産労総合研究所の月刊誌「人事実務」6月号に寄稿しました。
社内広報
Ⅰ.社内広報とは、
(1)社内広報の本質
人間は、脳の情報で手足が動き、手足の情報で脳が判断する。つまり、人間は情報で生きているのだ。この情報交通が滞れば、つまりメタボになって神経が鈍化し血液流通が悪化すれば、病気になり死に近づく。つまり脳死壊死の危険が忍び寄る。
会社は法人。脳が社長、各関節が管理職、手足が社員と見做せば、会社も情報交通で生きていることが明らかだ。社内広報とは即ち生きることそのものであることを肝に銘ずべし。
そこで、広報の本質とは、ビジョン実現を目指し、適切な情報交通で会社内(体内)を司り、健全な真(まこと)の会社(健康な真人間)にすることである。
(2)社内広報ツールを駆使
企業経営は「人を動かす」ことで実現する。人がいても方針に沿って動かなければ、経営目標は達成できない。そこで、トップの考え・方針をいかに末端まで伝達するかが重要。それが社内広報である。
企業は成長に伴い、中途入社・契約社員・派遣社員といった色んな従事員が急増するとトップと末端の情報交通が疎かになり、いつしか諸問題の誘因になる。今後、ますますグローバル化が進むとさらに、個人の独創性やダイバーシティ(多様性)を尊重し、相互理解と連帯感を高揚させ、企業の活性化を実現する必要があろう。
そこで、どの企業も規模の大小に拘らず、1.従業員の意識改革、
2.問題意識の共有化、
3.モチベーション向上、
4.トップと従業員の信頼関係の構築、
5.帰属意識の高揚、
6.ビジョン・戦略に合致する企業風土の醸成等々
の手を常に打っていく必要がある。
加えて、社員一人一人も実は情報媒体、つまり血液そのものであり、自らが“社内広報ツール”との強い自覚が不可欠となる。
そこで社内広報の実践としては、イントラネット、社内報、ウェブサイト、掲示板、ミーティング等々の広報ツールを駆使する活動を地道に継続していかなければならない。
直接対話:トップとの対話・拠点巡り・各種 連絡会フォーラム・セミナー
伝統メディア:社内報・ニュース速報・社内 放送・映像メディア
ウェブ:ホームページ・メルマガ・社長ブログ・ツイッター・イントラネット・フェースブック・発表リリース等
イベント等
各種イベント開催・諸キャンペーン・職場表彰・ボランティア活動
Ⅱ.外部への情報発信と内部への開示
(1)外部への開示情報は即時社内へ開示せよ
広報担当からメディアに提供されるプレスリリースは、即時に“社内広報”する。その結果報道された内容も、直ちに“社内広報”することが大切だ。
その方法とは:
1.イントラネットや掲示板で即時広報
2.記事の切り抜き「ニュース速報」として FAXやメールで配信
3.ウェブサイトへの即時アップで社内外へ 速報
4.次の「社内報」でニューストピックスと して第三者評価であるメディア報道は、社会の信頼性が高いので、社内にトップのビジョンや考え方を浸透させ、社内を活性化の方向に導く。特に、社員の帰属意識やモチベーションを高め、社員に自信・誇りを与え、社会的責任の自覚を持たせることを重視すべきである。
情報をスピードよく、社内外に流通させることは、経営の意志として、経営の透明性を高め、迅速な情報交通を滞りなく、つまり悪いことでも隠さず情報を交通させよ、との意識を社員に徹底するのである。これが、社内広報の重要な戦略的意図の1つなのである。
(2)グループ内広報
優良企業グループ各社とも、企業ビジョン・理念をグループ全体のものへと高揚させ、SCRレポートなどもグループの推進体制を強調。企業ビジョンは基より、環境・安全・リサイクル等、色々な共通テーマについてグループの統一目標を掲げている。
グループが増えることは次第に巨人企業になるプロセスで一見喜ばしいが、社内広報の観点からはだんだん指先が遠くなり感度が鈍化する恐怖が増大するのだ。したがって余程の強い意志で血液(情報)を送らなければ途中で滞り、末端まで届かない恐れがあるのである。
そこで、最も重要なことは、親会社の創業の精神や志、企業ビジョン・行動規範などを、グループ全体に拡大・浸透させ、共有する仕組み作りである。それが、グループ内広報と言えよう。
その為に、
1.イントラネットの共通化、
2.社内報の一本化、
3.プレスリリースの共有化を初め、
4.定期的な「広報連絡会」を開いてリアルの場でも意思統一を図っていく。
それによって、ブランドの統一・高揚を図り、実際のグループ広報活動を活発にするのである。
Ⅲ.社内広報のツール・方法
(1)社内報
1.社内報の役割
社内報の第一人者ナナ・コーポレーション福西七重社長は「社内報は会社の中枢神経であり、次の4つの役割がある」(『もっと冒険する社内報』)という。
○経営トップの方針を社員に伝える
(目的の共有)
○経営に関する情報をタイムリーに伝える (情報の公開・共有)
○社員や経営者に刺激を与え、考えさせ、学 ばせる(教育・気づきの場)
○企業文化や企業風土を育て、継承する(風 通しの良い、活力ある風土づくり)
社員の信頼を得た社内報は、社員同士をつなげ、経営への提言・職場環境の改善・ボランティアへと社員がつくる企業文化の基地となるので、企業文化が醸成されるなら「あたかも美味なるワインの熟成にも似ているし、漢方薬でもある」(『冒険する社内報』)という。
ネットではじっくりと読まないし、家族が読めないので、会社としては会社の理解を深め、モチベーションを高めるためにも家族に読んでもらいたい。そこで、重要な経営情報や速報性のあるニュースなどはネットで常時配信し、社員に絶えず必要な情報にアクセスできるように情報開示を徹底しておく。つまり、“速報でいつも見て”、紙でよく読む”と併用の流れが主流。“ネットのヘビーユーザー”の方が、むしろ“紙の愛読者”だ。
トヨタ自動車は、社内報の表紙に「家庭に持ち帰って下さい」とわざわざ記載し、なおかつ必ず手渡して、家庭で読んでもらうよう勧めているのは、CSRや社会貢献活動に関する会社の方針達成のためには、ごみの分別や環境への配慮など家庭の協力が不可欠だからだ。
2.社内広報のツール・方法・・・作成の留意点
社内報の作成は、広報部門が事務局で主要各部の情報のキーになる人がメンバーの「編集企画会議」がその中心となる。
年間企画は、株主総会、取締役会、定期人事異動・組織変更等の経営の公式行事に、創立記念日、工場開き等々の恒例の予定に加えて、新技術開発・新製品販売予定等を追記していけば年間日程ができる。それにそって、毎月の各部の動き、人の動きの予定等を加味していくのが会議のポイント。その際、経営・技術・工場・営業・人事・・・と分野別に把握できる情報を網羅していき、関連テーマを加えていけば項目に漏れがない。あとはどれを取り上げるかの選択である。
経営ビジョンや折々の経営戦略の浸透は社内報の最も重要な役割なので、しっかりした内容にして分かり易く解説しよう。社員の信頼を得た社内報は、社員同士のコミュニケーションを円滑にする企業文化を形成するので、会社の一方的な伝達ではなく、経営と社員のバランス3対7が理想。つまり、社員や家族の登場を増やし、談話を取り上げたり、新製品の開発に実際に携わった人達の苦労や成果、また経営幹部にも個人的な話題を加えるなど、ビジュアルで分かり易く企画を立て、親しみやすいイメージを作り出す心がけを忘れてはならない。
最もネックになるのが、取材や原稿依頼が予定通り入稿されるかである。執筆者として頼む人はどうしてもキーパーソンが多くなるので、できるだけ先取りした工程管理が必要になる。
そのようにして、社内報を社内広報の重要なツールとして位置付け、社員の話題中心となり、トップの想いやビジョンにそって全社を誘導できるくらいの内容にまで高めることが望ましい。
(2)イントラネット
会社は“法人”。人と同じ構造で同様の機能を持つことは既に学んだ。イントラネットとは、人でいえば、神経網であり血管である。その神経が鋭敏であればある程、脳から指先まで情報交通が瞬時に行われ、血管が詰まらずに血流が急であれば全身が健やかに多様多彩にまた縦横に機能する。
イントラネットの利便性向上は、会社全体を恰もイチローや浅田真央選手のようなトップアスリートにしなやかかつ敏捷な動きを加速させることを肝に銘じておこう。この機能を百%活用して、適切なコンテンツを選び、この動脈・静脈で流通させる役割が“社内広報”なのである。
優良企業からその使い方を学んでみよう:
■トヨタ:紙とネットの良さを使い分ける。速報性が必要な公式情報やニュース性のあるトピックス等はイントラネットを活用。
■ソニー:業務上必要な情報は全てイントラネット。経営方針等重要事項は東京より年に6回ほど定期的に配信。各拠点特有の情報は各イントラネットで配信。社長メッセージが毎日のように世界を回る。
■ソフトバンク:「Web社内報」をグループイントラネットで提供し、毎日記事を更新。
ブランディング強化のため一貫性あるコーポレートメッセージを全員に発信、グループシナジー向上を目指す。
■サイバーエージェント:イントラネットを活用した社内報コンテンツを展開。社員の生い立ちから職歴までを紹介するコンテンツ等多種多様な情報を掲載する。紙で時間をかけるよりもネットの特性を活かしている。
【イントラネット用コンテンツ例】
●業務系:人事規定、福利厚生、出退勤管理、会議室予約、出張旅費精算、社内電話帳 等
●経営情報系:経営幹部メッセージ、プレスリリース、イベントレポート、お得情報(商品割引販売等)、お知らせ(人事異動・組織変更等)等
Ⅳ.社内広報に優れた企業例
(1)ベネッセコーポレーション
社内広報を最も重視し、最も実効を上げている会社の代表としてベネッセグループがある。
私は、2008年出版の『広報・PR実務ハンドブック』にて紹介したが、今回改めて取材しその成長著しい軌跡を実感した。
ベネッセグループは、一人の人間であり、世界で社員約2万名が恰も人間の細胞であるとし、それをつなぐコミュニケーションとは、鋭敏な神経であり温かい血液なのである。それが父母と子が手をつなぐコーポレートブランドロゴに表されているようにも見える。
ベネッセグループの広報は、ベネッセホールディングス広報・IR部がグループ全体と中核企業であるベネッセコーポレーションの広報を担当、内外を含む縦横かつ柔軟な社内広報を司る役割を果している。それを統括するベネッセホールディングス広報・IR部長、増本勝彦さんは「グループ広報の新しいミッションは、グループの成長と存続のために、グループ社員のやる気と誇り、愛社精神、帰属感等々とを醸成し、グループ内の多様な価値観を融合させることです。それを『情報共有』、『繋ぐ』、『理念・DNAの継承』の3つの観点から、総力を持って具現化します」と新時代を築いていく意気込みを語る。
そのために、“5つの社内メディア”を活用するところにその特徴と独創性あり。ベネッセグループにとりMediaとは媒体というよりも「繋ぐ」という意味が強いようだ。これらの中心となるのは、従来からある社内報「C」・朝礼・社内イントラネットの3つの社内メディアを連動させた社内広報活動を展開であることは変わらない。
1.全体メディア=
①広報誌「C」:毎月1回7千部発行。
グループ経営理念と中長期の経営方針の理解浸透、グループ各社情報の共有を図る。できるだけ多くの社員登場をさせることによって、生きた情報として届ける、最も重要な社内広報ツール
②朝礼:各地の事業所やグループ会社をテレビ会議システムでつなぎ経営陣のメッセージを直接伝える場。毎月経営者が全社員に伝えたいメッセージを発信。同時に新商品・サービスなど事業部門から全社に発信したいことがあれば、それも可能
2.イントラネットメディア=タイムリーに知らせたいことを発信、共有する場。グループ各社、各部門での新商品や新サービスのリリース情報、
イベントの予告や報告記事などグループ全体の動きや流れを日常的に感じることができる。
3.ターゲットメディア=ターゲットを明確に設定。グループ企業各社の幹部向けに対象を絞ったA4判5~6頁のPDFでメール送信。目的はグループの業績や事業状況等を情報共有し、各社幹部がグループ全体の視点を持つ為。世界各地のベルリッツ幹部には英語版で送信
4.マグネットメディア=月1回経営陣と社員をつなぐ場。その月の担当役員が
自分の考え方を話し、社員と自由に質疑応答。役員の個性的な魅力を出すことにより、磁石に引き寄せられるようなイメージから、「マグネット」と命名。その役員と直接話したけば新入社員でもOK。本社講堂、東京本部会議室や支社でも実施。終わって懇親会もあり、グループ内の企業や他部門の仲間との接点にもなる。
5.担当者ネットワーク会議=社外講師による勉強会+社内広報担当者のレベルアップ
これら5つの社内メディアを脳細胞のように縦横無尽に繋ぎ、生き物のように有機的結合していく努力を重ねている。たとえば、社内報「C」はより多くの社員を登場させ、社長と社員の座談会を企画したり現場社員との対話の機会を創出したり等工夫の結果、「いつも読む」という社員が7割以上に増加している。また、これら社内メディアに対する社内評価では、“理念の浸透”“グローバル意識の向上”が上位を占めることから、推進する広報担当の狙いは的中している。
ベネッセグループは、2年後の60周年に向けての活動の中で社内広報活動の本質を追求しながら、更にこれら5つの社内メディアの相互融合を深めかつ高めていく方針である。
ホールディングスの広報IR課長とコーポレーションの社内広報課長の二役を演じる永田純代さんは「企業グループあるいは一企業のブランドイメージは商品・サービスによるところが大きいですが、それを創造するのは社員。また、社員一人ひとりの思いのベクトルや社員同士の思いのつながりが企業の風土を醸し出し、企業の持てる力となるので、一人ひとりに語りかけるような世界観、そして、元気な毛細血管を張り巡らしていくことをイメージして、現状にとらわれない新しい時代の社内広報のあり方を探りたい」と次の高きを目指す意欲に溢れている。
(2)ユニ・チャームの例
同社は6期連続営業最高益の更新を見込むなど、東南アジアを中心にした拡大戦略が成功し、社員数も1万人を超えた。海外拠点も20近くになり、今後ますます増えるであろう。それに伴い、当然のことながら、雇用体系の多様化、異民族・異慣習・異言語などにより社内コミュニケーションの問題が地球規模で起こってくることになる。
それを見越して、2010年新しい部署「共振の経営推進室」を設置し、広報担当もこれを進める体制を敷いたのは革新的である。まさに広報を全社情報基地とする私の考えの実践といえよう。
その初代推進役の一員である大庭一郎さんは「共振の経営には、これから“グローバル20(2020年に売上1.6兆円)”を目指す社長の想いが込められています。つまり新世紀の経営理念「Nola&Dola(赤ちゃんから年寄り迄優しくサポートし夢を叶える)」実現のために、1人1人が汗をかいて革新の震源となり、個々の振動がより大きく会社全体で共鳴しあい、変化しあうことです。それによって社員1人1人のビジョンを実現ができる企業経営を実践し、グローバルな企業文化を創造していきます」と熱く語る。
そのために経営陣は、現場最前線の一次情報入手に努め、社員は経営陣の考えを理解するように努めることによって、職種や階層を超えて全員が助け合い目標を達成する相互情報交通の醸成と更なる高度化が不可欠であり、そのためには適切かつタイムリーな社内広報を実施していかなければならない。
1.そこでイントラネット上に一次情報交換の場を設けている。社員からは、お客様やバイヤーなどの声や、陳列事例など店舗展開状況など営業からマーケティング・顧客窓口などの一次情報掲示板があり、誰でも入力OK。そこでトップや他の部署の社員が読んで、意見したり、アドバイスして上下左右の情報交通を図るのだ。日々こうした話を発展させる貴重な原始情報が蓄積されている。毎週月曜日には役員からのメッセージも投稿される。それが英訳されてグルーバルに伝達され、共有させる仕組みだ。
2.社長自ら“志”を年月週日で全社員にすり込む「多頻度発言」に力点を置く。それは:
●年:年初に「今年の1文字」をイントラネットやカード配布等の方法で発表することを10年続けている。昨年「専」、今年は「伝」で、正にトップの意志を社員に徹底することを重視した“社内広報の年”。色々な“声なき声”を聴く!
●月:毎月1回少人数での「飲みニケーション」の実施。直接本音の語り合いで仲間同士が切磋琢磨! ここでも管理職やキーパーソンが語り合いの中で会社のビジョンや経営の考え方等を判りやすく社員にすり込む社内広報を行っているのがポイント!
●週:毎週月曜日朝8時、社長が「私の問題意識」「重点方針」コラムをイントラネットで発表。
●日:朝一番にその日誕生日の社員に「Happy Birthday Mail」を贈る。社長自ら手間をかけているのは、トップがいかに社員を大切にしていることを、誕生日という一人一人の旬の話題を活用して行う”社内広報”なのである。
3.社内報「ヒロバ」は、多頻度発信する “共振人材”を求む!ことを主眼に毎回約4千部発行。国内外の全日本人社員に、更に英訳版を海外拠点にも配布され、グローバルな価値観共有の役割も果す。
4.共振の経営推進室が、「News Frontline」サイトで各現地法人からのニュースを選んで日に1件アップし、世界各拠点のトップニュースを共有する。例えば:
・今年の2月から印度の女子学生1万人を対象に初潮教育を実施していることも大きな反響あり
・昨年夏サウジで女性だけの工場が操業開始したが、去る3月4日、その女性達が200名分の料理を作り、男性社員などを感謝のもてなしをしたニュースも話題となった 等々
当初は、担当者の個人的な人間関係と感性で、掲載ニュースの情報を入手し掲載していたが、今では国内各部門だけでなく、海外現法からも“こんなニュースがある”との情報がメールや電話でどんどん入ってきて、掲載日程調整の苦労を楽しむまでになってきた。
ニュース選定に当り①経営、②人事、③商品、④ランキング、⑤広報、⑥告知、⑦決算、⑧CSR、⑨海外、⑩社長、⑪社員、⑫営業、⑬生産、⑭受賞、の14項目をバランスよく掲載することに心掛けている。
大庭さんが、この重要な役割を今年2月入社したばかりの桐野佐知子さんに任せたのは慧眼である。「発信することでその国々のことを全世界の社員に報せ、国内では有力卸展開の商品に関わった人達の奮起を促し社内の一体感の醸成や築くことができます。私が選ぶのに困る位のニュースが世界中から集まるサイトに育てたい」と意気ごむ桐野さんの瞳は輝いている。