その日は、昨日のことを思い出していた。
「ちがくね?」
あの短い言葉。
怒っていたわけじゃない。
でも、
少しだけ刺さった。
授業中、ノートを開く。
黒板の字を写す。
隣のやつも、同じように写している。
少しだけ見る。
昨日は、
「違う」と言った。
今日は、少し変えてみる。
昼休み。
隣のやつが問題を見ている。
少し迷う。
でも、
やめない。
「それ……ここ、むずくない?」
言ってみる。
昨日と少し違う。
隣のやつが止まる。
少しだけ考える。
「……あー、ちょっとな」
短い返事。
でも、
昨日より柔らかい。
「ここ、わからん」
隣のやつが言う。
ほんの少しだけ。
会話が続く。
僕はノートを見る。
「俺も」
小さく言う。
それだけ。
でも、
昨日より長い。
そのあと、少しだけ一緒に考える。
答えは、すぐ出ない。
でも、
前みたいな変な空気はない。
チャイムが鳴る。
みんな席に戻る。
隣のやつが、
ノートを閉じながら言う。
「先生に聞くか」
僕はうなずく。
授業が始まる。
黒板の音。
ページをめくる音。
全部いつも通り。
でも、
少しだけ違う。
放課後。
廊下を歩く。
窓の外が明るい。
昨日より、
少しだけ軽い。
家に帰る。
母が言う。
「今日どうだった?」
少し考える。
「……ちょっと続いた」
母は「何が?」と聞く。
少しだけ考える。
「話」
そう答える。
夜、布団の中で思う。
同じことでも、
少し変えると、
少し変わる。
伊集院ヴァン





