食の危機にも光明あり


近年の食に関する信用失墜は著しい。「不二家」など大手ブランドで相次いだ食品偽装が地域ブランドにまで広がっている。
07年10月12日、今年創業300周年を迎えた老舗和菓子メーカー「赤福」(伊勢市)が自社商品の製造日や消費期限を偽って表示、販売していたとして農水省などの立ち入り調査を受けた。全国の百貨店や販売店の相次ぐ「販売自粛」により、同社は販売中止に追い込まれた。34年も前から日常化した不正により、杜撰な衛生管理が浮き彫りになったのだ。

同社は去る12日農水省に、再発防止策を盛り込んだ改善報告書を提出したが、営業再開の見通しは立たず、再建の道筋は険しく、長年にわたる騙しの代償は計り知れない。
その後、伊勢の同業者「御福餅」でも、社長を含む「組織ぐるみ」での製造日改竄が白日に晒された。また、津市の老舗菓子メーカー「平治煎餅」による賞味期限偽装も発覚、11月7日三重県は日本農林規格(JAS)法や食品衛生法違反の疑いで立ち入り検査した。さらには北海道銘菓「白い恋人」の石屋製菓による賞味期限改竄、秋田の食肉加工「比内鶏」による食品偽装、京都の食品加工会社「カワウ」によ
る水煮タケノコ不当表示に続き、11月17日にも高級料亭「船場吉兆」に強制捜査が入るなど、最近の食品偽装の連鎖による食への信頼性は急落した。
 
 しかし、忘れてはならないのは、不誠実極まりない食品業者ばかりではないことだ。大多数の経営者は、食という人の命・健康に関わる崇高なる職業として、厳しい国内外の経済競争に晒されながらも誠実にそして使命感を持って経営にあたっているのである。その代表例が「小田原蒲鉾水産
加工業組合」(石黒駒士組合長13業者)だ。小田原蒲鉾は、年間2千万本が関東地区を中心に出荷されているが、このうちの半数近くが正月用のため、11月下旬ごろからお正月需要に向けて製造量が急増する。
ところが、原料となる魚がこの時期だけに集中して捕れるわけではない。そこで同組合は、40年ほど前に「瞬間凍結技術」を開発、鮮度の良い時期に製造して凍結保管、品質を安全に保つ方法で、顧客の要望に応える体制を確立している。さらに、06年4月地域ブランド認定制度の第一号と
して「小田原蒲鉾」「小田原かまぼこ」の2種類の商標登録を行い、類似品からブランドを守ろうとロゴマークも一新した。

また、「小田原蒲鉾たる品質を守るための努力を怠らない」「小田原蒲鉾本来の製法・技法・技術を頑固に守り、将来も尊重する」など「小田原蒲鉾十か条」をつくり、歴史と伝統を守りながら、その発展や品質向上に必死の努力を重ねている。月例会合では、お互いの蒲鉾を食べあう試食会や勉強会を開き、製品表示の間違いなどを相互にチェックする。現在最盛期を前に、各組合員とも工場の品質管理体制や食品表示の点検に余念がない。石黒組合長は、「一業者でも間違いが出ると、全体のイメージダウンになってしまう。安全で安心なかまぼこ製品を、自信を持って提供していきたい」と力強く語る。

その組合員の中で創業140年と最古参である「鈴廣かまぼこ」は、化学的な添加物を一切用いずに、自然の素材の持ち味を活かす製品づくりを貫いている。そのため、原材料の手配から製造技術の革新、衛生管理の徹底に至るまで惜しみない努力を怠らない。特に同社は海外から独自ルートで
仕入れた魚を厳しいトレーサビリティ体制を確立し、製造から出荷まで徹底した品質管理を実施している。

鈴木博晶社長は「組合の理念を基に、伝統的な小田原蒲鉾の製造に愚直に取り組む一方、未来社会へ向けて、何よりも安全で人々の健康のために役に立つ動物性タンパク質食品として、もっと多くの皆様に安心して味わっていただこうと本気で取り組んでいます」と決意を語る。

農水省によれば、食品表示に関する情報を受け付ける「食品表示110番」への告発が、07年6-9月は前年同期の2.7倍位に当る1241件、十月は月間ベースで過去最多の697件に達した。特に、十月赤福問題発覚以降、菓子類での告発情報が目立つという。

食は、われわれの生存に絶対不可欠なもの。食への信頼はすべてに優先する。
食産業を営む限り、厳しい競争があるにせよ、安全で安心の食料を供給する義務があることをしかと肝に銘じるべし。

この機会にあらゆる食産業従事者は胸に手を当て「自己の行為は善なるか」を自問自答せよ!