ユニークな文章講座にすくわれて書いてみた(文章講座 2) | 夜明けと雲とすずめ

夜明けと雲とすずめ

楽天ブログでは、日々の備忘録に携帯写真日記「夜明けと雲とすずめ」を書いてきましたが、写真投稿がうまくできなくなり、そのままに。
こちらでは、たまには書こうかな。

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仲谷史子さんの「心に響く文章講座」の紹介頁か何かに「苦手な人にこそ知ってほしいことがある」との一文を見て、ずっと気になっていました。
かつての「好き」が「苦手」になったのがどうしてか、なんとなく分かった気がします。アドラーやロゴセラピーなど心理学を絡めての独特な講義はひたすら面白くて、へええええ!そういえば!の連続、三回なんてあっというま。
習ったことを意識するのは、一気にわいてきたことを書いてしまって、読み返し見直しのとき。勝手にそうなってしまうような不思議な感覚でした。
終わるのはさみしいけど、うれしかった記念に、最後の宿題で書いたものを、備忘録的に。ちょい長いです。
 
小学校にあがって数年、幼稚園が恋しくてならなかった。
毎日、絵を描いたり、歌を歌ったり、好きななことばかりだったから。
本当にいろんな「初めて」があったなあ。
     
                「うらぎり」
幼稚園の年長組になって髪を伸ばしていた。前髪にこだわり、ぱっつんではなく、真中分けして耳にかけられる程度にしていた。そのころ、アグネス・チャンのセンター分けロングが憧れだったからだ。アグネスが下の名前で、チャンがいわゆる苗字だとは知らず、「さっちゃん」「みよこちゃん」みたいに「アグネスちゃん」だと思っていた。
 
ある日、園に着いたら、ゆみこちゃんが寄ってきた。今日は何して遊ぶのだろうと思ったら、「ええもん見せたろか」とれんらく帳からアグネスのブロマイドを取り出した。わあ、アグネスちゃんの写真、いいなあ、羨ましいなあ。
「ええなー。mioもアグネスちゃん大好き」と言うと、ゆみこちゃんはあっさりと
「じゃあ、あげる」と渡してくれたのだった。驚いた私は、本当にくれるの?本当にいいの?と何度も何度も念押ししたが、いいと言う。ありがとう。ゆみこちゃんってなんて優しいんだろう。天にも昇る気持ちってこういうことにちがいない。
帰ったらお母さんに、こんないいことあったと見せよう、早く帰りたいな。
 私はそっと、アグネスのブロマイドを水色のスモックのポケットに入れた。ポケットにはアグネスちゃんがいる。きらいな机運びも、苦手な男の子とペアになってお弁当を食べることも、うきうきしてこなせた。男の子も、その日はわたしにいやなこと言ってこないで、にこにこしていた。うれしすぎて、そんな気がしただけかもしれない。
お弁当が終わって、アグネスをこっそり見ようとポケットを探ったら、ない。
あれ、おかしいな。かばんも探したが、なかった。どうしよう、なくしてしまった。
帰りの先生のお話のため、みんなで輪になって三角座りをしていた。私は元気が出ずうつむいていた。先生の声がする。「落し物がありまーす、これ。だれかなー」顔を上げると、先生が笑顔の横でひらひらさせているのは、まぎれもなく私のアグネスではないか。
ああ、よかった!先生ありがとう。先生とアグネスを中心に、さあっと明るくなったようだった。私は張り切って「はーい!」と手をあげた、そのときだった。
「わたしの!」と大きな声とともにゆみこちゃんが走り出て、先生からブロマイドを取ると、ふくれっ面でかばんにしまった。一瞬だった。
え、なんで?私は上げた手を半分下ろして、先生に向き直り、わたしのだと小さな声で訴えたが、「ゆみこちゃんのだって」と笑顔を残しながらすげない。
舞い上がった気持ちはぺしゃんこになった。ゆみこちゃんのやのに自分のや言うてると、男の子の声がきこえた。
 
お迎えの時間になった。わたしはバスを待たなくてはならないが、ゆみこちゃんはお母さんのお迎えで先に帰る。いま、言わないといけない。アグネスの写真を持って帰るのは私であるべきだ。ゆみこちゃんを追いかけ、息をつめて見上げた。
「アグネスちゃんの写真、くれるって、くれたやん。なんでとるん?」
いつもゆみこちゃんの言うとおりにしてきた私には、それは勇気のいることだった。しかし、ゆみこちゃんはとても低い声で「あげてへんもん」と言うと、お母さんのところへ駈けていった。白いレース柄のタイツの後ろ姿に、どうして?という思いしか浮かばない。同じバスに乗るお友達が「どないしたん?」と声をかけてくれた。
「ゆみこちゃんにアグネスのブロマイドもらったのにな、わたしのって先生に言ったのに、ゆみこちゃんもわたしのって言うてな、とってもてん」こみあげてきて説明ももどかしかったが、なんとか話した。するとお友達はいくぶん静かに言った。
「ゆみこちゃんな、mioちゃんにアグネスのブロマイドとられたいうて、mioちゃんのかばんの中もさがして、ないない言うてたで」
耳を疑った。そんなことがあるなんて。くれたものなのに、とられたと言うなんて。勝手にかばんの中をさがして黙って取り戻そうとしたということなら、それってどろぼうと一緒じゃないの?
涙はおさまったが、ぐすぐずと鼻を鳴らしながら幼稚園バスに揺られた。
 帰って母に話したら、「まあそれは惜しいこと」とちょっと笑っただけで、ゆみこちゃんが悪いとは言ってくれなかった。あんたが喜びすぎたから、いいものあげてもったいなかったと惜しくなったんだろう、うれしがらずに普通にしといたらよかったのに。喜びすぎるのはよくないのだと。
だって、うれしかってんで。喜びすぎたら、なんであかんの?ますます訳がわからず、突っ伏して座布団に顔を押しあてて泣いた。    (mio*)