人間が物ごとを判断するには三つの形式がある。
その一つは理性による判断であり、その二つは
五感(目・鼻・口・耳・肌)による判断であり、
もう一つはいわゆる勘による判断である。
(中山盛行『肚と頭と勘』)
スポーツの世界では、勘の良い人と悪い人では
そのまま実力となって現れる。とくに球技の場合
を例にとれば、味方のプレーヤーがボールをもって
いるときに勘のいい人はその動きの先をよんでチャ
ンスを作るが、そうでない人は一瞬遅れる。一言で
いえば「勘=予測能力」の差である。この能力は、
あらゆるものにおいて必要とされる。視野が広い優
れたプレーヤーは、間違いなく観察力が優れ、問題
点把握力に長け、その後の展開予測力が高いという
ことである。
『察知力』を書いたサッカーの中村俊輔選手は、ま
さに超優れた勘の持主。予測能力は質問能力にも通
じるもので、その総合力が「勘どころのよさ」とな
る。つまり、質問が多くできる人は、もともといろ
いろなテーマに関する問題意識を持ち、つねに「な
ぜか?Why?」を連発している人だ。
熟練・熟達していくと、スポーツ・芸術あるいは、
学問などそれぞれの分野での勘はさらに鋭く働
くようになる。その予測によって、自分は不測の
難を逃れることさえできる。とくに横や後ろの気配
を気にするようにすると、日々実践的な修養になる。
それでは、早く気づく人は、勘どころがいい人なの
か?それは必要条件ではあるが、十分条件ではない。
つまり、早く気づいてもアクションが伴うかどうか
はわからない。たとえアクションをとっても、それ
が、その状況に相応しいものなのか、あるいは相手
にとって喜ばしいものなのか?によって、大いに異
なるからだ。
勘向上の必要条件とは:
▽断固たる志(目標)
▽光る才能
▽揺ぎなき情熱と執念
▽持続する愚直さ
▽努力の密度
▽精神の集中力
x好き力。
中学からバスケットボールを始めた私は、恩師故
丸山喬先生の情熱的指導でその魅力の虜になり、今
も週一回若い人とボールを追う“バスケ狂”だ。
それは、高齢でも軽やかにプレーを楽しまれた先生
の姿を追い求めつつ、見えないものに対する勘を、
年のせいで鈍らせないためでもある。
私にとって日々の仕事はバスケの試合。「情報はボ
ール」「世界がコート」そこに「五億人のプレーヤ
ー」がいる。電話や来客・訪問はパスの授受。電話
でボール(情報)をキャッチするや、どのプレーヤ
ーにどんなパスをタイミングよく放つかは一瞬の勘。
顧客訪問はパスと同じ。いいボールをパスし、うま
くシュート(成果)を決めてもらうのだ。
動かないといいボールは来ないし、動いているプレ
ーヤーにしか絶好のパスは通せない。チャンスは自
ら動くプレーヤーにのみしか生まれない。
そこで、緩急つけた一瞬のスピードで動きパスを受
け、シュートしたり、自らチャンスを創り、瞬間に
緩急のパスを放ってポイントゲッター(お客様)に
得点してもらうアシストプレーを心がける。
自らゲットする力がなければアシストもできない。
油断すれば瞬時に抜かれる。そこで、いつも感性=
勘を研ぎすまし、一瞬のチャンスに鋭角にカットイ
ンする勇気と闘魂を燃やし続けなければ、先んじる
ことはできない。
丸山先生や高校のコーチ故橋本武二先輩から独自の
テクニックを学び、小が大を凌駕する術を身につけ
て県や九州を制したのは、我々のほうが敵より一瞬
早く動き、勘よくパスやシュートができたからにち
がいない。
コンビネーションプレーやカバーディフェンスなど
は、いかに味方や敵の次のプレーを察知する勘の勝
負そのものだ。
パスするプレーヤーは四つに分かれる。
▽ノーマークになりそうなタイミングでパスを放つ
人・・・ ・一流
▽ノーマークになったタイミングでパスを放つ人
・・・・・・・二流
▽ノーマークになったのを一瞬見逃し、パスを放つ
人・・・・・三流
▽ノーマークに気付かず、パスできない人・・四流
▽ノーマークではないが、空いたスペースにパスを
放てる人・・・超一流(か論外か。超一流の人は、
飛び込み営業などでとんでもない成績を収める人に
似て独特の勘と嗅覚をもつ)
勝負はすべて、勘によるタイミングと正確さによって
決まる。
ビジネスの世界でも、市場のニーズをつかむことは、
顧客の要望を察知する勘に左右される。
■どの新商品を開発するか?
■どのターゲットを狙うか?
■どのプロジェクトにいくらで入札するか?
社員の採用などもバックデータや経験に裏打ちされた
勘で決めていくのだ。
そういえば、結婚も恋愛であれ、見合いであれ、勘で
決めるもの。こう考えると、人生とはその勘の鋭鈍・
深浅・広狭によって、運命を好転させるプロセスとい
えよう。
高い理想を掲げ、透徹した勘によって望むべき方向へ
と展開し、その実現に邁進することが、人生の高揚を
促すのである。【山見博康】