騙され易い人 騙されにくい人

 去る4日、インターネット技術を使ったIP電話事業を展開する「近未来通信」の投資話を巡る問題で、警視庁は同社本社や全国の支店など関係先約20箇所を詐欺容疑で一斉に家宅捜索した。同社は約3千人から約4百億円を集めたとされるが、実際は「虚偽の説明」で投資家から集めた資金を、既存の投資家への配当に回す「自転車操業」だったとみられている。
 
 同社は国内外のIP電話中継局の設置費用に最低1100万円を投資すれば、一定の配当金が還元される「中継局オーナー制度」とうたい、投資を勧誘した。「労働しなくても副収入が得られる」「月5-6百万円の収入もある」「オーナーになれば月々の配当が得られ、2-3年後には利益が出る」などと宣伝し資金を集めていたが、通信事業者としての実態はほとんどなく配当に関する説明もウソ。こうした虚偽の運用実態は、電気通信法違反の疑いや誇大広告による詐欺商法の疑いが強い。総務省は悪徳業者への監視強化のため電気通信事業法の改正を検討している。
 同社HPでは「世界230カ国へ通話できる高品質・格安なIP電話サービス」と自讃して注意を引き、「全国一律1分10円。国際電話アメリカ・中国1分10円、通信料は最大83%割安」と度肝を抜く。国内外にあるべき112箇所の中継局にあるべき2466台のサーバは、実際には国内7箇所で7台の稼動のみだ。集めた金は幹部の高額給与や遊興費にも充てられていたという。数ヶ月前より、多数の投資家から「配当金が滞った」などの相談が相次ぎ、刑事告訴の動きもある。 

 また、去る7日には、実体のない株取引の代行をうたい、多額の資金を騙し取った容疑で貸金業「エイワン・コミュニケーションズ」社長ら幹部5人が逮捕された。「新規公開株が割安で買える」と嘘の株式投資話で、6年前より全国2500人から136億円を集め、その内48億円が使途不明をなっている。株式市場の好況を背景に、資産の有利な運用先を探している投資家心理につけ込み、「財産形成のために何十年に一度のチャンス」と言葉巧みに出資を募っていたのだ。

 人は大ていの場合計画的には騙されない。だれでも一応そのまま信ずることは悪いことではない。人を信じても事物を見通す明があれば、騙されることはないのだ。しかし、世の中には、すぐ人を信用して騙されやすい人と、容易に騙されない人がいる。騙されやすい人とは: 
▽欲が過ぎる
▽素直・正直(過ぎる)
▽批判する常識に欠ける。
▽おかしいと思っても判断する力がない
▽最初に信じたらのめりこんでいきやすい
 人を信じ、人生に希望を持つ人間と、人を疑い、人生を否定するような人間とでは人生の生き方が大いに変わる。人間は「人の間」。人の言うことを容易に信じる人は明朗で愛情が豊かなひとが多いといえよう。しかし、それに付け込んだ詐欺が流行るのは信じやすい人が多いのか? 老子に「信(しん)言(げん)は美(び)ならず、美(び)言(げん)は信(しん)ならず」(真実味のある言葉は決して飾ったものではなく、飾った言葉には真実味はない)とある。そこで、騙されないためには:
▽(私)欲が過ぎない
▽おかしいと思う常識的ものさしをもつ
▽リスク感覚を鋭くし、3割くらいは客観 的に自分を見る冷静さをもつ
▽すぐ相談でき、間違いを正してくれる師 匠や友人をもつ

 「ワレ思ウ、ユエニワレ在リ」というデカルトの有名な言葉にある「思ウ」は「疑う」という意味で、「疑うことが人間」なのだという。疑うことによって真偽を計るものさしはいつも磨きをかけておく必要がある。しかし、自分では測れないことも多いので、見識ある先輩、異見を持つ友人などの優れたものさしの力を遠慮なく借りることだ。つまり、「自分の明」がなければ、「他人の明」に頼むのである。そのために、周りには優れたものさしをもった人物が助けてあげようと腕まくりして待機してくれているのである。 
 
 ここ数年、オレオレ詐欺の横行を初め詐欺事件は後を絶たないが、企業としても誇大表現による広報・IR(投資家向け広報)活動や過大表示による広告宣伝などもその範疇に入ることを重々肝に銘じておかなければならない。
 
 人を騙すことにより私欲を満たそうとする輩(やから)にとって、この冬は、「嘘(うそ)は河豚(ふぐ)汁(じる)である。その場(ば)限(かぎ)りで祟(たたり)がなければ是(これ)程(ほど)旨(うま)いものはない。然(しか)し中毒(あた)ったが最後(さいご)苦(くる)しい血(ち)もはかねばならぬ」という漱石の言葉が身に染みるであろう。