「誰もしないような、小さな

つまらないと思えるような仕事をしましょう。

小さすぎるということはありません。

私たちは小さい者ですから、

それにふさわしいやり方で、

ものごとを見ていきましょう。

つまらないと思える仕事が、

私やあなたのする仕事です」(マザーテレサ)

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 「少年よ大志を抱け」(クラーク博士)のように、大いなる

夢と希望を持て!と鼓舞する言葉も多い中、マザーテレサ

のこの言葉が胸に染みたのは、数万人の大企業から10

数名のとあるベンチャー企業へと転身した頃であった。

また、小さな事をしっかりやり遂げることの中に大義がある

ことを学んのもこの頃であった。実際にその場にこの身をお

いたからであったろう。もちろん十分に分かって実践できて

いるとは言えない。

マザーは、マケドニアの修道院から意を決して単身インドの

極貧のカルカッタに渡り、何のつてもないのに、道端の死

に行く人を介抱し、最後に僅かの光明を与えて、安らかな死

の旅路につかせた。1人そして1人と。マザーの言葉に「1人

を助けることができるだけでいい。するともう1人助けることが

出来る。するともう1人・・・」つまり、掛け算ではなく途方も

ない足し算の世界。私も中東カタール駐在中、30年前に、

インド人の採用面接でカルカッタを訪問したので、どんな光

景かありありと思い起こす。死体同然の人が何人も道端に

転がっていた・・・。

近年のITの発達に伴うネットビジネスは、ワンクリックで何

万何十万いや何百万でさえ一挙に伝達する。私の専門で

ある広報の世界としてみれば、これほど有効、効率的な広

く伝える手段はない。文明の利器はありがたく大いに活用

するに躊躇は無用である。しかし、そこに心すべきは大きな

ものを忘れてきていることだ。マザーの1対1に反して1対

無限大である。掛け算どころの話ではない。

人は「個の世界」から「座の世界」、次に「場の世界」と広が

っていくに従って、愚になる。数の増大は、つまり物質的な

増大は、精神の減退を意味する。エントロピーと反エントロ

ピーの法則がまともに効いてくるのだ。広報の世界におい

ても近年のプレスリリース配信主義に対して私は批判を加

え、「1対1で記者に情熱を持ってお話することがべての

原点」と主張している。

「1対1」を忘れてはならない。大衆は「愚」なのだ。つまり、

大衆の象徴である「みんな」ということばを使わないことだ。

「みんな」とは誰なのか?もし、「みんな」と言う言葉を使う

人が居たら「みんな」は誰かを訊いてみるといい。

養老孟司さんが『バカの壁』に「個性というものはない。なぜ

なら我々は生れた時から個性なんだ」と痛快に喝破されて

いる。自分の個のあり方をしかと考えよう。真の教養とはい

かなる状況にあっても、自己の尊厳を崩さない人だ。小さく

ても自分を大切にしよう。自分を大切に出来ない人物に、

人をたいせつに出来ない。その価値が分からないからだ。

「真に大志ある者は、よく小物を勤め、

真に遠慮ある者は、細事をゆるがせにせず」(佐藤一斎)

                          【山見博康】