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    ヤマト運輸の雇用延長

 昨年1月ヤマト運輸の故小倉昌男元会長が当時の常識を破って始めた「宅急便」が30周年を迎えた。開始初日の荷物11個が今やその1億倍、つまり年間11億個以上となり、その躍進ぶりは輝かしい。今後とも業界のリーダーとして更なる拡大を目指すには、優秀なセールスドライバーの確保が必須要件である。
 ところが、本年以降、宅急便開始後に入社した団塊世代の退職期を迎え、ドライバー不足に直面する。その危機を先取りし、同社は、05年昨年4月から定年を61歳に1年延長し、しかも60歳でも退職できる「定年選択制による雇用延長」を導入した。 退職後でもはグループ内のヤマト・スタッフ・サプライ(株)(YSS)へ登録し仕事を継続でき、体力や都合により、時間を決め働きたいだけ働ける。登録期間は65歳までだが、それ以降も継続可能だし、グループ外への派遣も希望できる。このような極めて柔軟な仕組みを提供する企業は珍しい。
 
 セールスドライバーの主業務は運転と運搬だが、高齢に伴い運搬のほうが体力的に苦手になる。また、ヤマト運輸ではITを活用し“荷物が今どこにあるのか”が分かる独自のトレーサビィリティ体制を強化しているが、年齢と共に情報端末機器の進化に遅れを取る人もいる。そんな懸念に対しても、この制度であれば自己都合で自由に働くという人間的な選択が可能だ。
 会社側にとっても熟練ドライバーの雇用延長は利点が多い:
▽地域の馴染み客に、長年築いた人間関係 の「温かさ」と「安心」を提供し、その 進化と深化がさらにきめ細やかな顧客サ ービスへと高揚する。
▽担当地域・顧客情報を熟知し蓄積してい る。
▽ヤマトのビジョン・理念の理解と実践が 並行する。
▽多様化するサービス(現在26種30種類 以上)と商品情報を豊富かつ詳細に装備 する。
▽運転技術と安全意識が両立する。
▽熟成「ヤマト魂」が若手社員へ有形無形 に伝道し、その精神を鼓舞する。
 
 このように雇用延長厚遇のメリットは大きい。YSSへの登録者は現在350人だが、数年後には毎年千人単位で増える。今は、継続勤務が多いが、将来的には、優秀なドライバーのニーズが高い企業の社有車や工場間移送バスなど外部でのにも活躍の場にもを広げる方針。
 このように社員に温順な制度が可能なのは、7~8人位の小エリアセンター集団による宅急便センターが全国約3千5百ヶ所に点在するからだ。業界最大の拠点数があればこそ、地域に密着したきめ細やかな顧客サービスが実践でき、ヤマト独特の「安心」「安全」追及が実現できる。

 その拠点数の多さは、他が追従できない次の二つの施策を可能にする。
一つ目は女性の活用だ。全社員中女性は4万7千人と35%、その内ドライバーは9千人(14%)もいる。事務職は2万3千人中1万9千人(83%)、仕分けアシスト業務等にも1万9千人と女性の活躍の場が広がる。なぜなら、担当エリアが狭く、比較的小さな荷物をこまめに配達するので、地域に住む女性の短時間労働が可能なのだ。
 また、女性管理職は現在18名(3%)だが、増加を期待して研修にも力をいれる。
▽女性リーダー塾:幹部志向社員30名程 度を年に2回合宿研修
▽役職候補者研修:課長・各センター長候 補(約千名)に対する研修。現在、女性 候補者は約50名だが、今年度中に百名 位に増加見込み。

二つ目は、ヤマト福祉財団との協力による障害者雇用支援だ。障害者法定雇用率は1.8%だがヤマトでは2.1%(1080人)と法定雇用率を大きく上回る。業務は主に仕分けやデータ入力等だが、現在は成長著しいクロネコメール便の配達業務の一部も障害者が実施している。

 山内雅喜執行役員人事総務部長は「30周年を機会に“お客様に喜ばれるサービスの提供”という本来の精神に立ち返って、常にまごころを込めた最良のサービスを提供し、お客様に豊かな満足をお届けする社員を増やしていきたい。そして定年後再雇用制度の拡充や女性の登用、身障者雇用等を積極的に促進し雇用の巾を広げていきたい」と社員の能力向上や働きやすい職場作りに意欲を燃やす。

 高齢社会の到来により、誰しも退職後の人生をいかに有意義に生きるかと言う命題に直面する。労働人口が減少する中、熟練した人たちが定年後も健康を保ち、できるだけ長く就業し、その能力を最大限活かすことが国益にも沿い人生の幸せにもつながろう。

「人生は有効に費やせば最も偉大なことをも完成できるほど豊富に与えられている。人生は使い方を知れば長い。」(セネカ)