「人に好かれる法百ケ条」第四十九条をお送りします。
第四十九条 広く、長く人に好かれるには
一人の人間に長い間好かれる事も多くの人の人気を失わぬ事も実に難しい。張り切った弦は切れ易く、湧く水でないととぎれる。努力がすぎると公平を欠いて、かえって反感を呼び敵を作る。仏作って魂入れず、撫でたり、つねったりでは多くの努力もその効を失う。
一度の大きい親切よりも、小さい親切を十回重ねる方が根が深い。湧く様に流れる様に湿し、潤おす好意の持ち方、そこにだけ親愛の根は育って行く。
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デール・カーネギーの世界的ベストセラー「人を動かす」(How to Win Friends and Influence People)の第二部に「人に好かれる六原則」があります。それは:
1. 誠実な関心を寄せる
2. 笑顔を忘れない
3. 名前を覚える
4. 聞き手にまわる
5. 関心のありかを見抜く
6. 心からほめる
というものです。要するに、相手を尊重して、関心のありかを見出して、真剣に聞いてあげることでしょう。
また人に嫌われたり、陰で笑われたり、軽蔑されたかったら、次の条項を守ることとして:
1. 相手の話を、決して長くは聞かない
2. 終始自分のことだけをしゃべる
3. 相手が話している間に、何か意見があ れば、直ぐに相手の話をさえぎる
4. 話の途中で遠慮なく口をはさむ。
孔子は「己れの欲せざる所、人に施す勿(なか)れ」と思いやりの心「恕」の大切さを説いています。人は身勝手なので、自分が人にどんな失礼をしているかについてなかなか気付きにくいものです。何気ない一
言がまわりの誰かの小さな心を痛めていることに鈍感である場合が多いのです。その辺りを注意して言動することは一つの大きなコミュニケーション能力です。
「礼は利口さである。従って非礼は愚かさである。非礼によって無用かつ軽率に敵をつくるのは、わが家に火を放つに等しい気ちがい沙汰である」(『幸福論』)とショウペンハウエルは訓えています。
つまり、「敵意をもった頑固な人でも、多少の礼と親切によって、素直なやさしい態度をつるように仕向けることができる」のです。
そのように相手の心情をみて、自己をコントロールすることは、ちょっと気を使えば誰にでも少しはできることです。
佐藤一斎は「我れまさに人の長所を視るべし」(『言志四録』)と唱えていますが、つねに人のいい面を見つけてあげようとする思いやりの心が好かれる根本でしょう。
『菜根譚』に「仁人(じんじん)は心地(しんち)寛舒(かんじょ)なれば、便(すなわ)ち福(ふく)厚くして慶(けい)長く、事々(じじ)に個の寛舒の気象を成す」つまり、「仁の徳を具えた人は、心が広くのびのびとしているので、幸福は厚く喜びも長く続き、あらゆることにのんびりとした気質をなすものである」というものです。
本条にも、小さな親切を湧く様に施すところに親愛の心が育つとありますが、それは、自分の意思を伴うものです。強い意志力とそれをいろいろな相手にそれぞれの事情に合わせる継続的な実行力であります。
これは、自然に備わる天性のものではなく、いわば後天的なものともいえましょう。生まれた頃からの親の躾とその後の指導がその根本精神を形成しますが、それからは自らの訓練・修行にて身につけていく以外にはありません。それは、運動の練習と上達への過程の関係と同じです。
それぞれ、自分の意志による実行を心がけましょう。