日経広告研究所機関誌「広研レポート」
06年3月号連載
「実践戦略広報」第三回
メディアとの関係は実に深い
広報についてのかなりの経験者でも、企業とメディアの関係やその立場の違いについて、理論的に正しく理解している人は意外に少ない。果たして、企業とメディアは仲良くすべき間柄なのか? それとも相対立するものなのか? この関係を正確に理解していなければ、日々刻々の応対に際して、一貫した企業姿勢を保つことは難しい。ましてや、事件や事故などにおいて厳しい対応を迫られた場合には、トップの言動によって経営上重大な支障をきたすことも起り得る。
そこでまず、両者の関係を体系的に明らかにしておきたい。それによって、経営者をはじめ、広報に直接間接に関わる人たちにとって、日常のメディアとの応対が自信を持って的確に行えるようになるであろう。
1.お互いに必要な補完関係
企業は、メディアに情報を提供して報道してもらいたい立場である。逆にメディアは、企業から情報を入手して報道したい立場である。別の言い方をすれば、広報担当者は企業拡大のためにメディアを通じて広く報せることが仕事であり、記者は記事を書いて世間に広く報道することが仕事である。企業にとって、仕事として企業情報を報せてくれるありがたい人なのである。
2.協力・対等関係
メディアの顧客は、読者・視聴者である。企業から見ると、それは既存顧客か潜在顧客に当たる。つまり、お客様が共通なのだ。企業は広報、メディアは報道と言うように、両者は「報」を仕事として、「協力」かつ「対等」な関係にある。従って、メディアを企業繁栄にとっての「協力者」と認識することが必要である。
3.対立関係
とはいえ、企業情報にはその時々で体外的に出せる情報と出せない情報がある。出せる情報のなかでも、今はまだ出したくない情報もある。企業機密としてずっと出せない情報や出す必要のない情報もあろう。
一方、「報」を仕事とするメディアは、社会の知る権利やメディアの使命を背景に、社会の公器として企業情報のすべてを報せようとする。両者には常に「対立」する緊張関係が横たわっていることを忘れてはならない。そのことは、JR西日本の事故や耐震偽装事件、あるいはライブドア事件における企業とメディアとのやりとりを思い起こせば、容易に想像がつくだろう。
まだ明らかにできない企業のトップ人事やM&A、大型プロジェクトの受注といった極秘情報を、事前に察知した記者が夜討ち朝駆けまでして執拗に取材する場面などで、その緊張関係は顕著に表われる。
4.綱引関係
企業としては、企業ビジョンや倫理観、あるいは法令順守の姿勢、企業防衛の見地などから、どこまで情報を開示できるかは重要な経営判断であり、経営戦略なのだ。その場合、いつ、何を、どのように公表するかは、その都度、決定して対応することになるが、メディアのほうは公器の立場としてすべてを明らかにするように追求するため、お互いの立場の違いから企業とメディアとはぎりぎりの攻防を繰り広げることになり、「綱引」関係が生じることにもなる。
5.共通のお客様
メディアは企業側の事情を勘案しつつも、可能な限り客観的な立場でニュースを報道しようとする。そこで、企業としては「メディアの背後にはお客様をはじめ、多くの人たちがいる」ことを意識して、いかに対立があろうとも、どうすればメディアの協力が得られるかということについて、全力を尽くして知恵を絞らなければならない。そこに、企業としての真の経営姿勢が問われているのである。
広報の仕事とは、お客様などのステークホルダーはもちろんのこと、社会の人たちのために、記者にいかにいい仕事をしていただくか、ということに心を砕く「奉仕者」なのである。