何事もこだわらない人は、人の心をも解放するもの
です。こだわる人は、誰の心でも片っ端から縛ってい
くもの。人をのびのびさせるような人は、こだわりの
ない人、融通(ゆうずう)の利く人ともいえます。
仲のいい友達と会って話す何気ない会話におい
ても、少し相手の気分を害するような言葉を使った
場合など、別れた後に、自分の発言が気になるこ
とがあります。
「友達だからいいじゃないか。きっと真意をわか
ってくれるだろう」と思ってはみても、友達だから
なおさら気にしているのでは、と余計に気に
なり、何か機会をつくって確かめたい気持ち
になるもの。その理由を考えて電話する時には、
小さな胸が高鳴ります。その第一声のトーンに
全身の血が集まる思いです。
そこで、相も変わらず、くったくのない声に接
した時、内心の安堵感はいかばかりか! つい、
自分の声が上ずっているのが気になる位です。
世渡りは浪(なみ)の上行く船なれや
追風(おいて)よきとて心ゆるぶな
(新渡戸稲造)
「高等動物」であるが故に、人間は欲があります。
富と金、一流ブランド、大きな名誉や権力、酒や
博打のような不断の享楽です。しかし、富を得て
も使い方に無教養を露呈して嘲笑(あざわら)わ
れることになります。しかも、つねに無くなる不
安と恐怖に慄(おのの)くのです。それで、+と
-はゼロともいえましょう。
人間として持つべき望ましい真のこだわりとは:
▽道徳的信念や使命感を抱くこと
▽人徳や優れた教養・品格を身につけること
▽心身の健康の維持増進に努めること
▽適正な仕事に没頭すること
▽自らの能力を自由自在に発揮すること
これらの気高い追求に上限はなく、久しくこ
だわりを持ち続けることは人生の妙味です。
融通無碍(ゆうずうむげ)とは、その場その場に
応じて、柔軟で無碍な態度を忘れることなく、双
方のあるいは周りの人たちによかれと、物事を善
処していくのです。
人情家は融通を利かせ易いが、世間にはその
人情を利用する人間も多いものです。
しかし、人に利用されて喜んでいる人は、
▽人情に厚い人
▽思いやりに満ちた人
▽度量の大きい人
▽物事を善処出来る真の実力を備えている人
会社内においても、規則やこれまでの慣例
ばかりを楯にする融通の利かない人がいます。
しかし、あまり相手にしなくてもいいのです。
そんな堅物(かたぶつ)に要職が回ってくる
ほど世の中は甘くありません。
物事は白か黒であることはほとんどなく、い
つもグレイゾーンのどこかにあります。
それを善処するところに仕事があるのです。
ややこしい、むつかしい話をまとめ、解決を
見出していくところにやりがいある仕事があ
るのです。
こだわりは最低限に留め、融通を利かしてあ
げる人情味豊かな仕事をしましょう。
人にこだわらず、自分にこだわれ!
それが世渡りの秘訣です。
「般若心経」にある
「色即是空(しきそくぜくう)」の「空」とは
かたよらないこころ
こだわらないこころ
とらわれないこころ
ひろく、ひろく、もっとひろく
これが般若心経 空のこころなり
【山見博康】