「雑魚共は俺達に任せて、ソッチは早く終わらせてくれ!」
ドリアン達3人はフライの集団相手に立ち回り
彼等の注意を引き付けてくれている
そう、フライ達の本丸を倒さなければ
今この街で起こる争いは終わらない
シャーベットとコロッケは互いに思考を合わせる様に視線を向け残るα・β隊長格に向かって走り出す
「聞けフライ!コレがお前達が不純と呼び捨てた
我等の絆だ!」
α・βの右腕のマシンガンから放たれる無数の弾の雨をコロッケとシャーベットは避ける
当たれば見る影も無くなる程の鉄のアラレを避けたのには連携による物が大きかったが、2人の内どちらを優先して当てるべきか同時に迫る両者に対し迷いと焦りを覚えた事による要因が大きかった事だろう
数ではコチラの方が圧倒的に勝っている
‥にも関わらず数々の懸賞金の懸かったバンカーを狩ってきた自分達が少数でしかない獲物に捕食者が追い詰められるとは断じて認められなかった
無意識に思考を駆け巡らせる内、目の前に
迫ったシャーベットに左腕のミサイルを向けるもすれ違いざまの攻撃で腕ごと氷漬けとなる
すかさず右腕のマシンガンへ切り替えるも
今度はコロッケの燃える拳が迫りマシンガンを内蔵したガントレットごと鉄拳に叩きつけられ銃身を捻じ曲げられた。
「コレでもう武器は使えない‥仲間達を連れてこの街から去るんだな」
シャーベットの言葉にα・βは立ち尽くすかの様に宙を静止し腕を震わせている、情けを掛けられた上、敗北者としての烙印を押されし屈辱か‥パット見そう思えたが、α・βは高らかに笑い始める
錯乱か‥一瞬でも思わせるその挙動かは想像できなかったのは次のα・βの言葉を聞いた後だった
「勝利は我が手に!」
高笑いと共にα・βの背中から尖った杭の様な物が飛び出すと同時に発たれたソレはミサイル‥
それも腕のガントレットから発した小型の物とは皮革にならない大きさだった
ロケット花火の要領で勢い良く放たれたソレは
コロッケとシャーベットの間を素通る
外した? いやそのミサイルが向かう先を見やる
と避難してる民衆達だ
α・βの狙いは自分たちではなく
守るべき対象たる力無き者達‥一般市民へ矛先を変え凶弾は向かっていく
ジェット型エンジンから噴射されし勢いは凄まじくミサイルを先回りする術がない、そう思考するよりも先に身体がミサイルから民衆を守ろうと動いている
α・βは勝利を確信した表情でコチラを見下ろしていた、シャーベットはコロッケの方をみやると
コロッケはうずくまってその動きを止めた
まさか‥被弾したのか、可能性が過ったほんの一瞬だった。
コロッケの姿が一瞬にして消えると直ぐに
シャーベットは民衆達の方角へと視線を移した
消えた筈のコロッケがミサイルよりも早く
民衆達の目の前にその姿を表したのを見て察した
コロッケの父バーグ究極の技にして
大地より全身に力を注ぐ様、瞬間的に敵を撃ち抜く ”ウードン” だ
瞬間的に移動する技の性質を利用して、ジェットエンジン並の速さを持つミサイルより瞬時に先回りしたのだ
だがその成長を実感させる場合ではない
ミサイルは勢いを維持しコロッケに向かっている、コロッケが叫ぶと共に身の丈程ある木製のハンマーを取り出し
野球バッターの如く、勢い良くハンマーを振りかざしミサイルに叩きつけるとキリモミ状に回転しながら、上空へと鉄塊は打ち上げられた。α・βへと矛先を変えて
予期せぬ結果に恐怖した事だろう
勝ち誇っていた筈のα・βは驚愕の表情と共に発した筈の絶叫が爆音と共にかき消された
凄まじい爆風に地上にも響く
車が燃えながら上空に打ち上げられ、コチラの方角へダメ押しといわんばかりに更なる爆発が起爆剤となり
無情にもビルを崩壊させる
収まる筈だった街への被害はドミノ倒しの要領で被害は更に拡大させトドメを刺す形となってしまった
もう一つ炎に晒されながら落ちてきたのはヘルメット…先程までα・βが被っていた物が残骸である事を物語っていた。
コロッケは愕然とし、その表情を凍り付かせながら
民衆達を見やると全員が恐怖している
その対象は自分達を守る為に尽力していたコロッケ自身にも焼き付け向けられている。
民衆達の内の子供が何か言いたげにコロッケに近づくも母親と思しき女性が直ぐ様抱き上げる
「近づかないで!」コロッケを睨む。
よく見ると全員がコロッケ達に憎悪の表情を向けている。
「今度はお前等が奪うのか!?バンカーどもめ!」
「アレだけ街を滅茶苦茶にして…まだ足りないのか?」
一人一人がコロッケを非難している
合流したダイフクー達もこの状況を
理解仕切れてない様子だった
「‥なぁオイ、心配すんなって
ここで暴れていたバンカーは俺達がみんな‥」
「騙されないぞ‥お前達バンカーは皆、同じだ!」
「返してよ‥私達の暮らしを返してよ!!」
「出ていけ悪魔ども…俺達の街から出ていけぇッ!!」
個々の小さな声がやがて大きくなり
全員が一斉に罵倒し石を投げ始める
「な‥何なんだよ一体‥俺達が駆け付けなきゃ
ここは今頃‥」
反論しようと前に出ようとしたダイフクーの前に
片手を出しシャーベットは静止する
今は。何も言うまい
そう悟るシャーベットの視線はコロッケへ移す。
「コロッケさん‥?」
キャベツもこの状況に耐え切れずコロッケに声を掛けるも、その後ろ姿からは何一つ感情を読み取る事が出来なかった
「行こう‥」そう言ったのはシャーベットだ
「いいのかよ?俺達はただバンカー達から街を守ろうと‥」そうドリアンが問いかけると背を向けたままシャーベットは答える
「我等もまたバンカーだ‥」
何も返せずドリアンは口を閉ざす。やるせない気持ちを押し殺そうとするダイフクー達とは対象的にキャベツはコロッケを心配そうに見守る
一刻も早くこの場から離れなければならない
そう語りかけたその時
先程まで都市機能を失っていた筈の電力が突如として息を吹き返すと、街頭モニターの砂嵐が大きく耳障りの音を立てる。先程まで罵声を浴びせていた市民達は釘を打ち付けられたかの様にモニター方面へと顔を向ける
何が起こったのか、砂嵐が収まるとそこから巨木を思わせる大きな影が映し出されていた…体格的に男である事は違いない、片手に身の丈程ある小槌の様な物をを掲げている。
不安を抱える市民達を他所にモニターの大男は
口を開く
「我は…バンカーの王‥」
男の言葉に一同は耳を疑
バンカー 王 何を言ってるんだ?
不安を隠しきれない彼等のざわつきに対し、男が次に発した言葉はただ状況を見守らざるを得なかった
「お前達バンカーが求めし金貨は‥
我が手中にある!欲望に飢えし者よ‥金貨を欲し
真に望みを叶えたくば”天秤山“に集い我に挑めぇッ!」
男の言葉が紡ぎ終わるのと同時にモニターが再度暗転しその役割を終え、何事も無かったかの様に静寂に戻るとその直後、街に残留していた残りのフライ兵達、
バンカー達が次々と撤退し街からその姿を消す
先程映った男の言葉は定かではない
しかし金貨のワードは聞き捨てられなかったのだろう、街からバンカーは居なくなった
決して埋まる事の無い大きな溝を残して
第一幕 終