「人に好かれる法百ケ条」 NO.165

 第78条 常に与えよ

 誰しもけちな人を好くはずはない。物でも、心でも豊かで、その人に会えば何かを与えてくれるというような人を好かない者はない。金はなくとも、ちょっとした親切な言葉、取り計らい、優しい笑顔、気持ちのよいお世辞、いくらでも人にわけるものはある。「受くるより与うるは幸なり」
という如く、自分が満足であるばかりでなく、多くの人に好かれ、幸運のお返しは必ずあるものだ。

 ―――――――――――――――――

 ビジネスの世界は、Give&Takeギブアンドテイクと言います。しかし、現実にはこれがちょうどバランスしているわけではありません。与(よ)取(しゅ)バランスに於いて、与が多く取が少なければ、ビジネス計算上では損していることになります。本当にそうでしょうか? 成る程、取がお金
であればソンです。しかし、与取には多少と大小があり、それは相対的なものであり、多くの場合には感情的・感傷的でもあります。こちらが与えたと思ってもそう思っていない場合、相当の与と自信をもったとしても、相手は「なんだこんなものか!」としか評価しない場合・・・すべて相互の認識に必ず隔たりや差異があることを忘れてはなりません。人の持つ秤や物差しの種類や単位は各人各様なのです。
 しかもソンは損だけではありません。損して得られる尊もあるのです。本条にある尊に加えて、相手の手間を引き受けること・席を譲ること・励ますことなどもそうでしょう。このような尊は多ければ多い程、また大きければ大きい程、相手からの信用・信頼の増加を促し、尊敬・敬愛へ
と昇華するものです。 
また、私達には、日々行うべき勤めがあります。淡々と義務を常に果していくことも、常に与えることと同じです。際限なきは勤めです。一つで済むと思っても又来る。次から次からやってきます。
その勤めは、三つに分けられます。
(1)大自然の勤め・・生命を守る義務。
(2)命令のよる勤め・・上司の指示によ   る仕事。
(3)自ら望む勤め・・自ら創造力を発揮 して行う仕事。善意からの自発的活動。
 
好むと好まざるとに拘らず、勤めは無限に湧いてきます。その勤めを淡々とまた着実にこなしていくところに人生があるのです。これらの勤めが同時に来たとしても、優先順位をしっかりつけることです。一つづつ尽していけば、沢山あっても確実にこなしていくことができます。この仕事の処理能力こそ真の実力です。

佐藤一斎は『言志四録』において「已むを得ざるに薄(せま)りて、而る後に諸(これ)を外に発する者は花なり」と記しました。つまり、準備万端整って、やむにやまれなくなって、蕾を破って外に咲き出すのが花なのです。その花は人に誉められるために咲くのではなく、蜂や蝶のために咲くのでもない。自然に木や草の精気が漲って固まり、やむを得ずして咲くものです。

それはとりもなおさず、吉田松陰が発した
「かくすればかくなるものと知りながら やむにやまれぬ大和魂」という言葉でありましょう。これこそ内に漲る大生命の発露です。私たちの仕事や作品も、あるいは行動にしても内から迸り、燃え滾る情熱によって溢れ出る、やむにやまれぬ精神の発露こそ、外からは花の如く美しく、孔雀のように優雅に見えるものです。

「勤めてもなほ勤めても勤めても
     勤め足らぬは勤めなりけり」
         (新渡戸稲造)