「不二家事件にみる
    企業のコンプライアンスの実際」

 洋菓子のパイオニア不二家は、昨年11月埼玉工場で消費期限切れの牛乳使用が内部告発によって発覚したが、経営陣は「マスコミに発覚すれば雪印の二の舞になる」と内部文書を配布し、問題の公表も見送った。そして去る1月11日その事実を公表すると共に全店舗で洋菓子販売を休止。各工場における同様の不祥事発覚に伴い、大手スーパーやコンビニで同社製品の販売中止が広がった。食品衛生法違反の疑いで農水省による立入り調査が行われた。
 その責任をとり創業者一族の藤井林太郎社長が辞任を表明、新社長に創業者以外から初めて桜井康文取締役が昇格、改革推進本部長にも就任して再発防止体制構築と信頼回復の難題に取組んでいる。山崎製パンと業務提携し早期再生に向けて動き出した。そこで、この企業危機を検証し、今後の経営のあり方について考えてみよう。

Ⅰ.今回の不祥事の要因五カ条:  
                                    (1)同族経営:3世代に6人が社長に就任など典型的な同族経営。都合の良い情 
報しか上がらないためトップの危機意識が薄弱になった。食品会社として安全衛生への危機意識もなく、会社全体が甘い体質に陥っていた。

(2)業績低迷:連続営業赤字のため品質よりコスト、顧客より会社優先となっていた。厳しい目標設定により、現場では不良品の減少・歩留り向上などのコストダウン達成に過度の実践を強いられ、安全衛生が後回しとなった。

(3)コンプライアンス意識の欠如:社内基準の設定数値そのものに問題があったことが露呈。各工場でも多彩な不祥事が次々に明らかになり組織ぐるみと判明した。信用失墜=企業没落を意味するのだ。

(4)情報開示姿勢の欠如と隠蔽体質:多くの関係者が不正を知りながら、内部告発でようやく表面化。経営幹部は昨年11月発覚時点での公表も無視するなど隠蔽体質を露呈した。

(5)マスコミ対応に不誠実さが露呈:当初は記者のインタビューに無言・無表情で逃げ隠れして、不信感を増幅した。

Ⅱ.不二家が今後やるべきこと五カ条:

(1) 新社長は「広報担当社長」になれ。会社情報すべての統括者となり、内外の異見を受容し、透明性を高めて自ら公表することは経営者の義務だ。日々の業務そのものが危機対応であることを、経営者・全社員共それを肝に銘じること。社内外の情報を統括し、かつ円滑な流通を図ることだ。善悪を問わず、真先に顧客や社会に伝えることは「義務」である。刻々の状況を広く一挙に報せる為に「メディアに協力していただく」のだ。メディアはありがたい協力者なのだ。

(2) 「『外部から不二家を変える』改革委員会」機能の最大発揮を促し、コンプライアンス体制整備や信頼回復に取組め。それによって、決して根を腐らせてはいけない。「まさか」や「そんなバカな」を日々追放し、「ひょっとしたら」「そんなとこまで」と気を配ろう。雪印は事件後、外部有識者の「企業倫理委員会」が徹底した社内常識改善に邁進し、今やコンプライアンス優良企業と折り紙がつくまでに変革した。日本ハムもそうだ。

(3) 社員のコンプライアンス意識向上と再生への情熱を結集せよ。再生は外部の力だけでは不可能。一人ひとりが再生への情熱を投入すべし。社員の迸る情熱エネルギーによって内外が一丸となり、同じ目標を目指す相乗効果によってこそ、再生できるのだ。道徳・倫理を守り、法令をいかに上回るかを目指すべきである。信用の蓄積こそが生きる道だ。

(4) 公益通報保護法に基づく内部通報システム(ヘルプライン)を設けて内部統制システムの柱にすると「抑止力」になる。。内部告発者を守るため、通報しやすい窓口とし、プライバシーを守る。ただし、この機能は使われないことをもって善しとし、「告発の気」が起らない会社になるべし。

(5) 山崎製パンの支援により早期製造開始に向けて、再発防止策を策定し早期公表を行うこと。それを徹底実践する。

 百年近く洋菓子業界のトップメーカー不二家のペコちゃんは万人のアイドルだ。その大きな目の涙を拭い、可愛い笑顔を取り戻すために、各方面からの支援を元に、経営者―社員一丸となり一日も早い再生に期待する。

 「マネジメントには、自らの組織をして機能させ、社会に貢献させるうえで三つの役割がある。第一に、自らの組織に特有の使命を果す。第二に、仕事を通じて働く人たちを生かす。第三に、自らが社会に与える影響を処理するとともに、社会の問題について貢献する」(ドラッカー)