資本主義とリース契約 2
私は不勉強で大変恥ずかしいことではあるが、そのような事実を知らなかったのである。担当者は、私の会社情報や個人情報はまったく見ることなく電話というだけで不採用にしたのだと正直にカミングアウトしてくれた。それで話しが見えてくるとともに安心もした。1社目の担当者の口振りとも辻褄があうものである。電話のリース詐欺というのは契約についての詳しい説明もないままに高額のリースを組ませ、契約期間中に新しい商品や電話会社の変更を勧めて残債を加えた契約更改をさせてゆくというものである。リース会社と取次店は儲かるが、契約者は債務総額が知らない内にどんどんと膨れあがっていくことになる。女性担当者は、契約者が取次店とグルになって取込み詐欺を働くケースもあると言った。要するにここ数年の間に電話会社間の過当競争で電話機のリースというものが非常に胡散臭いものになっているのである。
リース会社とすれば国内で商売をしてゆく上で、“お上”に目を付けられる事は何よりも恐ろしい。だから取次店が適当な口車で取ってきた電話に関するリース契約を増やすことは、とてもリスキーなことと言えるのである。数年後に、要するに契約の切換え時に社会問題として再浮上する可能性があるからである。だからリース会社の経営判断とすれば当然の選択ではある。しかし、どうしてそのような事情を社内規定などと言って秘匿しようとするのか。業界の恥部を隠しているだけじゃないかと腹も立ったが、正直に話してくれたその女性担当者には感謝の言葉を述べて電話を切った。
それで電話工事会社の担当者にそれらの話しを報告した。担当者はリース詐欺の問題や電話のリースが組み難くなっていることは自分たちの業界のことだから当然に知っていたが、それでも私の会社に問題があるかのような言い方をした。きちんと電話のリースが組めるケースも実際にある、それに信用調査会社は全ての法人の経営状態を100点満点で評価した情報を保有していて、基準点以下の場合リース会社が断るケースもあるようだなどと馬鹿げたことを言ったのである。それで私はほとほと呆れると同時に爆発した。
常識的に考えればわかりそうなものである。リース会社にとって電話は社会的な問題を孕んでいるにしてもまったく無しにするわけにはいかないだろう。そんなことをすればリース契約そのものの問題性が問われることにもなりかねない。またこれまで一体何を審査してきたのだということになる。よって契約トラブルが生じる可能性がほとんどないような取次店やユーザーをこれまでの実績から選んで体裁をつくろうことになるのではないだろうか。リース会社や信販会社にとって、“きちんと審査してます”という建前は言わば命綱なのである。
それからリース会社が裏で信用調査会社のデータにアクセスするなら、最初からそれなりの情報(たとえば決算書や試算表)の提供を要求するのが当たり前である。個人カードの審査ですら年収や持ち家か借家かのような情報を書かせているではないか。そもそもリースなどというものは現金で買えば20万円のものが6年や7年の契約で総額40万円や50万円にまでなるのである。要するにリース会社や信販会社はぼろ儲けのシステムの上に胡坐をかいているのだから多少の貸し倒れがあったところで応えないのだ。貸せば貸すほど儲かるのだから不必要に審査を厳しくしたり、裏で情報収集するなどということは基本的にはあり得ないことだと思われる。
だが“お上”の指導だけは別である。経営環境が根本的に変わってしまうことになるのだから、“触らぬ神に祟りなし”というか“虎の尾を踏まない”ような防衛本能が組織として働くのであろう。
もう一つ述べれば信用調査会社が全ての法人の経営情報を採点したデータを持っているなどということはあり得ない。なぜなら私自身が過去に業界最王手のT社に調査を依頼したことがあるから、そのあたりの事情はわかるのである。
たとえばAという会社を調べて欲しいとT社に依頼すれば、瞬時にコンピュータで過去の調査記録の有無を調べる。そして3年前に調査した資料があるということがわかればそれを幾ばくかの金額で購入することになる。もしなければ新規の調査ということになり料金も高くなる。また調査になればスパイのようにA社の取引先や関連会社を嗅ぎ回るようなことをせずに直接A社に出向いて取材を申し込むのが常道である。調査依頼がないほとんどの法人は年に1度、電話で売上の動向を聞く程度である。私の会社にも数社がたまに電話で聞いてくるが忙しいといってまともに取り合った事はない。だから採点できるようなものではあり得ないのだ。
私は、電話でその電話工事会社の担当を叱りつけてやった。その男は私を騙そうとしているのではなく単にあまり賢くないだけなのである。自分が仕事をしている業界でありながら社会の中でどのように位置づけられていて、役所やリース会社からどのように評価されているのか今一よく見えていない。その男の携帯電話の待ち受け画面には可愛らしい男の子の画像が貼られていたのを私は覚えていた。いかにも愛する家族のために一生懸命、仕事をしていますという感じの若者だった。しかし世の中の建前と本音を見極めた上で、貪欲に商売の交渉をしてくるような迫力に欠けていた。だから私はその男は決して出世出来ないだろうと思った。本質が見えない人間は本質的にシステムの奴隷に過ぎない。多少の老婆心も交えて私は、
「そもそもあんたらの業界が詐欺まがいのことばかりしているのが原因じゃないか。人のせいにするなよ。もっと世の中の動きに敏感にならないと君のように鈍感な人間ばかりだと、君のその会社も明日にはどうなっているかわからなよ。」と言ってやった。
すると上司にでも言われたのであろうか、30分後ぐらいには私の会社にまで飛んできて平謝りした。私は何で不愉快な思いをしてまで、よその会社の人間を教育しなければならないのかと思った。
その後、数日して電話回線のことを自分でよく調べて見た。すると私の会社の環境で言えば何も工事をして電話機を新しいものに交換しなくとも電話会社を変更さえすれば局内工事のみでナンバーディスプレー代1800円も節約できることがわかった。通話料金もかなり安い。電話回線を光回線で統合してしまうと回線の事故があったときに電話が使えなくなるので電話とインターネットは分けておいた方がよいことも判明した。何よりあの男が持参した見積もりをよく調べてみると、値引きを入れているとはいえ電話機1台の単価が4万4千円もついているのである。私はリース会社の審査に軒並み落とされたことによって、結果的に助かったのである。
こう言うのを何て言うんだっけ。
そう、「人間万事塞翁が馬」である。しかし世の中、油断も隙もない。
もしかすると、一番馬鹿なのは誰よりも私なのかも知れない。