然るべきときに、然るべきことがらについて、然るべきひとに対して、然るべき目的のために、然るべき仕方において怒るひとは賞賛される。

・・・アリストテレス

『二コマコス倫理学』

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私は、神戸製鋼に勤務していた20代から30代初めまでは、鉄鋼販売部に籍を置き、大阪支社で造船会社などに厚板を販売したり、その後東京鉄鋼輸出部で世界に薄板を輸出していた。そして、中東カタールにおける「カタールスチール製鉄建設プロジェクト」に派遣され、1977年から2年間ドーハ駐在。任期を終えての帰国辞令が「広報担当係長を命ず」であった。まだ、広報の仕事に慣れない

ある日、有力紙朝刊で重大案件がスクープされた。大型国際プロジェクト受注に関する記事で、極秘のはずの内容であった。出所は不明! 直近の役員面談でもこの話は出ていないはずだ。誰が漏らしたのか? どこから漏れたのかなぁ?

 そう思案している時、畑徹課長が新聞を持って立ち上がり、「山見君、一緒に!」私は、あわてて後を追った。役員室までの長い廊下で、「いいか、こんな場合には、まず“私の責任です。申し訳ありません”というんだ。決して言い訳してはいかんぞ」と。そして、トップの前での毅然とした態度に感動を覚えた。「かくあるべし!」使命感と自負心満々たる中にどこか端然たる上司の姿を、私は今でも忘れない。


どこからどんな経緯で出た記事にせよ、報道に関する全責任は広報にある。その覚悟で日々の業務遂行に励まなければならない。「すべて私の責任です」の心構えが持てない人には、広報の仕事のみならず、どんな仕事においても、任務遂行の道程は険しすぎよう。

たとえ、その案件に関する情報が自分とは無関係でも、全責任を負う態度を貫くこと。その自負心をいつでもどこでも発揮する人物は、企業を発展させ、そして救う。こんな人こそ、真のビジネス卓越者に相応しい。逆に、その自信なき人は別の部署で力を発揮する方が会社のため、自分のためである。


どの部署においても「会社を代表しているのは自分だ。この顧客には自分が全責任を負う」との気概を抱いて仕事を進める人は、顧客の厚い信頼を受け、必ずや高い成果をもたらすであろう。


「卓越者 “すべて私の責任です” その自負心が企業を救う」

山見博康


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