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『至誠の咆哮』NO.138
第五十五条 決して嘘を言わない
「あいつは嘘のない奴だ」これくらい気持のいい人間はない。心がけ次第で嘘はなくてもすむものだ。どうしても嘘の必要があったら黙っていればいい、相手が必ず察してくれる。どうにか察してくれる。相手がどう考えようとまかせる肚があればいい。
こんな人間がどうにもならぬ時についた嘘は、かえって正直にもまさる値打ちがつくものだ。
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「嘘」に関する名言・名句を集めてみました。
「嘘は河豚(ふぐ)汁(じる)である。其の場限りで祟(たたり)がなければこれ程旨いものはない。しかし中毒(あた)ったが最後苦しい血も吐かねばならぬ」
(『虞美人草』夏目漱石)
「元来うそをほんとうらしく感じさせるのには、成るべく簡単に書くのに限る。くどく説明すればするほどうそが一層うそらしくなる」(『現代口語文の欠点について』谷崎潤一郎)
「一分(いちぶ)の嘘も言わない人間というものは、正直を看板にして いるところの、最も悪辣な人間であり、友と為しがたい者である」(『港にて』萩原朔太郎)
「わたしは不幸にも知っている。時には嘘による外は語られぬ真実もあることを」 (『侏儒の言葉』芥川竜之介)
「人間は生きるためにごまかしている」 (『酒狂』有島武郎)
「礼節を守りながらものを言うことは、必ず一部分が嘘になるのです」
(『正直な夫』伊藤整)
「口ではうそがつける。耳にはうそがつける。しかし真心はうそをつかない」 (『お目出たき人』武者小路実篤)
「吾々は時とすると理詰の虚言(うそ)を吐(つ)かねばならぬことがある」
(『我輩は猫である』夏目漱石)
「嘘をつくということの中に、創り出すよろこびをいうやつがあるのかもしれない」 (『原色の街』吉行淳之介)
「嘘を衝きたくないからと云って、相手の面目を潰すには及ばないのである。それよりはまだ嘘を衝いた方が良いかもしれない」 (『青年』森鴎外)
「どんな舟でも御乗んなさいと云われれば、乗らずには居られない。大抵の嘘は渡頭(ととう)の舟である。あるから乗る」
(『虞美人草』夏目漱石)
「わがため面目あるように言われぬる虚言(そらごと)は、人いたくあらがはず」(自分にとって名誉になるように言われたうそは、うそだとわかっていても人はむやみに打ち消さない)(『徒然草』兼好)
考えさせられる言葉の数々です。嘘は絶対に悪なのでしょうか?大小の別はあるとしても分別がつく頃から内省し、しばし思い起こして、「かけらの嘘もついたことはない」と断言できる人はいないでしょう。
子供の頃、ちょっといたずらして母親についた嘘、デートに遅れて交通渋滞にせいにした嘘・・・ついた嘘は数限りない自分に気がつく。しかし、その中には、真実をそのまま言うと相手が傷つく、というケースや、違った言い回しの方が円満に事態が推移するケースなどもありましょう。実はこれが思いやりの世界にもなるのです。
すべて真実のみしか語れない人は、思いやりのない人になるケースがあるのです。
従って、人間はいつも黒か白ではなく、常に灰色が人生といえます。このグレーゾーンをいかに乗り切るか・割り切るかの判断力・表現力が人生の妙。私たちは嘘(うそ)と真(まこと)の狭間で日々生きています。