄く気分が悪い気もする・・・
どう接していたのか分からなくて、周囲の反応が怖いんだ。
俺を恐れてるかもしれなくて。
そんなことないだろう。
分かってる。
そんなことはない筈だ・・・けど・・・
俺は何と別れなければならないのだろう?
記憶がいつか戻るなら、こんな悩みも一緒に消え去ると思うのに・・・・。
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ガチャンッ!!
リリィ:「ふざけないでっ!!」
ソンジョン:「落ち着いてよ・・・。」
リリィ:「何を言い出すかと思えば・・・・私は騙されないから。
例えそうだとしても何?だから自分の方が可哀想だって言いたいわけ?」
ソンジョン:「リリィ・・・違うよ。後で知るより・・・僕が言ったほうがいいと思ったんだ。」
リリィ:「何を・・・。」
ソンジョン:「まぁ、座ってよ。」
カタンッ
リリィの自分でも分からない怒りを椅子が代弁している・・・
ソンヨルは心配そうにカウンターから見守ったままだ。
俺は・・・そんな状況をナナに見せてしまって、自分でも分からないけど
とにかく目が合った時にナナに触れて、安心させた。
ソンヨル:「なぁ、ミョンス・・・あのソンジョンってやつ、本当にリリィのお兄さんなんかな?」
ミョンス:「分かんない・・・でも、凄く深刻そうだから深い理由があるんじゃないかな・・・。」
ソンヨル:「うん・・・ところでさ、二人のこと聞きそびれてたんだけど、ナナちゃん、
ミョンスとどこで知り合ったの?」
ナナ:「えっ?えと、大学。」
ソンヨル:「大学?・・・そうなんだ。どんなきっかけだったの?」
ミョンス:「おいおい、なんだよ唐突に。」
ソンヨル:「いいだろぉ~別にぃ~俺達の間に秘密なんて今までだってなかったじゃん!」
ミョンス:「そうかぁ~?そうだったかぁ~?」
ソンヨル:「おいっ!どういう意味だっ!」
ミョンスがふざけているのだろうとソンヨルは突っ込んだ。
が、ソンヨルはこれも演技かもしれないと心のどこかで思ってしまっていた。
ミョンス:「www」
ナナ:「わっ・・私がずっと好きで・・・それで声をかけたの。
少し考えさせてって言われた夜にLINEでおkしてくれて・・・。」
ソンヨル:「へぇ~・・・じゃぁ、ナナちゃんも俺らと同じ大学?」
ナナ:「えっ、あ、はい。」
ソンヨル:「ふぅ~ん・・・。あぁ~・・・背中痛い・・・。」
ミョンス:「何、突然。筋肉痛か?」
ソンヨル:「まぁ、そんなとこだwそれよりあの二人大丈夫かなぁ・・・。」
ミョンス:「分かんないんだから、そっとしとくしかないだろ?」
ソンヨル:「う~ん・・・。」
ミョンス:「・・・・・・。」
俺は、1つ気になってたことがあった。
俺のLINEに、ナナの名前がなかったこと。
それから、リリィのも。
偶然なのか?
そのことが頭に浮かんだ時、ソンヨルはエスパーなのかと思うようなことを言ってきた。
ソンヨル:「なぁ・・・お前今回の事件の前に言ってた事覚えてる?」
ミョンス:「え?自分の言ったこと?俺なんか言った?」
ソンヨル:「うん・・・お前さ、誰とか言わなかったけど、今度こそある人とLINE交換
したいんだって言ってたんだよ。そんな話した後だったから・・・変だなって
思ってさ・・・。w、ごめんね?ナナちゃん・・・そのっ・・・気を悪くしないでね?」
ナナ:「いえ、大丈夫・・・。」
そうは言いながらも何か焦った表情をしているナナ。
ミョンス:「俺が?誰かとLINE交換したいって言ってたの?
それは覚えてないなぁ・・・。」
ソンヨル:「お前さ・・・ごめんな?こんなこと言いたくなかったんだけど・・・」
ミョンス:「何?」
ソンヨル:「お前・・・記憶・・・取り戻してないだろ?」
ミョンス:「っ・・・・。」
ナナ:「そっそんなことないよ!!ミョンスは私のこと分かってたし、ソンヨル君のことも
覚えてるって言ってたもん!!そりゃ、混乱してる部分はまだあるけど・・・・。」
ソンヨル:「ごめんね?ナナちゃん・・・俺、ミョンスに聞きたいんだ。」
ナナ:「あっ・・・。」
ソンヨル:「どうなんだよ?ミョンス・・・。」
ミョンス:「・・・・・ごめん。でも、今は何も聞かないでくれ・・・
なんか、自分でも分からないんだけど、思い出そうとすると頭が痛くなってきてさ、
恐怖さえ感じるんだ・・・もしかして俺に忘れたい何かがあったのかもって思うと
このままのほうがいいのかなって・・・それに、みんなもしも俺が覚えてないって
言ったら・・・・壊れ物に触れるみたいになるだろ?それが嫌なんだ・・・。」
ソンヨル:「ぶぁ~~~かっ!バーカバーカバ~~~カッ!!」
ミョンス:「はっ!?」
ソンヨル:「お前バカかっ!?そんなことしたら余計気を使うだろ?大体バレバレなんだよ。
俺がお前の異変に気がつかないとでも思ったのか?記憶ないからしゃーないけど、
お前の記憶が戻ってんなら俺にこんな気の使い方はしねーのっ!」
ミョンス:「ソンヨラ・・・ごめんっ・・・。」
ソンヨル:「あのなぁ~・・・記憶ないっつった方がお互い気が楽じゃん。」
ミョンス:「?」
ソンヨル:「だってそうだろ?その記憶を紐解く何かを見たり聞いたりする手伝いぐらい
できるだろうし、一人よりは心強いじゃん。お前のやってることは、かえってみんなに
迷惑なんだからやめろよな!」
ミョンス:「そっか?」
ソンヨル:「そっかじゃねぇ~~~っ!!」
そう言ってソンヨルはミョンスの頭をぐしゃぐしゃにかき回してやった。
ナナ:「あっ・・・あのっ!私そろそろ帰るね?」
ミョンス:「ナナ?」
ナナ:「ごめんっ!暇そうだし・・・店長に帰ってもいいか聞いてくるっ!」
ソンヨル:「どうしたんだ?急に・・・。」
ミョンス:「なんだろ・・・。」
ミョンスはそう言ってソンヨルをその場に残し、ナナを追いかけて事務所に向かった。
そんなミョンスの背中を見たあと、急にあの二人がどうなったのか気になって
背伸びをするようにうかがった。
リリィ:「座ったけど?」
ソンジョン:「あのね・・・僕、養子なんだ。」
リリィ:「それ、さっき聞いた。で?」
ソンジョン:「うん・・・両親はね?男の子も欲しかったんだって。」
リリィ:「それを言うなら男の子が!でしょ?」
ソンジョン:「ううん・・・どっちもだよ。でもね・・・両親はずっと子供が授からなかったんだって。
それで僕を養子にしたんだ。似てないだろ?いいよ。正直に言って。」
リリィ:「だからなんなの?女の子も欲しかったなんて嘘!!
だったら何故私が養子に出されたのっていうの??」
ソンジョン:「リリィ・・・違うんだ。君は記憶違いをしてる。」
リリィ:「記憶違い?そんなわけないじゃない。ちゃんと覚えてるのに。」
するとソンジョンは悲しげに首を振った。
リリィ:「もうなんなの!?ハッキリしてよ!!」
ソンジョン:「僕は養子って言ったろ?リリィ、君も元々養女なんだよ・・・。」
リリィ:「はっ?何言ってんの?そんなわけ・・・。」
ソンジョン:「本当だよ。僕とリリィは、君の言う通り、本当の兄妹じゃない・・・
僕らの両親はそれぞれ僕らを捨てたんだ。
君と僕は赤の他人。血なんて繋がってない。」
リリィ:「じゃぁ・・・私を養女に迎えておいて、また捨てたの?」
リリィの瞳には悲しみの涙で今にも溢れ出しそうだった。
ソンヨル:「もうやめろっ!!おぃっ!お前なんのつもりでこんな話・・・っ!!」
リリィ:「ソンヨル・・・・・・いいの・・・なんか・・・今までどうしてこうだったか・・・
いい加減私にも知る時が来たんだと思う・・・。
私がソンジョンに対して違和感があったり、どうしてそんなに
反抗的だったかなんだかわかった気がするの。」
ソンヨル:「リリィ・・・。」
すると、ソンジョンはソンヨルに目を配った。
ソンジョン:「彼氏?」
ソンヨル:「そうだけど・・・。あんまりリリィをいじめないでくれ。」
ソンジョン:「いじめてるつもりなんてないけど、そうだね。
今日はこの辺にしておこうかな・・・。」
リリィ:「いいわよ。ここまで話したんだから、全部言ってよ。
ソンヨル・・・ありがとね?」
ソンヨル:「リリィがそれでいいなら・・・。」
ソンジョン:「じゃぁ・・・話すね?僕とリリィは
今の僕の両親の元に同じ施設から一緒に来たんだ。」
リリィ:「えっ!?それは・・・知らなかった。」
ソンジョン:「うん・・・リリィは小さかったし、その後のことで
相当ショックだったのかもしれないね・・・。それで、僕とリリィは数年間はずっと
兄妹として育った。武道を習ったのも一緒だった・・・本当の兄弟のように
僕たちは武道のセンスがあったんだ。素質っていうかさ・・・。」
リリィ:「・・・・。」
ソンジョン:「それで、リリィ、驚かないね?僕らの両親はある日突然、
イギリスへ行くことになってしまった。リリィはそれを行きたくないって
頑なに拒否したんだ。」
リリィ:「嘘っ・・・覚えてないよ・・・。」
ソンジョン:「かもしれないね・・・。困った両親は親戚に相談したんだ。
そしたら、僕らの叔母にあたる人が預かってくれることになったんだ。
でも、いつ戻るかもわからなくてそういう話もちゃんとリリィにはしたんだよ?
それでもリリィはイギリス行きを断ったんだ。」
リリィ:「それで私は結局その叔母の養女になったの?だとすると、今の両親は
叔母と叔父なの?」
ソンジョン:「ううん・・・違う。」
リリィ:「え・・・どういうこと?」
ソンジョン:「僕と両親はイギリスへ発った後、リリィともしばらくは連絡を取ってたよ。
でもいつの日だったか、急に連絡先が分からなくなったんだ。
叔父と叔母がリリィを連れて姿をくらましたんだよ・・・。」
リリィ:「どうして・・・?」
ソンジョン:「借金だよ。いろんな人に追われて・・・しまいにはお酒を飲んだくれて
家にリリィを残して、蒸発した・・・。それを児童相談所の人たちが見つけて
リリィは保護されたんだって。その時のリリィはほとんど口に何も入れてなかった
みたいでガリガリに痩せてたそうだよ・・・保護されてすぐに病院へ運んだけど
1週間ぐらいは意識が朦朧としてたみたい。
多分・・・そのせいで記憶が曖昧なのかもしれないね・・・。
僕は今になって君を探した。
武道のすごい女の子・・・絶対どこかで有名になってるって信じて。
僕はいろんな痕跡を探し歩いたんだ・・・
そして見つけた。」
リリィ:「じゃぁ・・・今の両親は・・・私が養女なのは分かってたけど・・・
二人目の両親・・・ううん、3人目の両親だったんだ。」
ソンジョン:「そういうことになるね。そうやって僕がリリィを探してる間に、リリィの辿った
運命を知ることになったんだよ。僕だって最初は何も知らなかったから。」
リリィ:「そうだったんだ・・・オッパは何も悪くなかったんだ・・・。ごめんなさい・・・・。」
ソンジョン:「あはっwやっと僕のことオッパって呼んでくれたねっ!
それに謝らなくていいんだよ。僕の方こそ、迎えに行くの遅くなってごめんね?」
ソンジョンがそう言うと、リリィはテーブルに伏せて泣き叫んだ。
なんてバカだったんだろう!!
どうしてこんなに優しいオッパを勝手にイメージして蔑むことができたんだろう!!
オッパ・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・
ソンジョン:「リリィ?僕はね、小さい頃に約束したんだ。君をずっと守るよって・・・
でも、僕が約束を破ったから、・・・だから、リリィの頭の片隅にある記憶が
僕を怒ってたのかもしれないね^^ごめんね?」
ソンヨルは嫌なっ気持ちが渦巻いて仕方が無かった・・・
なんて醜いんだろうって頭ではわかってても、こいつが許せなかった。
そうだ・・・『嫉妬』だ。
ソンヨル:「今更・・・なんで来たんだ?俺は納得いかないね。
妹を探しに来た?もうそれぞれちゃんと生活してたのに、リリィを
混乱させる為だけに来たみたいに俺には見えるけど?」
ソンジョン:「彼氏がそういうのも無理はないね。確かにこれは僕の身勝手だ。」
ソンヨル:「ほんとに妹を探しに来ただけか?血は繋がってないんだよな?」
ソンジョン:「あははっw何を心配してるの?例え血は繋がってなくても、
僕はリリィの兄だ。これからリリィを支えてやりたいんだよ・・・
それは遠く離れていたって心の支えぐらいにはなれるだろ?」
ソンヨル:「・・・・。」
俺は誰に嫉妬してるんだ?
相手は兄として言ってるだろ?
落ち着け・・・落ち着けよ俺・・・。
でも、俺にもリリィとそんな繋がりってやつがどうしても欲しかったんだよ・・・。
気が付くと店内にお客は一人もいなくなっていた。
どうやら店長が店を閉めてくれたようだ・・・
それぐらいリリィとのこの店にも繋がりがあるようだ。
ソンヨル:「店長・・・店、締めてくれてたんですね。」
店長は手をフリフリして気にすんなって合図してくれた。
ソンヨルは店のドアを開け、外の様子をただなんとなく見回した。
一度外の空気でも吸って、自分の中にある嫌な気持ちを
伸びをして、突破らいたかったのかもしれない。
ソンヨル:「んあ゛~~ぁあっ!!」
背伸びをして天まで届くように両手を伸ばした。
ミョンス:「ソンヨラ~。」
ミョンスの声にソンヨルは店の方に振り返った。
ソンヨル:「お?ミョンス・・・ナナちゃんは?」
ミョンス:「とっくに帰ったよw」
ソンヨル:「そっかw急に帰ったけどどうしたんだ?」
ミョンス:「分かんないけど・・・ま、大丈夫だよ。」
ソンヨル:「・・・・・・・・・。」
ミョンス:「ソンヨル?・・・おい、どうしたんだよ?急に黙っ・・・」
そう言っている間にソンヨルはみるみる青ざめていた。
ポタッ・・・ポタッ・・・ポタッ・・・
それは次第に水たまりを作り・・・・
ポチャンッ・・・ポチャンッ・・・ピチャンッ・・・
ソンヨルが唸り声を上げながら、ミョンスへと倒れ込んできた。
ミョンス:「ソンヨル?」
ふざけてるのかと思って、半笑いのままソンヨルの名前を呼んだ。
けれどソンヨルは起きるあがることなく、うなだれたままだ・・・。
すると、どんどんソンヨルからなのか、生暖かいものが伝わってきて、
ミョンスのシャツの袖をグングンと赤く染め上げていった・・・
ミョンス:「血っ・・・?なんでっ・・・おいっ・・・冗談だろっ・・・?
おいっ!!ソンヨルっ!!ソンヨルッ!!」
信じられない光景にようやくミョンスは顔を上げると、同時に店内からはソンジョンが・・・
そして、正面にはミョンスの記憶を奪ったとも言っていい、
いつかのあいつらがにこやかに立っていた。
誰だ・・・・・・・
どういうことだ・・・?
こいつら・・・なんでソンヨルを・・・?
待て・・・こいつら見たことある気がするっ・・・どこだっ!?どこでだっ!!?
思い出せっ・・・・思い出せよっ俺!!
冷や汗がドップリと全身に駆け巡り、体が冷たくなっていくのが分かった。