それはオアシスも何も無い場所だった。
ただ、無限に広がる砂と大地・・・・生き物も、植物すら生えていない・・・。
俺は・・・目が覚めてからずっと・・・ずっと、そんな砂漠のような心だった。
初めて知ったこと。
血って本当にあったかい。
感触は・・・絵の具みたいで。
大きなキャンパスに指や手のひらを使って、絵を塗りたくっているような。
そんな感触だった。
でもその絵の具が、さっきまでソンヨルの体を駆け巡っていたものだったなんて
俺の頭の中では到底理解できないことだった。
何も考えられないし、信じられない・・・
ただ・・・ソンヨルが俺の体に重くのしかかってくるだけだった。
俺には・・・この重みだけを感じることしかできなかったんだ・・・
なんて弱い俺。
少しは神様に雷でも落としてもらって、
いい加減にしろっ!って、目を覚まして貰った方がいいのかも知れない。
ついでに・・・このなくなった記憶も目覚めれば・・・って。
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リリィ:「お前・・・・何してるの?」
リリィは俺の真横を通り過ぎて行くとき、まるで風景でも見るかのように目を合わせた。
その瞳はとても冷たく感じた。そんな事を思うのは変なんだけど、
なんだか見覚えのある目つきだった気がする。
だけどはっきりそう思ったんじゃない。
リリィの内側にある感情が見えたかのように、
俺の目はそんな風に映し出した。
フイに何かを感じた・・・。
それぐらいだった。
そして、店のエプロンをつけたままのリリィは、俺の目の前に立ちふさがっている。
この店のエプロンだけが揺れているのは、リリィがじっとしているからじゃない。
ミョンス:「リ・・・リリィ?」
男:「よぉ~・・・久しぶりだな。まぁ~たお前かよ。」
リリィ:「何しに来たの?これ・・・私の彼氏なんだけど。やったのあんた?」
リリィはソンヨルの顔に手を当てて、気遣う。
ミョンスは抱き合うようにソンヨルを支えていて、一体正気じゃない方は
どちらか?という顔色の悪さだ。
男:「まぁ~そうって言えばそう・・・かなっ?w
てか、お前の彼氏とか、どうでも良くね?それにそれよく見てみろよ。それ古傷じゃんw」
リリィ:「古傷?・・・あの時、ソンヨルも傷ついてたっていうのっ?!」
男:「はははーっ!知らなかったのぉ~?
俺は今、傷のある辺りをかるぅ~く叩いただけだけど?」
リリィ:「ミョンスッ!そうなのっ?ソンヨルもあの時、こいつらにやられてたの??」
ミョンス:「あの時・・・あの時っ?!・・・っかんないっ・・・分かんないよっっ・・・!」
リリィ:「ソンヨルがこいつらと揉み合ったりとか・・・それも見てない?」
俺は今、ソンヨルがこんな姿になっているのが怖くて、理解もできなくて、
リリィに名前を呼ばれても、ただ首を振ることでしか、何も答えることができなかった。
ミョンスはとうとう足に力が入らなくなり、ソンヨルを抱えながら座り込んだ・・・。
それからリリィはしゃがみこんで、おもむろにソンヨルのシャツを背中側から上に剥いだ。
背中の傷を確かめるためだ。
リリィ:「・・・・・ミョンス、私のこと・・・ぃや、あの時の記憶・・・ほんとは戻ってないんでしょ?」
ミョンス:「・・・・記憶・・・。」
ミョンスは小刻みに震えて止まらない。
唇は青冷めソンヨルの体温も下がっていくのを感じている。
状況が飲み込めないミョンス。
記憶のない自分の知られざる事件への恐怖で、混乱して何も考えられないようだ・・・
リリィが何か言ったけど、俺は何を言っているのか
オウム返しにしか聞き返すしかできなかった。
あの時の俺はそこにいて、いない存在同様だった。
リリィ:「この傷知ってる?」
ミョンス:「分からなぃんだってっ・・・・・・!」
リリィ:「私が見てもこの傷・・・今ついた傷じゃない。」
ミョンス:「・・・・。」
男:「だぁ~から言っただろぉ~?なぁ~?お前もそう思うだろぉ~?」
そう言った男の影から誰かがまたスッっと現れた。
当然みんなの視線はその影に向かう。
そして、陽の光を突然浴びたように瞳孔がパッ!と開いた。
なんと、そこに立っていたのは、ナナだ。
ミョンス:「ナ・・・ナ・・・?なんっ・・・で?・・・。」
下を向き・・・・
まるで見えない影のよう・・・それは、蜃気楼にも似たようだった。
熱でユラユラと踊らされるかのように、みんなの前へ姿を現した。
ナナ:「違うっ・・・ミョンス、、、
私っ・・・私は違うっ・・・。」
ミョンス:「違う?違うって・・・何が違うの・・・・?俺のこと騙してたの?ねぇ・・・ナナ。
ナナッ!!答えろよっ!!」
さっきまでうなだれていたミョンスが突然、叫んだ。
男:「はぁ~?違うって何が言いたいんだよ?お前も、ナナもさ。
俺とお前は昔付き合ってた仲じゃんっ?w
まぁ、今はただの仲間に戻ったけど・・・なっ?」
リリィ:「仲間・・・?どういう事?ナナ・・・ミョンスに近づいた理由を教えてよ・・・
事によっては・・・。」
リリィのその先をかき消すかのようにミョンスは更に叫んだ。
ミョンス:「ナナッ!!俺を見て・・・・?」
ナナはうつむいたまま、自分の右腕を左手で掴むだけだ。
思わずナナの腕を掴んだ。
ナナは涙を浮かべて、俺の手をそっと解いた・・・。
ミョンス:「な・・・んで?ナナッ!!なんでそいつらと・・・」
男:「お前、なんにも覚えてねぇーのっ!?そんな奴が
わぁわぁとうるせぇーんだよっ!!」
そう言いながら男はミョンスに殴りかかろうとした。
だが、その腕はリリィに捕まれ、捻じ曲げられ、今度はその男が叫んでいる。
男:「いでぇーーーーーっ!!イデデデッ!!やめろっ!!はなせって!!
クソ女っ!!お前っふざけんなっ!!!」
リリィ:「あんたこそミョンスに手ェだそうとしたじゃない?
私はあんたがまた捕まらないように、阻止してあげたんだけど?感謝しなくちゃ。」
男:「お前ほんと、この間からなんなんっ??お前誰だよっ!!
女のくせに生意気なんだよっ!!」
リリィ:「あんたこそ誰よ?大体、私のテリトリーに入ってくるなんて
あんたこそ生意気じゃん。 ところで、ミョンスやソンヨルを襲ったのってあんた?
この間の奴とは違う奴か?」
男:「この間の奴とかっ!テッ・・・テリトリーってなんだよ!!
今時ヤンキーじぁあるまいしっ!!」
リリィ:「私のテリトリー?知らないなら教えてあげるよ。
私のテリトリーは私の歩く周囲半径500m内だから。その範囲で喚かないでね?」
男:「はっ??何だよそれっ!めちゃくちゃじゃねぇーか!
お前がいたら逃げろってことかっ!?wwwウケるんだけど!!」
リリィ:「面白いことは何も言ってないし、あんたのリーダーの方がめちゃくちゃだけど。
まぁ、もし・・・守らなかったらどうなっても知らないからね?」
男:「ブッ!!むちゃくちゃな女ぁ~www」
リリィ:「それより・・・ソンヨルをこんな目に合わせたのあんた?」
男:「あ゛っ?またそれ?あん時、俺もいたけどぉ~何人かいたし、
いちいち他のやつなんて知らね。
てか、俺はナナがいるしもういいわwお前のせいで腕痛いし。」
リリィ:「ってことはあんたが中心じゃないのね。」
男:「なんで俺なんだよっ。」
ソンヨル:「んっ・・・ぅうっ・・・。」
ミョンス:「ソンヨルッ!!ソンヨルッ!!リリぃ・・・早くっソンヨルが・・・。」
リリィ:「分かってる。・・・・ナナ、話がある。ここにいるなら私が守るわよ?
でも、その男に付いて行くならもう助けない。」
ミョンス:「ナナ・・・こっちに来てよ・・・。」
ナナ:「リリィさん・・・私、違うの・・・騙そうなんて・・・でもっ・・・。」
リリィ:「・・・・・・。」
リリィは黙ってた。
何故だろう?
男:「お前らめんどくせーな・・・仲間なんてすぐ裏切るじゃん。
こいつみたいにさw」
そう言って男はナナを顎で指す。
リリィ:「ナナ、どうしたいの?はっきり言いなよ。」
男:「お前がいるから大丈夫だって?wwwお前・・・リリィって言ったっけ?
頭沸いてんの?w本気でやったら、男の俺に勝てるワケねぇーのにw」
リリィ:「ナナ・・・・どうしたいの?」
リリィは男を無視して、ナナに問いかけ続ける。
小さく握りこぶしを作るナナ・・・
ナナ:「お願いっ!!もう嫌なのっ!!私にっ・・・私に近寄らないでっ!!」
ソンヨル:「リリィ・・・お前・・・強いんだな・・・。」
リリィ:「そんな虫の声で何言ってんのっ?
後でエブリバーガーでも買ってあげるからあんたは少し黙ってて。」
ソンヨル:「はっ・・何それwお菓子じゃん。」
リリィ:「あ、知ってたんだ?ミョンスなんてハンバーガー思い浮かべた顔してたのに。」
ミョンス:「えっ・・・・あ・・・れ・・・?」
この時何かを思い出しそうになった。
笑った顔が見えた気がした。
でもやっぱりぼんやりしすぎて・・・・
ソンヨル:「リリィ、ミョンスのこと詳しいのなw」
リリィ:「嫉妬するなら、その傷直してからにして?」
ソンヨル:「ははっ・・・なぁ、ミョンス・・・俺の彼女って結構怖いのなっw」
ソンヨルは痛みを堪える顔を隠すように笑った。
男:「おいっ・・・ナナ、まさか来ない気か??」
リリィ:「だったら何?あんたは黙っててよ。ナナ、こいつらのとこに戻りたいの?」
ナナ:「私はっ・・・そのっ・・・。」
男:「だぁーからぁ~さっき俺が言ったじゃん?
俺ら付き合ってたんだって!だから、お前らのとこに行くわけないだろぉ~?」
リリィ:「それは100歩譲ってそうだったとしても、今は違うじゃん。
別れた女にいつまでも嫌がらせしてんじゃないよ。みっともない。」
男:「うるせぇ~んだよ、お前・・・いちいちムカツクんだけど?」
リリィ:「それはあたしも同じだから。言っとくけど・・・
私の友達にこんなことしたこと許さないし。」
男:「だから、そこのボー然として座ってる奴をやったのは俺じゃねぇーつの!!」
リリィ:「あっそ、じゃぁ、早く帰りなよ。」
男:「ちっ・・・たくっ・・・うるせぇ女・・・」
そう言って男はナナの手を引っ張った。
クンッ!
男は振り返る。
ナナを引っ張った腕がクンッ!と伸びて、それ以上
この場から離れられなかったからだ。
リリィ:「・・・・。」
リリィはミョンスの傍に座り込みながら振り返るように睨みつけた。
男:「ちっ・・・ナナ、覚えとけよ。後悔するのはお前だからなっ!」
リリィの揺るがない目つきにおののいたのか、男は捨てセリフを払って
その場を立ち去って行った。
そして、リリィはミョンスに声をかけ、
ソンヨルの傷をシャツで抑えて店内に運ぼうと言った。
リリィ:「ミョンス、しっかりして!?今はソンヨルのことだけ考えてよ。
ミョンスに記憶がなくたって、あたしたちは何も変わらないから。」
そう話すリリィの手にはナナの手が繋がれていた。
リリィは男が立ち去る直前に腕を掴み、決して放そうとはしなかったみたいだ。
それから、店長に事の次第を話すと、店長は驚いてすぐにタクシーを呼んでくれた。
店長はそのままソンヨルに付き添い、病院までいってくれると申し出てくれたのだった・・・
タクシーを待っている間、みんな黙りこくっていた・・・。
ただ、ソンヨルを気遣いながら、タクシーを待つ。
みんな言いたいことは山程ある。
互いに符合しない点をまとめたがってうずうずしてる。
ミョンス:「ナナ・・・・いや・・・ソンヨル・・・・お前、あの時怪我してたのか?
それなのに、平気なフリして俺の代わりにっ・・・色々っ・・・色々やって
くれてたのかっ?それなのに俺は何も知らずに病院でのうのうと
寝てたのかよっ・・・・・ごめん・・・俺っ・・・ごめんっ!!
俺さ、ほんとは何も思い出せていないんだよっ!!
悪いって分かってるけど、怖くてっ!!
みんな俺を痛いものに触れるみたいにするんじゃないかって思ったら・・・
怖くてっ・・・俺っ・・・・。」
吹き荒れる砂嵐のような想い・・・・
その舞い上がった砂が竜巻を起こして、旋回したままみんなを囲い包んだ。
ようやく聞けたミョンスの心がきっかけで、みんな、本当に聞きたいことが
聞けると、胸をなで下ろした。