日経ベンチャー編集長インタビュー


 ■誰がその情報をもって来たか(1/2)  
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 山見―中小企業の情報に関して御社の立場は? 

 X氏―積極的に大歓迎です。 

 山見―プレスリリースは重視していますか? 
 X氏―プレスリリースが主たる情報源になることはまったくレアケースです。プレスリリースが毎日どの位くるか想像できないでしょう。とにかくファックスが山ほど流れてくるし、それに加えていろんな資料などが郵送で送られてくるのです。それに目を通すことは事実上不可能なのです。
 どんなに巧くお化粧され、目立っていても、記者の琴線に触れるのはまず無理というものです。もちろんひょんなきっかけで、目に付き取材することもありえますが・・・。それはまずないと云ってもよいでしょう。 
 山見―じゃ、取材のきっかけとなるのはどんなことでしょうか? 

 X氏―情報は人です!いい情報はいい人についてくることを忘れてはいけません。私たちにとっては、情報の内容もさることながら、まず誰がその情報をもって来たかが大切なのです。つまり情報の質や信頼性がポイントです。それが価値を決めるのです。ハダカの情報には何の興味もあり
ません。最大のニュースソースは、人なのです。だから、記者は人と直接会いたいのです。プレスリリースはそのきっかけとなるかもしれませんが、それ以上の価値はありません。        
 とくに中小企業は、どんな情報でもまゆつばも多く、まず信頼性は低いものです。記者としては質の高い情報に早く・多く接する方が生産性が上がります。メーカーとして生産性を高めることが工場などの目標ですが、記者も同じです。単位時間における生産性をあげたいのです。質の高い情報が取材できれば、確率よく記事にできます。そこからいい情報が紹介されるとまた、質の高い情報にアクセスできる・・・という好循環になるのです。 
 山見―いい情報を持って初めて御誌に載せてもらいたい場合にはどうしたらいいのですか? 
 X氏―まず、社長自身が電話をかけてくることです。もちろん知人に紹介してもらってもいいのですが、とにかくトップの姿勢です。トップ自ら会社のこと、営業のことやその商品自体を語ることです。中小企業は社長がすべてですから、記者にとっては社長が会うといえばきちんとお会いす
るのです。担当者やPR会社の方とお会いしても勝負になりません。 
            
 ■客観的な証明を 
 山見―自分でコンタクトしようとしても一社で断わられた場合はどうするのですか? 
 X氏―悲観することはありません。メディアはいろいろあるので、他のところに話に行けばいいのです。もし、その内容がホンモノであれば、きっとどこかが取り上げてくれるでしょう。本当の情報であれば、誰かが気がつくものです。そのためには、会社に謙虚さが不可欠です。記者はホン
モノとそうでないかをかぎ分ける能力があります。情報の信頼性が低いのに、大げさに世界一や日本初などと書いてくるのは傲慢です。「能ある鷹は爪を隠す」というたとえ通り、誇大広告のようなものはダメです。事実をありのままに話すほうが信頼性を高めることになります。
記者は必ず複数の取材先からその情報を確かめるのです。従ってオープンな姿勢が必要です。 
 山見―信頼性を高めるにはどうしたらいいですか? 

 X氏―やはり、客観的な証明がその一つ、例えば、ISOとか特許とかの情報に加えて、大学の権威ある方やその分野の著名人などからコメントをつけるなどです。つまり、記事には役割があります。いいネタがあるとすれば、記者は早速周辺情報から確かめますので、そこで多様性ある話が聞
けるといいのです。つまり周辺情報にも耐えられるようなネタである必要があります。個々の情報は十分吟味します。それでその情報を社会に報せるべきかを考えているのです。取材したからと云って取り上げるとは限りません。 
 山見―記者は個別取材を大事にしていますか? 
 X氏―記者はやはり本能的に特ダネを狙っているので、自分で見つけた会社への取材が増える傾向にあります。つまり、記者にトップや会社をまず好きになってもらうことです。実際社長の話にほだされたとか情報を隠さない誠実な会社だとか、結構人間的なふれあいがないと解決できません
ね。トップの想い、人と人との付き合いの仲から取材が進むものですよ。
 デジタル時代ですが、取材はまさにアナログそのものでないと、いい記事はかけませんね。“感激なき取材に感銘ある記事なし”です。


【山見博康記】