「ゴーンさんの広報の使命」
2012年11月22日(木)
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広報の使命
広報の達人志望者の皆さまへ    
                       
 近年、ITの発達によってビジネス活動がますますグローバルとなり、競争も激化する中、広報の役割はますます重要になっています。またいろいろな事件・事故あるいは不祥事などを目の当たりにすると、対外的にも社内的にも広報体制強化の必要性を実感いたします。

まず経営者は、明確なビジョンとそれを支える戦略そして具体的な行動計画を描くことです。この三つが成功へ導く因子であります。
その際に、測定可能なものを目標に掲げ、その実績を測定し、ビジョンへのマイルストーンを確認することが大切です。さらに戦略の明確化と共有化が必要となります。
そこで、広報の役割としては、それらをきちんと社会に報せることおよび社員一人ひとりに浸透させることです。例えば、いかにビジ
ョンや戦略がパワーフルでも社員に理解されなければ共有されず、共有されなければパワーレスになり、何も起きません。社員が自ら
ビジョンや戦略を実行に移し、着実に業績を上げることによってモチベーションを高めることが大切です。それによって社員や会社
の潜在力が開花され、エクセレントカンパニーへの道が拓けるのです。

その実践におけるキーワードは、透明性(Transparency)、信頼性(Credibility)それに、適時性(Timing)の3つです。
特に、透明性は、企業にとってコストを度外視しても不可欠なものと考えています。常に透明性を保つことは、企業の価値観というよりも義務なのです。企業には情報公開を行う義務があることを忘れてはなりません。この意志を貫き、実績を積むことによって、お客様や社会からの信頼性が着実に高揚するのです。

一方、透明性や信頼性を高めるには、社内外へのコミュニケーションがとても重要になります。このコミュニケーション力は、重要なマネジメントツールなのです。いかに適切なタイミングで、適切な相手に、的確なコミュニケーションを行っていくかは、GoodCommunicatorとして、広報人の大きな使命なのです。社外においてコミュニケーションを図る相手には、ステークホルダーを初め、自社に興味のある不特定多数の人たちも含まれます。

私は「コミュニケーション六か条」として次のように考えています。

1.十分な準備を行うこと
2.内容・根拠がしっかりしていること
3.何をコミュニケーションするかを厳選す  ること
4.現実に即した地についたものであること
5.会社としてコミュニケーションのあとに  実行する意志のないものは広報しない
6.事実・数値に基づいたコミュニケーショ  ンを行うこと

社内外を問わず、この六か条をベースに常に相手を意識して双方向のコミュニケーションを、長い目で見て地道に継続することが肝要です。

そこで、広報人つまりスポークスパースンには、コミュニケーションに長けた優秀な人材が必要なのです。さらに、積極的に自己啓発を行い、メディアトレーニングを受けるなど自らの広報力向上を図るとともに人間的にも大いなる成長が期待できる人が望まれます。

広報の達人への要件としてもっとも大切なことは、高い使命感を持ち、常に誠実(Sincerity or Sincere)であることです。その上で、きちんとした価値観をもち、有効的確に問題の核心を突くことを心がけて下さい。すると、世の中の変化を予測しながら行動することができるでしょう。
また、自らの責任の境界を超えて構想し、より広大な絵を描くようにチャレンジすることです。一方では、他社の成功に学びよりよいものを率直に取り入れ、また机上のアイデアに終わらず継続的な改善を実践することによって常にベストプラックティスを追求し、社内が一枚岩となってビジョン実現を促進する役割があることも肝に銘じておかなければなりません。

最後に、皆さまには、コミュニケーション能力を大いに高揚させ、単なる「戦術的実施者」ではなく、「戦略的思想家」を目指していただきたい。そして自社の繁栄に寄与し、ひいてはグローバルな経済発展の一翼を担うよう心より期待しています。

2005年 2月             カルロス・ゴーン
 Carlos Ghosn  CEO
日産自動車株式会社