「決断」とは何でしょう? 「大辞林」によれば
1.きっぱりと心に決めること。
2.是非善悪を見定めて裁くこと。
「決断力」とは「はっきりと決める能力」です。経営者は、常に決断を迫られる、というよりも、決断するのが経営者の仕事といっても良いでしょう。日々刻々、決断すべき物事はユビキタスに飛来する。つまり、いつでも、どこでも、どこからもやってくるのです。
ところが、こちらが決断したいように来てくれれば有り難いが、決断し易いように整理されてやってくるわけではありません。心の準備が出来、「さあどうぞ」と思っていた時には来ない。まったくあてにはならないのが常、意図通りにはならないのです。
物事とは、そのような人の期待・望みにはお構いなく無関係にやってきます。しかも、それはいつも白黒と割り切れるわけではない。どんな物事も混沌とし、複雑に絡み合い、縦横に変化しています。
「行く河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、
かつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたる例(ためし)なし」 (『方丈記』鴨長明)
とあるように、一瞬とも静止せず、一箇所にも留まらず、縦横に流れていくのみです。
経営者は、そんな理非にあわず、自分勝手な物事をどこか決断しなければなりません。それは宿命なのです。ぐずぐずしているとタイミングを逸する。
易経に「至剛至柔」ということばがある。柔に至るような優しい魂にして、初めて真に剛に至るというものです。つまり、
「真に剛に徹しようと思えば柔に徹せよ」(『修身教授録』森信三著)ということです。
「優柔」は経営者にとって必須要件ですが、「優柔不断」となると決断力に欠け、あまりに柔に優れると勝機=商機を取り逃がしてしまうことになるのです。その兼ね合いが経営者に苦悩をもたらし、日夜苦悶の時を経て、苦渋の決断を強いる。自らの統制が利かないところに更なる苦痛が襲うのです。その決断の命運は天のみぞ知ることになる。それを覚悟するのです。経営者の仕事は日々の決断。その巧拙、成否が企業の命運を左右し、また上下させるのです。
決断力は3つに分けられます。
1. ある程度突き詰めて検討したら決断し、実行を重んじる人。
2. 決断に迷い続けて悩み、時間はかかるが決断する人。しかし、まだまだ迷い、時に変更し、また変更する人。
3. 決断できないで時期を逸してしまう人。しかし、しないでよかった理由を考えて自分で納得する人。
決断と実行には一定の度胸がいります。度胸のいい人とは、物事に動じない強い人・胆力のある人です。人はそれぞれ性格がちがうので白か黒かの両極端ではなく、この間のどこかに自分を見いだすもの。どっち寄りがいいのかは、個々の性格や人生観にもよるのです。
私たちは毎秒、毎時、毎日何らかの決断をしながら生きています。そこで自分ではっきりと意識して、素早く決める。一つひとつの決断を何気なくしない。そうしていくと、いつでも決断の訓練となることでしょう。
「慎重であるよりは、果敢であるほうがよい、と断言する。なぜなら、運命の神は女神なのだから、彼女に対して主導権を得ようと思うなら、乱暴に扱うことが必要なのだ。
運命は、冷たいほど冷静に対してくる者よりも、征服したいという欲望を露わにしてくる者のほうに、なびくようである。
要するに、運命は女に似て若者の友である。若者は、思慮に富んでいないがために後々のことなど考えず、より激しく、より大胆に女を支配するからである」
(『君主論』マキアヴェッリ)
【山見博康】