2003年7月10日
フジサンケイ広報フォーラム原稿
(FCG総合研究所)
ブランドは日々つくられる
・・・最近の企業危機に学ぶ
ブランド戦略の留意点・・・
Ⅰ.はじめに
ここ数年、雪印、東電、日本ハム事件など老舗の大企業の不祥事が相次ぎ、長年築き上げてきた一流ブランドの名声は大きく傷ついた。そこで一連のマスコミ対応を分析しつつ、企業危機とブランド戦略に関して私見を述べたい。
Ⅱ.「五つの直」の実践
企業危機発生時には「五つの直」がキーワードだ。
(1)トップへ「直報」せよ!
初期対応の重要性は唱えても、この「直報」ができていない企業は多い。「直報しない、できない」ことに根本的問題がある。
(2)現場へ「直行」、陣頭指揮! トップが直行、自分の目で確かめ陣頭指揮することが最も有力な危機対応に他ならない。日ハム事件でも、関西で発覚次第、トップが全責任を負ってこれを実行していれば問題の肥大化は最小限に留まったであろう。
(3) 事態を「直視」せよ! 「直視」すれば真実が見える。現場ではこの直視ほど大切なキーワードはない。それにより現状把握、原因を究明、対策を立てる。雪印を初めトップは逃げてばかりで直視しようとしなかった。
(4) 「直言」し合え!
今言えることと今は言えないことに分け、統一見解(プレスリリース)と想定問答を作成。それには肩書きに関係なく「直言」し合うこと。内部体制重視、権力に阿る名門企業には直言できない社員とそうさせない風土がある。
(5) 「率直」になれ! 子供の躾においては、「お母さんの目を見て、素直に本当のことをいいなさい」という。倫理観に正し、お客様のためを想い、社会に役立つ企業として、「素直」になれば、何が正しいか、何をすべきか自ずと解る。
(6) マスコミ最優先に「直報」! トップが率先して即刻「記者会見」を行う。記者への取材協力、情報公開姿勢を貫くのだ。この凛然たる姿勢がメディアの共感を得る。「発言を一つに、発言者を一人に」し、情報を一元化することはいうまでもない。
本当に心配しているのは、実はマスコミではない。顧客を初め、企業を取り巻く関係者、社会すべてが事態の推移を案じている。逃げ回る社長が記者の追及に発した「俺は寝ていないんだ!」はお客様をないがしろにする傲慢な姿勢である。「メディアはお客様の代弁者、社会への伝道師」という広報の根本精神が判っていないトップを戴く企業は早晩衰退の憂き目に会おう。記者には「遠くから最大の顧客が来てくれた」という想いで対応すべきである。
Ⅲ.経営の原点への復帰
傷ついたブランドの再構築には経営の原点に戻ることだ。それは次の「三つの守る」の実践にある。
1. 倫理を守る:
倫理とは人としての行動規範・善悪の判断。一人一人に倫理観のない企業は成立し得ない。トップには更に、崇高さ、高邁さが求められる。
2. 法令を守る:
但しこれは「最低の決まり」に過ぎない。
3. 広報を守る:
社会=お客様、株主あるいは社員に対してもきちんとした情報公開の姿勢・志を貫くこと。「言わなければならないことを、言わなければならない時に、言わなければならない対象に断固として言う」ことが「広報を守る」根本姿勢である。
この度の事件を省みると、三つとも守られていなかったことは明らかである。
Ⅳ.日々の実践
(1) 危機には対応せよ! 目の前で子供が転んだら?適切に「対応」する以外にはない。「危機管理」しようとする企業は失敗する。危機を予測し、未然に防ぐ努力は必要だが、発生したら臨機応変にかつ適切に対応する。火は小さいうちに消し止めるのだ。
(2) 顧客第一主義の徹底実践を! 問題を起こす企業はお客様軽視の言動が目立つ。「お客様からいただく利益だけが企業存続の基盤であり給与の源泉である」ことがまるで解っていない。トップを初めこの当たり前のことを再認識し、お客様のための企業へと変身することだ。長野円福寺の曹洞宗最高顧問藤本幸邦先生は「会社の財産は信用」と説かれる。伝統や大小よりお客様の信用だ。これを無くせば会社は容易につぶれることを今回学んだ。
(3) 危機への感性を高めよ!
大きな危機も実は小さなクレームが発端となることが多い。それは危機の源泉ともなるが、顧客からのありがたい「励まし」であり「願い」なのだ。私はクレームを
①不満②不平③苦情の三段階に分け、それぞれ「願望」、「要望」、「要請」と説く。日々のクレームへの即刻対応が危機対応の基本。お客様への感謝が二次クレームを未然に防ぎ、お客様の感動は企業イメージ向上に導く。クレームは無いことを恐れたほうがよい。
(4) 見えない情報へも対応せよ! ITの発展により危機はいつでもどこでも誰からも一瞬にやってくる。そのハイテク化、グローバル化がますます進む。見えない情報に対する良悪への感度、その取捨選択力、迅速対応力が生死を決する。
(5) 「心の危機」対応を! 「真の危機は心中にある」ことを肝に銘じるべし。大企業病とは一人一人が心の危機に甘い生活習慣病だ。蔓延すれば大木も一挙に倒れる。日々の業務に潜む源流とは、無駄な時間や経費をもったいないと思わない無責任の心、個性を発揮する喜びを感じない心、生ぬるい社内風土に甘んじ変革しようとしない怠慢な心、ビジョン・理念はおろか正義感や倫理観をもおろそかにする弛みの心などである。トップ自ら心にじっと手を当て「果たして自分はどうなのか?」と反省するといい。
(6) 根は決して腐らせるな!
「自分の時代にはなかったが」という数代前のトップに悲劇の真因がある。不祥事とは何年も前から腐り始めた根(がん)が露呈したに過ぎない。いったん腐り始めたら止めるには困難を極める。古いほどその根は深く大きい。生き生きと活力に満ちた力強い根の成長は無限だ。
(7) 風土から社風へ! 組織が拡大しても悪いことが上に上がる風通しのよい「風土つくり」を怠らず、更に「社風」にまで高めよう。それ無くしては「五つの直」の実践も覚束ない。
(8) トップと社員との共創活動!
創業の志・夢を基点にした企業ビジョン・理念の実現はトップだけではできない。トップは機関車で社員がエンジン付きの車両、具現化するのは一人一人だ。ブランド構築は全社員が共創の喜びを分かちあうプロセスともいえよう。
Ⅴ.おわりに
私は小宮コンサルタンツから昨年4月独立、第一期を終えた今「経営とは日々刻々の危機対応そのものだ」と痛感する。企業の大小、歴史の有無、業種の違いに関わらず全社員の一挙手一投足、日々の業務一つ一つが危機対応であることを肝に銘じなければならない。 激動の21世紀、「ブランド」は、ビジョン・理念に向かう一貫性と革新性をもった地道な広報活動の賜物として得られるものなのである。
ブランド構築のプロセス図
(出所:「会社をマスコミに売り込む法」 (ダイヤモンド社)