産経新聞連載No.16
「命名権」・・・社会貢献として普及期待
三年前から命名権(ネーミングライツ)ビジネスの意義と将来性に着目、T&Kパートナーズ(幸島祥夫社長)と協力して事業化を図るため、自治体や企業に働きかけている。命名権とは、公共施設の建設費や維持費を長期負担する見返りに企業名を付与する権利のことだ。
このビジネスは米国で二十年以上の実績がある。イチロー選手の本拠地「セーフコフィールド」(保険)やロス市の「ステープルズセンター」(文房具)が代表例だ。特に後者では、プロのホッケーやバスケットの本拠地のほかグラミー賞の授賞式や民主党大会など大イベントの誘致に成功。さらに、市が率先・協力して街灯の設置やパトロールを強化した結果、同センターへの招待がステータスシンボルになるほど価値が向上した。
横浜市はこの一月、「横浜国際総合競技場」(建設費六百億円)への命名権を導入。今年度約八億円の維持費に対する不足額五億四千万円に市税投入が見込まれるため、「年五億円五年間」を条件に有力企業と交渉している。
また国土交通省は、定期清掃の見返りに海岸の命名権を与えるモデル事業を湘南海岸などの砂浜で実施する。県と市町村は漂着ごみの清掃に毎年二億円以上支出、その財政負担軽減を狙っている。しかし、対象砂浜選定の段階で、地元の反発を懸念し、まだ具体的進展はない。他の候補地でも同様な状況という。
国内で実現したケースでは、東京、神戸の両スタジアムが挙げられる。それぞれ三月から、「味の素」(五年十二.五億円)、「Yahoo!BB」(二年二億円)という名称がついた。広島では新市民球場建設に命名権を活用する予定。
命名権は、大きな施設ばかりが対象ではない。老朽化した地方の公民館や美術館・橋など比較的小さな公共施設の建設・維持費補填に関し、成功した地元企業や高額所得者の中からこの趣旨に賛同する篤志家が多く現れることが理想だ。
近い将来、命名権事業が定着し、企業PRにとどまらず、地方自治体と企業とが一致協力し、社会貢献活動の一環として広く普及することを期待したい。