フジサンケイビジネスアイ連載
危機管理・コンプライアンス欄投稿記事

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「研修中バッジ」とはお客様のためか?

 金融庁は去る14日、消費者金融アイフルに対し、強引な取立てなどの法令違反により約1ヶ月の全店業務停止命令を出すと発表した。福田吉孝社長は「指導力不足を反省する」と謝罪したが、被害者によると貸すまでは甘い応対で誘い、貸してから豹変、ののしり、恐喝の顧客対応だったという。
 企業は、商品の差別化に加えて、接客サービス向上による差別化を図る。特に消費者に密着した商品の場合にはその結果が如実に現れるためになおさらである。
時は4月、通勤電車や街角において初々しい新入社員が目立つ季節だ。
銀行・書店・スーパー・百貨店などでは、「研修中」「アルバイト中」「見習い中」などのバッジや腕章が目につくが、“新入り”であることを公然と知らせることは果たしてお客様サービスになるのか?という疑問が湧いてくる。
 そこで、大手町にある大手銀行の受付で聞くと、入社研修後、窓口など接客業務を行う新入社員には「研修中」バッジを着用させるという。課長クラスらしい男性社員に、その理由を尋ねると「うーん、前からやっているので・・・」とのこと。それが顧客サービスになるのか?の問いにも明確な答えは得られなかった。
 また、銀座の複数の有名百貨店においては、配属後店頭に立つ社員は2-3ヶ月間「研修中」のバッジ着用が義務付けられるとのこと。
 また、ある大手電器量販店B社では、2泊3日の合宿研修で、“いらっしゃいませ”“ありがとうございます”・・・など8つのあいさつを徹底的に実技指導され、「お客様の立場・目線になって接客する」ことなどマナーについてみっちり学んだ後、「見習い」と記された黄色い腕章をつけて店頭に立つ。
その名札の下に記された「お客様のニーズに合ったご案内を努めます」「細かい配慮でお客様の満足度向上に努めます」などのフレーズは、それぞれ自分で決めた接客目標という。これは押し付けでない、心のこもった顧客サービスの向上につながるであろう。 
 やはり量販店大手のY社も「研修中バッジ」を3ヶ月間着用する。ある男性社員は、「着用には疑問」という。つまり、「(質問に)答えられない理由は、すぐ商品が替わるためだが、それは何年経っても同じ。要はいかに誠心誠意調べるかです」と話してくれた。
 そこで、このバッジ着用に関する経営者の意図を分析した。
①「見習い中なので万が一、粗相があって もご容赦下さい」とお客様に先に誤り、 少しでも責任を軽くしようという魂胆 
 か? それは「新米だからミスをしても ご勘弁ください」となり、自社の都合を お客さまに押し付けることで迷惑千万  だ。また新米と分かれば、お客様を不安 にもさせる。正社員でもパートでも見習 いでも構わない。満足できる応対さえし てくれればいいのだ。
②社内的には、見習社員がミスをしないよ うにサポート目的か?
 これは内部志向の表れだ。社内用ならリ ボンなどの目印をつければ事は足り、顧 客に報せる必要はない。
③本人には、「見習い中を自覚し、業務に 励め」という教育的意図か?
 しかし、これは本人の甘えを助長し、逆 効果であろう。

 ある中堅の販売会社に電話すると、「新人の山本です」との明るい声。しかし、“新人”とは無用の不安を与える不要な情報ではないのか? 
 このように、経営者の姿勢や考え方は些細なことに現れてくるのである。最前線の販売員、受付や電話交換一つ一つの挨拶や応対態度によって企業の品格が決まる。いつもお客さまの立場で、個々の言動にも細やかに気を配る会社は、いつの時代にも成長繁栄するであろう。逆にそれを少しでもおろそかにすると、賢いお客様がいつしか黙って去っていく危機が密かに忍び寄る。
 ドラッカーは「企業の目的は、顧客の創造であり、その維持である。事業が何かを決定するのは顧客である。顧客に聞き、顧客を見、顧客の行動を理解して初めて、顧客とは誰であり、何を行い、いかに買い、いかに使い、何を期待し、何に価値を見出しているかを知ることができる」と訓えている。