フジサンケイビジネスアイ紙に毎月1回「危機管理・コンプライアンス」欄に投稿している。
 今回のテーマは「外断熱」工法についてである。
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     温暖化防止に期待

 地球温暖化は地球の危機である。それを防ぐ方法の一つにマンションやコンクリート(RC)造りビルにおける建築工法があることを多くの人は知らない。

 日本における断熱処理が施された集合住宅の99.9%が住戸内の壁側に断熱材を施工した「内断熱工法」である。
 一方、1970年代の石油危機以降、欧米では建物を外側から断熱材ですっぽり覆う「外断熱工法」に切り替えられ、今では中国をはじめアジアにも波及している。

 「内断熱」は、低コストで複雑な設計施工が出来、冷暖房器具の作動効果はすぐ現れる反面、次のような問題点がある。
1.熱し易くさめ易い構造のため省エネ効  果が薄い。
2.カビや結露が発生しやすくシックハウ  スになり易い。
3.コンクリート自体が日射や外気温の影  響を受け易いため耐久性が劣る。とく  に日本の気候は欧米と違う高温多湿の  ため住宅に致命的ダメージを与える。

【建物の寿命伸びる】
 これに対して「外断熱」の特徴は次のような点にある。
1.外側で断熱されるため冬一旦温めれば  冷えにくく、夏も冷房効率が良く、一  年中大きな省エネ効果を発揮する。
2.外気との温度差が少なく結露ができな  い。
3.結露によるカビが原因のアレルギー性  喘息などが起きにくい。シックハウス  がなくなり健康にいい。
4.建物の耐久性が高く、寿命が大巾に伸  びる。

 日本のマンションは築後30年程度で建替え時期を迎えるが、それに比べると欧米の住宅サイクル年数は、80-140年(英国141年、米国103年、仏86年、独79年)と大巾に長い。いくら欧米の住宅は「石の文化」日本は「木と紙の文化」に根ざしているとはいえ、この差は工法の差によることが大きい。では、それほど優位性のある「外断熱工法」が日本でなかなか普及しない理由はなぜだろうか。
 理由の一つは、現状では全体のシェア(紙上占有率)が低いことから、原料コストが高くつき、その結果、建築コストが5-10%程度高くなるためだ。しかしそれ以上に、維持費の大巾低減や建物の長寿命化など外断熱によって得られるトータルメリットが一般の人たちにまだあまりよく知られていないことが大きな理由として挙げまらる。
 しかし、そんな日本にも、マンションなどRC造り建物を対象にした「外断熱」の普及に向けた取り組みが徐々に進み始めている。
 康和地所は、2001年以降、欧米の建築現場を詳しく視察し、その優位性をいち早く認識した企業の一つだ。02年に同工法による第1号マンション(25戸)を発売。これが好評だったことから、06年(130戸)、07年(477戸)と急速に販売実績を伸ばしている。(累計19棟790戸)。
 同社の久保郁八専務取締役は「夏は涼しく冬は暖かい住環境を提供するため今年以降、(当社が販売する)すべて外断熱とする。この普及は人の健康にも地球温暖化防止にも役に立つ。日本の住環境に潜む問題点を改善し、持続可能な社現に貢献したい」と意欲的だ。

【政府・国民も注目を】
 
 同様に、同工法の普及促進を目的としたNPO法人(特定非営利活動法人)も活動を始めている。
 弁護士や一級建築士などのメンバーが中心になって03年、「外断熱推進会議」(会員130名)を設立し、主要地域では支部も立ち上げた。”内断熱至上主義”の日本のマンション・ビル建設を見直し、「外断熱」の普及・啓発のための取り組みを進めている。
 外断熱推進会議では消費者と手を結んで活動する「外断熱マンションをつくる会」を通じ、ユーザーへの啓蒙や交流会のほか、推進企業へのセミナーの開催、行政への働きかけなども活発に行っている。
さらに、04年には康和地所が中心になった「外断熱懇話会」(工務店等会員29社)も設立され、政府への政策提言、セミナー・展示会イベントの開催など普及啓蒙に努めている。

 地球温暖化防止を目指す京都議定書は、08年が第一約束期間のスタートの年となり、温暖化対策はまったなしの状況だ。温室効果ガスの削減義務を負う日本政府もようやく建築物への省エネ基準の強化を打ち出した。国会では、超党派の議員60人が集まり、外断熱工法の普及を推進する動きもでてきたが、大手ゼネコンを含む国全体の動きにはまだほど遠いのが現状だ。

 国民の住環境を向上させながら、地球温暖化防止へ大きな効果をもたらすことが期待される「外断熱工法」について政府も国民も、もっと注目していいのではないか。