『人に好かれる法』
     
第90条 素顔 
 顔をいうものは、その人の看板みたいなものである。人間は、まっさきに顔をみて、好き嫌いを感じとる。そしてまず顔の感じで人間をきめやすい。
しかし、生まれつきの自分の顔を今更変えるわけには行かないが、少しばかりの顔の筋肉の動かし方を練習すれば、まるっきり変わった顔に見せることができる。俳優のあの演技を見れば、すぐ悟ることができるだろう。感じのよい顔になる修練を積んだ人は、やはり好かれることが多い。

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それがかなり意図的にできるようになっていけば、「自分の顔」というものが出来てくるように思える。40過ぎたら「自分の顔に責任を持て」と言われるが、一生は「面造り」とも言えるかも知れない。歩いている姿、誰も見ていない時の表情、誰かと応対している時の表情・・・などを司る
ことによって、次第に自分自身の顔が形成されていくのだ。
端正な顔でも無表情もあり、形を問わず豊かな知性を感じさせる表情あり、それはすべて長年の「面造り」の結果である。その面には完成はなく、少しでも味わいのある渋い面、刻まれた皺一つ一つが物語る奥深い面、究極の喜怒哀楽を表わす微妙な陰影をもった面など多種多様であろう。

人間の顔は、少しばかりの顔の筋肉の動かし方を練習すれば、まるっきり変わった顔に見せることができるようになる。俳優の演技を見れば分かる。「顔は相手のためにある」と、感じのよい顔になる修練を積むことは、人に好かれる法のひとつでもある。上達すればかなり効果があることを実感できる。なぜなら、自分を外からながめること、自分を客観的に視る訓練になるからである。

自分の客観視は、表面だけ変わるだけでなく、自分の内面への問いかけになり、その成熟に役に立つのだ。また、魂の落ち着きをもたらし、重厚な態度を身につけることにもなる。
また、深く自分を省みることにより、自分の至らなさを実感することができ、それによって他人への思いやりにも結びつくのである。まず、自分を遠くから眺めるようにし、客観的に見ることから始めよう。
自分自身でコントロールできることは何であろうか?それは、
1.自分の考え(前向き、後ろ向き、
 横向き、斜め向き、上向き、下向き等)
2.自分の態度(立ち方、座り方、
  歩き方、手の置き方・使い方等)
3.自分の表情(笑い方、笑みの浮かべ
  方、思案の仕方、自信ある表情等)
4.自分の言葉(言葉の使い方、声の高   低・強弱・大小・遅早・抑揚等)
5.自分の外見(派手な・地味な服装、
  公式・カジュアル、アクセサリー等)

(1)自分の考え

▼時々の事案への自分のあり方で決める。
 そこに自分と言う人間性が如実に表れる
▼言葉を選ぶこと。より適切な、より格調 高い言葉を選ぶように意識する。
 言葉で人間が判る。
 友人間の会話でも下品な言葉を避ける。
▼発した言葉で相手がどのように受け取る かを常に考えること。
 「たしなみを人の心の根とすれば、
  こころの花はことばにぞ咲く」

(2)自分の態度

最も大切なことは、何を訴えたいか? 
何を伝えたいか? 何を判ってもらいたいか?どんな印象を持ってもらいたいか?を考え、決めて、態度を決める。
この順序を間違わないことだ。

ジェスチャーは、小さく、タイミング良く使えば効果的となる。

その前提で原則を学ぼう。

1. 立ち方

「さあ、真直(まっす)ぐ立ってください」と言われたら、何となく背筋を伸ばし、手を下げる。が、真直ぐかどうかの確信はもてないものである。

■真直ぐ立つとは:
1.四つの立てる:首筋・背筋・腰・顎を  立てる。
2.壁に立つ:壁にかかととお尻の先と頭  の後ろをつける。
3.山見式竹筒法:
 *頭のテッペンから尾骶骨まで
  直径10cmの竹筒をまっすぐ刺す。
 *天空から新鮮な空気が颯爽と降り、
  竹筒を通ってお尻からスーと抜けて
  いくイメージをつかむ。
 *すると、首筋・背筋・腰・顎の四つが  立ち、真直ぐ、すっくと立てる。
  
上記いずれの方法でも、腰の後ろを反らせると「立つ」がわかり、膝を伸ばすと背も伸びる。さらに、

▼両肩を少し後ろに引いて胸襟を開き、
 正面を真っ直ぐ見据える。
▼両手は真下に下げる。両肘のゆとりが
 大きく見せる。
▼人との面会時、(男の場合)足は真横に 肩幅に開き正対する。

2.座り方

 ■竹筒法座り方

▽竹筒法のまま着席、後ろにもたれず正対
▽竹筒法を維持。背筋が伸び堂々たる姿勢 になる。自信と信頼を与える。
▽書類を読む際は竹筒のまま前傾し、
 両手で書類を持って読む。

3.礼の仕方

▼ 竹筒法のまま前傾。会釈45度、
  敬礼60度、 最敬礼90度
▼ 正対一前傾―再正対―次の動作
  (歩く)。
▼ 少し“ゆっくり”上げると丁寧になる

(3)自分の表情

1.目の置き方

▽全体を見廻す。“自分を見てくれて
 いる感じ”を抱かせる。
▽「目を見る」とは、鼻の辺りを“ぼんや り”見、強調する時“ぐっと”見る。
▽強い決意を表わす時、堅実の目的を示す 時:目をすえる。
▽恥辱または悲哀を示す時:目を下に向け るか背ける。
▽思案を表わす時:
 空虚な所に目を向ける。遠くを眺める。
▽疑惑と不平とを示す時:
 種々の方向に転ずる。
▽目を見開いたり、細めたり。
 眼尻を上げたり、下げたり。

2.口の処し方

▼確信する時、決意する時、口角を上げる 真一文字の口を作る。
▼和やかな表情、微笑みを作る時、口角を 下げる。

(4)自分の言葉
□言葉は言霊。コトバは心の使い。
 話しは放し。ハナシは人格、個性。
□適切な表現を心がける。相手のレベル・ 理解度を合わせ、判りやすく。
□格調高い言葉を選ぶ。その言葉に人格・ 教養が現れる。
□大きく、明瞭な、力強い、美しい、囁く ような、甘い声で喋る。
□間の置き方。「話術」は「マ術」。
 「間(ま)」は沈黙。
 「マ」は虚実のバランス。どんな芸術も 「マ」が生命を与える。
 溌剌とさせる。

ハナシ=コトバ+マ
カン =勘+間

 ◎話術の三原則=
  リズムとテンポの理想的な結合
 
A.マ(間)の採り方、その感情は表わす  べく、実に適確であること
B.声の強弱、明暗ははなはだ巧みに配置  されること
C.コトバの緩急、遅速、申し分なく調節  されていること

このようにして、自分で意識的に統制し、統率することが大切。
つまり、“自分を司る”のだ。

徳川夢声も「ココロがそのまま言葉になって表れ、ハナシとなって、人の心に働きかける。良き話をするには良き心をもっていなければなりません」
と言う。

声の調子、目の表情、態度は言葉の選び方や表現に劣らないほど雄弁であり、心中をかなり鮮やかに映し出していることを肝に銘じておこう。
良い話をするには、雄弁を必要とせず、心の良い人は、良い話ができるものだ。


(5)自分の外見

「人は見た目が9割」という数字に惑わされてはならない。いかに第一印象が大切といえども、所詮「外見は内面の影絵に過ぎない」のだ。
人は、中身が9割、いや9割9分9厘!。
最も重要なことは、何を思い、何を話すかであって、その中味に伝えたいことが明確であれば、自ずと確固たる態度に導かれ、厳然たる姿勢が身につくものである。
その意思があれば、普通の服装で十分だ。

もちろんそういう前提では、相手が不愉快な思いをしないような、むしろ、立場立場、場所場所で相応しい装い、いでたちというものがある。
外見は大切だが、捉われてはならない。
ネクタイ一本に時と労を費やすより以上に、自分をいかに司るかに力を注ぐこと。

そこで、森鴎外が訓えるように「儀容を保つ」ことが大切。
儀容とはなり・かたち。それは、衣装や化粧に過度に気を配ることやかしこまって肩肘を張ることでもない。

「自分が人と相対して座した時の顔つきと姿勢・人に物を言う際の声の調子や話しぶり」を鏡で見るように思い浮かべてみよう。

そこで、応接の心得とは、

□真直ぐ顔をみる
□おだやかな視線を送る。睨むのではない
□善い笑顔を作る

禁物なのは、
■手遊びに物をまさぐる
■大げさな身振り
 (やたらに首を振る、手の上げ下げ)
■相好を崩すこと。大口笑い

 「偽りのなき世なりせばいかばかり
  人の言の葉(は)はうれしからまし」          (『古今集』)


  構わない顔、だらしない服装、
  品のない態度
      ・・・だから、嫌われる