「脳力とは、自分自身の中に存在するものであり、それは表面へと発揮されなくてはなりません。人間は無限の可能性に満ち溢れています。すべては自分自身の内にあるのです。貧困の人は、ただその扉を開ける機会がなかっただけなのです。社会は個人が秘めている素晴らしい能力を発揮する機会を与えなければなりません。そうすれば、人々は自分がこんなにも素晴らしい能力を持っているのかと驚くことでしょう。そしてその能力をもって発揮したいと思うようになり、その過程で自分自身を発見していくのです。人生とは自己発見の連続なのです」

と熱く語るのは、バングラデシュ「貧困なき世界を創る銀行家」グラミン銀行総裁ムハマド・ユヌスさんです。

ユヌスさんは、チッタゴン大学経済学部長だったのですが、世界有数の極貧の祖国、その中でも最極貧の人々に接して、自分がアメリカで学び、今は母国で教えている最高の学問が貧困を救うのに全く役に立たないことを悟り、貧しい人々の生活に入り込み、なぜ貧しいのかに疑問を解明しようとしたのです。ある女性が編む美しい竹籠を売っても売っても貧しいのは、最初の下での27ドルがないためだと判り、わずかなお金を元手として貸し与えることで自立することができる仕組みを作ったのです。それが「グラミン銀行」です。「マイクロクレジット」(無担保小額融資)で、農村部の貧しい人々の自立支援を全国で展開、同国の貧困軽減に大きく貢献。今や多くの国際機関やNGOによって広められ今や世界で1億人以上がこの恩恵を受けているのです。

ユヌスさんは、2006年ノーベル平和賞を受賞されなした。

人は皆自分の力を発揮する権利があるのです。社会や会社はその仕組みを作り、かつその風土を築く義務があります。

政府も経済も機械も車も、全て何のためにあるのか? それは人を幸せにするための道具に過ぎないのです。お金もそうです。それは物々交換では面倒だから簡単に、しかも色々な物が同じ様な物差しで測って、争いが起こらないようにと、お金(紙幣や硬貨)を考えたものです。


「人間の幸福は、自らの優れた能力を自由自在に発揮するにある」

                         (アリストテレス)

のです。どんなことでもいい、何かをやり遂げた時、達成した時が人間もっとも至福の瞬間です。

編み物でも、積み木でもプラモデルでもそれが苦心して完成した時の喜び!です。その小さな喜びを味わうことに喜びを見出すのです。


ユヌスさんは、こう続けます。

「今の会社は、利潤を追求することが目的ですが、利潤を産み出さなくてもできるビジネスがある。出資はそれによって、“誰かの役に立つ”という心理的な配当を得ることができる。自分の創造力を活用することで自分を探求していくことができる」

今やCSR(企業の社会的責任)の時代ですが、何でも「責任」があるからやるのではなく、自らの「義務」として行う時代です。

ドイツの哲学者カントは、「人が自分の生命を保存するのは義務である。自分自身の幸福を確保することも、人に親切にすることも義務である。“義務”とは、私達をして善なる行為を為さしめる必然性である。義務に基づいて為す善行為の方が、道徳的価値が高い」というのです。

そこで「ソーシャル・ビジネス」という新しい資本主義を提唱、利益が上がれば株主への配当ではなく、経営者は社会貢献への投資を行うことが義務づけられるのです。


自らの能力を精一杯発揮し、それを何らかの社会に役立つものに利用し、それでもって幸福な生活ができることが万人に与えられた権利でもあり、義務でもありましょう。

ユヌスさんは「2050年に世界から貧困を無くす」為に全身全霊で取り組んでおられます。もし、ご興味あれば次の著作をお読み下さい。

『ムハマド・ユヌス自伝』1998年早川書房

『貧困のない世界を創る』2008年早川書房


【山見博康】