転んで何か拾い物でもしようという様な了見では世渡りの達人にはなれません。世渡りの道には様々な障害物が転がっていて、けつまづいたり、衝突したりはあり勝ちな事、そんな場合に大抵はぶつくさ言うか、当たり散らして喧嘩などを始めることもあろうが、これでは唯起きるよりは拙いものです。

人間は失敗した時、絶対絶命の時、本当の知恵を悟り、真実の友が判り、誠の味方が握れるのです。

唯起きてはいけないというのはこの事なのです。

何が起ころうとそれは将来のもっと大きな災難に備えるための練習である、と常に考えて対処しましょう。それがショウペンハウエルの賢い訓えです。


「時々刻々にわれわれを悩ます小さな災難は、

 大きな災難に耐える力が幸運 のあまりに

 すっかり衰えてしまうことがないように、

 われわれを絶えず訓練するためにあるのだ」

        (ショウペンハウエル『幸福について』)


【山見博康】