■□■□■□■□■□■□■□■□■□■   『広報卓越者になる法』   
 今日のテーマ:
   「独占スクープの舞台裏を探る」
   2011年8月22日(月)
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独占スクープ記事の舞台裏を探る・・・
取材要請・申込みvs一斉発表の事例研究

 時折、一般紙の朝刊一面トップに大々的な記事が出る。いわゆる「独占スクープ記事」だ。その場合、当日の夕刊あるいは翌日の朝刊か夕刊に同じテーマでの「一斉発表記事」が載っているケースが多い。

達人志望者ともなれば、これらの記事を見てその舞台裏を想定できなければならない。これらの記事がどのような企業―メディアのやり取りの中で生れたのか?
 ここで一つのシミュレーションを行い、私なりに推察してみよう。         
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「東西重工、南北機械を傘下に!!」
〇四年七月二十八日(水)太陽新聞朝刊最終十四版第一面トップ記事は、多方面に強いインパクトを与えた。太陽が「抜いた」特ダネだ。                                             
見出しは、横に大きく「白抜き」でよく目立つ。 縦に「一千億円で資本参加、六十%株式取得」と五段抜き見出し、しかも「環境機械部門に本格参入」という小見出しもある。                 
リード部分において、「東西重工は環境機械メーカー第三位の南北機械を傘下に収める方針を固めた。本日にも臨時取締役会を開き正式決定する」とある。
次に、当日の夕刊一面下段を見ると「東西重工、南北機械を吸収合併すると公式発表」という三段抜き記事があった。他のメディアも、この公式発表をこぞって報道した。           
 この一連の流れにおいて、記事が出た経緯は次の二通りと推測される。朝刊や夕刊の〆切時間が参考になる。                   
■シナリオその一:「東西重工」による「太陽新聞」への戦略的取材要請
(リーク)
①東西重工は南北機械買収のため秘密裏に交渉を進め、七月中旬に基本合意した。広報部は七月末の一斉発表を想定、準備していた。

②ところが、七月二十二日になって、より大きなインパクトを与えたいとのトップの意向で、有力紙一社へ取材要請(リーク)を決定。今回は、太陽新聞を選ぶ。    
掲載日は、七月二十八日(水)朝刊狙い。(当日は大安)そして、同日の朝、臨時取締役会を開催し、直ちに一斉発表する方向が決定した。

③七月二十三日(金)、東西重工の広報担当Sは、親しい太陽新聞の重工記者クラブ担当Y記者に、「折り入って話があるので至急お会いしたい」と二十六日(月)夕方来社を要請した。感のいいY記者は快諾、先約は変更した。

④二十六日(月)「太陽だけ」という前提で、担当役員からY記者に詳細なレクチャー。Y記者はデスクと調整し、(二十八日早朝の〆切一時半ころまでに大ニュースが入らない限り)要望通り二十八日(水)朝刊(一面トップ)掲載が決定した。

⑤広報部は、二十八日早朝からの他紙取材に備えること、および、同日午前十一時から「緊急一斉発表」の記者会見を行う段取りをするため、南北機械広報部と協力して、プレスリリース、Q&Aを完成。

二十七日(火)までに限られた経営幹部に配布し、当日の問合せ対応を徹底した。

同時に、その夜までに、両社トップ筋より主要顧客、主力銀行、商社など関係する一部のトップだけに、「明日資本参加に関する記事が出る」ことについて電話で内通する。

⑥当日二十八日(水)太陽新聞朝刊一面トップ記事は、競合他社を初め各方面に衝撃を与えた。広報部には九時前から他紙記者からの問合わせ殺到。東西・南北両社広報部は、Q&A集に沿って、「記事内容を大筋認める」回答を行う。

⑦東西重工・南北機械とも十時より、臨時取締役会を開く。広報部は、取材が多いのでやむなく、同日十一時から東西重工本社において「記者会見して一斉発表する」ことを重工記者クラブ(一般紙)他の関連記者クラブや各メディアに通知した。

⑧発表会では、新聞・テレビ・雑誌を含み五十名以上の記者を前に、両社社長が発表を行い、質疑応答を入れて12時半に終了した。

⑨その後、通信社がニュースを流し、テレビ・ラジオはお昼のニュースで取り上げた。新聞各紙は夕刊に掲載。夕刊のない業界紙・専門紙などは、翌日二十九日(木)の朝刊に掲載した。記事の語尾はすべて「…・発表した」となっている。        
■シナリオその二:記者取材攻勢に屈して

①東西重工広報部は、七月初旬から時々、太陽新聞重工担当Y記者から、本件に関する問合せや担当役員への「取材申込み」を受けていた。この重要情報を掴み、確かな情報を求めて動き回っていたのだ。それに対して、広報部は、公式に表明できる段階ではないので、それ以上情報が漏れないように関係先に注意を促すと共に、記事にならないように対応していた。

ところが太陽は、複数の記者で、社長を初め経営幹部へ夜討ち朝駆けなどの取材攻勢をかけ始めた。

②そして、七月二十三日(金)Y記者が「確信がつかめたので記事にする。社長に会わせて欲しい」と取材申込みに来た。                    
③広報部はトップと早急に対応策を検討したが、太陽はほぼ事実を掴んでいるのでこのままではもたないと判断。一方的な憶測によって間違った記事が出されるよりも、ほぼ確かな内容にした方が得策と考え、太陽へのリークを決定、二十六日(月)に担当役員がレクチャーすることにし、Y記者に連絡した。

以下、シナリオその一の④~⑨に同じ 
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上記物語によって、各方法に関する理解が深まり、広報戦略実践の参考になろう。臨機応変の使い分けが大切である。