人間が物ごとを判断するには次の三つがあります。 

一つは理性による判断、次に五感(目・鼻・口・耳・肌)によるもの、
そして最後に勘です。勘による判断とは、いろいろ考えず、
対象を即座に感じ取ったり、その場の空気とか様子を察して、
直感的に、判断を下す心の働きで、第六感とも呼ばれます。
もともと動物的な保護本能から出たもので、身の危険を察する
能力のひとつです。飼育された犬や猫でも、危険が身に迫れば身構え、
唸り声をあげます。人間の赤ちゃんも、教えないのに知らない人に身構え、
こわそうな人には決していきません。人見知りは動物の勘と同じなのです。
 勘のいい人とは、要は、人よりも早く気づく人でもあり、反射神経の
良い人とも言えます。
 スポーツの世界では、勘の良い人と悪い人ではそのまま実力となって
現れます。とくに球技の場合を例にとれば、味方のプレーヤーがボールを
もっているときに勘のいい人はその動きの先をよんでチャンスを作るが、
そうでない人は一瞬遅れるものです。一言でいえば「勘=予測能力」の差
です。
この能力は、あらゆるものにおいて必要とされます。
視野が広い優れたプレーヤーは、間違いなく観察力が優れ、問題点把握力に
長け、その後の展開予測力が高いということです。これらは、はっきりと
分かれるわけではなく、同時に発生するものですが、その総合力が「勘どこ
ろのよさ」となるのです。

バスケットは、瞬間のスピード勝負ですので、いつも感性=勘を研ぎすまし、一瞬のチャンスに鋭角にカットインする勇気と闘魂を燃やし続けなければ、先んじることはできません。

この鋭角が大事。この感覚が判らない人に名プレーヤーはいません。

丸山先生や高校のコーチ故橋本武二先輩から独自のテクニックを学び、小が大を凌ぐ(すべ)身につけて県や九州を制したのは、我々のほうが敵より一瞬早く動き、勘よくパスやシュートができたからに外ありません。コンビネーションプレーやカバーディフェンスなどは、いかに味方や敵の次のプレーを察知する勘の勝負そのものです。パスするプレーヤーは四つに分かれます。


▽ノーマークになりそうなタイミングでパスを放つ人(一流)


▽ノーマークになったタイミングでパスを放つ人(二流)


▽ノーマークになったのを一瞬見逃し、パスを放つ人(三流)


▽ノーマークに気つかず、パスできない人(四流)


▽ノーマークではないが、空いたスペースにパスを放てる人(超一流か論外か)

 

勝負はすべて、勘によるタイミングと正確さによって決まるのです。

お釈迦様やキリスト、空海が悟りを開いたのも崇高な勘といえますが、勘の働きは、さらに広く、戦争や闘いにおける決断にも表れます。古くは、イスラエルの民を率いてエジプトを出るモーゼの勘、ルビコン川を渡りローマに入るカエサルの勘、桶狭間の戦いを制した織田信長の勘、あるいは、失敗に終わるも黒船に乗り込もうとした吉田松陰の勘・・・。

ビジネスの世界でも、市場のニーズをつかむことは顧客の要望を察知する勘に左右されます。どの新商品を開発するか? どのターゲットを狙うか? どのプロジェクトにいくらで入札するか? 社員の採用などもバックデータや経験に裏打ちされた勘で決めていくのです。そういえば、結婚も恋愛であれ、見合いであれ、勘で決めるものです。


こう考えると、人生とはその勘の鋭鈍・深浅・広狭によって、運命を好転させるプロセスといえましょう。高い理想を掲げ、透徹した勘によって望むべき方向へと展開し、その実現に邁進することが、人生の高揚を促すのです。

【山見博康】