資本主義とリース契約 1
ある日のことであるが、電話工事会社の人間が私の会社に飛び込みで営業にやって来た。普段なら相手にしないが、以前に取引のある会社であり担当が変わったという挨拶で来ていたので名刺をもらって少し話しを聞くことにした。
電話料金についてのことである。私の会社は、2外線を自動切り替えで使っているISDNの電話回線が1回線とFAX回線が1回線、インターネット用に使用している光回線が1回線、会社事務所に隣接している自宅の電話回線が1回線である。電話機は事務所用が備え付け3台とコードレス機が1台、自宅用が親機1台とその子機であるコードレスタイプが2台である。
電話会社の月々の請求書を見せて話しを聞いていると、基本料金が掛かりすぎている、電話回線を光回線でまとめるとかなり節約できると担当者は言った。
確かに私も通話料金に比べて基本料金が高すぎるとは以前から思っていた。それで光回線に統一するためには、現在使っている主装置が古くなっており内部基盤か部品の交換がきかないので、主装置と事務所用の電話機4台を新しいものに交換する必要があるという。それで後日見積もりを持ってきてもらうと、工事代金や新しい電話機代など全て含めた金額を7年リースにした場合、月々の支払い固定費が基本料金が大幅に節約できるので1500円ほど安くなるということであった。
私は月々高い料金を支払いながら所有権がないリース契約というものが元々生理的に好きではない。しかし、その時は電話機が最新のものに切り替わる上で月々の固定費が安くなるということで私は深くは考えずに申し込んだ。
ところがである。4~5日経った頃であろうか、電話会社の担当者が困ったような様子で電話してきてリース会社の審査が全て落とされたと言うのである。信じられない話しだった。審査と言っても私がその担当者を通じて提出したものは、会社の社判、代表社印それから丸印を押して、会社の設立年月日と代表者である私の住所と生年月日を記入したものだけである。それで、落としたリース会社はどこなのか聞いてみると全て業界大手の4社であった。
不安になった私は早速、取引先でリース契約に詳しい人に聞いてみた。その人は、「事務機器のリースの審査なんて本来、一番ゆるいもんやで。それが落とされるちゅうことはブラックの中のブラック、真っ黒けになってないと考えられんことや。何か心当たりはないか。」という。
心当たりも何も、私の会社は事業資金は国民金融公庫からのみ借り入れしているが、20年ほどの実績があり返済が遅滞したようなことはこれまで一度もない。代表者である私個人も、住宅金融公庫からマンションローンの借り入れはあるものの金額的に大したものではないし返済が滞ったことも当然まったくない。また私は消費者金融はおろか、カードで買い物すらしないのだからブラックになりようがないのである。もちろん会社の売上や利益の推移を追求されれば心許なくはあるが月々5千円ほどのリース契約でそこまで厳しく審査されることは考えにくいし、そもそもそのような会社情報の提出をまったく要求されていなかったのである。リース会社が裏で調べようにも調べようがない。大体においてトータル金額で40万円ほどの案件でそのような手間とコストが掛かるような割の合わないことをリース会社や信販会社がするはずがないのである。
ならば考えられることは唯一つ、会社情報や個人情報が私が知らない間に悪意で改ざんされているということになる。そう考えると電話機のリース契約などはどうでもよいことである、“信用”が何よりも大切であるのだから黙っていられないのは当然である。私は法律が何を規定しようと個人情報の正当な流通や保護を信じていないのである。
そこで以前に取引のあった信用情報調査会社、最大手のT社に電話を掛けて担当者を呼び出し事情を説明した。T社の担当者は私の会社はブラックになどなっていないと断言したものの、リース会社の審査基準というものは外部からはわからないのでなぜ拒否されたのかはわからないと言った。
そこでリース会社に電話をかけて直接聞いてみることにした。最初に電話を掛けた4社の中の1社は、男の担当者が応対したが、なぜ審査が通らなかったのかについての具体的な話しは一切話せないと言う。納得できない私はしつこく食い下がった。
「あなたたちの会社は不特定多数の相手をマーケットにした商売をしていて、取次店や代理店を通して審査と称して膨大な個人情報を吸い上げているではないか。大量の個人情報や会社情報は売ろうと思えば売れるものでもある。実際に過去にはそのような流出や不正利用の問題がいくらでもあった。だからあなた方を信用して情報を提出した私に対し不採用とするのであれば、その具体的な理由についての説明責任が社会倫理としてあるはずだ。」
男は、「おっしゃっていることはよくわかりますが社内規定で言えない事になっております。」の一点張りである。
「なら、その社内規定の根拠を説明してください。あなたたちの会社の社内規定は社会倫理に優先するものか。」
「それについても社内規定で言えないことになっております。」
くだらない堂々巡りの水掛け論である。国会答弁を聞いているようで馬鹿らしくなってきた。しかしその男は私の個人情報が問題になったということはないということは認め、と言っても必ずしも会社情報に問題があったと言えるものではないと言及した。具体的には取次ぎ会社が問題になることもあるし、その他の社会情勢も含めて総合的に判断したものであると言った。
それで2社目のリース会社に電話した。今度は若い女性が応対した。その担当者も同じように具体的なことは答えられないとしか言わなかったのであるが、あまりにしつこく私が聞くものであるからついに根負けしたのか
「上司に相談しますからしばらくお待ちください。これから1時間ほど会議の予定です。時間が遅くなってもよろしければ、その後こちらから折り返し電話させていただきます。」と言った。
それで夜8時半ごろ電話が掛かってきて、その女性担当者は以下のように説明した。
「審査についての具体的なことは本当は絶対に話してはいけないことになっているので今回はあくまで特別です。今回の結果はリース対象が電話だからということです。2年ほど前に電話工事のリース詐欺が大変な社会問題になり新聞やTVでも取り上げられました。その時に経済産業省の行政指導が入って、我々は電話からは手を引いている状況にあるのです。」