「Those who feel me near Pull the blinds and change their minds」―"Cat People (Putting Out Fire)" is a song by David Bowie.
「誰だよ、こんなのつないだのは」ラジオ局でディレクターが怒鳴っていた。
「科学相談だぜ。こんな非科学的な質問は受付ないでよ」。
ディレクターは適当にあしらって次の質問に移るようにアナウンサーに指示した。
「君はドラキュラがいると思う?」とアナウンサーは子供に質問した。
「いると思う。パパが見たって言ったもん」
「えっ?どこで見たの」
「西麻布のセブンイレブンで深夜にレジ打ってたって」
「……」
その時、「お父さんがドラキュラを見てもおかしくないよね、でしょ?」とT氏が口をはさんだ。
T氏の言いまわしは英会話っぽく付加疑問文を多用する。
T氏の言いまわしは英会話っぽく付加疑問文を多用する。
「目から入った光は網膜で電気信号に、そして3Dから2Dに変換される、でしょ?」
「そこで多くの情報が捨てられる、でしょ?」
T氏は視覚系が脳内で画像を再構成する経路を説明しはじめた。
再構成時に多量の情報を処理するため、脳がどれだけ手を抜くか、バイアスがかかる
か―そこにドラキュラが紛れ込んでも不思議ではないと。
再構成時に多量の情報を処理するため、脳がどれだけ手を抜くか、バイアスがかかる
か―そこにドラキュラが紛れ込んでも不思議ではないと。
「人間は客観的な物理空間を見てるわけじゃない、でしょ?」
「脳内の情報を認識してるだけ、you know.」
「I know.」―M教授がそう言って後を継いだ。
しかし、M教授が英語で話した内容は私の英語力では理解できない。
後でラジオ局のアナウンサーが要約を通訳してくれた。
後でラジオ局のアナウンサーが要約を通訳してくれた。
「ミクロの世界では『状態の重ね合わせ』が起きる」
「いや、それはおかしい」
「シュレーディンガーの猫も生きながら死んでるぞ」
「猫が生きてる世界と、死んでる世界が別々にあるとしたらどうだ」
「あるのか?」
「あるとも!(理論的には)」
「ならば、ドラキュラがいる世界と、いない世界があっても…」
「そもそも…」と、パラレルワールドを代表してK先生が得意の存在問題を展開する。
「ドラキュラが存在するなら時間の問題でいつか現れる」
「存在しないのであればどこまでいっても解はない」
「存在を偽とすればドラキュラが現れたとき不正解だが、真とすればドラキュラが
いれば良し、いなければ永遠に解が出ないだけ。不正解にはならない」
いれば良し、いなければ永遠に解が出ないだけ。不正解にはならない」
「よって答えは、ドラキュラは存在する」
非科学的な質問が科学的に証明されていく不合理にディレクターはどうしていいのか分からなくなる。
出演者を見ると、芸術家だけがスタジオに入って以来一言も喋っていない。目を大きく開いて、マイク
を激しく見つめている。
出演者を見ると、芸術家だけがスタジオに入って以来一言も喋っていない。目を大きく開いて、マイク
を激しく見つめている。
「ヤバい。人選を間違えた。この人の代表作『鳴ることを拒否する電話』ならぬ『喋ることを拒否する解答者』を演じているのか」―このままでは自分の通帳が引き落としを拒否しかねない、すると。
「ド、ドラキュラがいてもいいじゃないか!」突然芸術家が叫んだ。
スタジオのガラスが振動で割れるほどの絶叫。
スタジオのガラスが振動で割れるほどの絶叫。
私は驚いて段ボールから転げ落ちた。手をつくと、ガレージの床がコルク敷きになっている。天井はガラス張りで、大きな猫が上から覗いている―「トランシルヴァニアの猫」…。
部屋中が水溶液で満たされていき、私の体は水溶液に浮いて猫のほうへ昇っていった。
ガラスに反射して映るのは私の姿ではなく、液体に浮かぶ脳だけだった。
水溶液がガラスの天井まで満ようとしたとき、猫は笑うように牙を剥いた。
部屋中が水溶液で満たされていき、私の体は水溶液に浮いて猫のほうへ昇っていった。
ガラスに反射して映るのは私の姿ではなく、液体に浮かぶ脳だけだった。
水溶液がガラスの天井まで満ようとしたとき、猫は笑うように牙を剥いた。
私はしばらく失神していたらしい。寝不足と炎天下の中を歩いたので疲れたのかもしれない。
ラヂヲはガーガー音を立てるだけで、どこの局も入らなかった。
はたして、私はあの標本ケースの中から出られたのだろうか?
夜、目をつぶると、水の上に浮いているような感覚がよみがえるのだが。
ラヂヲはガーガー音を立てるだけで、どこの局も入らなかった。
はたして、私はあの標本ケースの中から出られたのだろうか?
夜、目をつぶると、水の上に浮いているような感覚がよみがえるのだが。